上杉山御剣は躊躇しない
第1話(4) 屋上の覚醒
「いや、上の階にもまだいるんじゃねえのか 急ごうぜ!」
勇次はエスカレーターを駆け上がるが、そこで驚きの光景を目にする。
「なっ 妖が全滅している…… 」
「貴様が遊んでいる間にさっさと片を付けておいた。一分半位だったか?」
後ろから上がってきた御剣が淡々と告げる。
「マ、マジかよ……」
「なんだ、新入り、それ位で息上がっているのかよ?」
「待たせてくれますわね……」
「お、お前らまで……もう終わらせたのか?」
千景と万夜が待ちくたびれたという様子で立っている。万夜が御剣に尋ねる。
「姉様、本当にこの方見込みはあるんですの?」
「筋は悪くは無い……まあ、まだ保留の段階だがな」
「上杉山隊、応答するにゃ!」
突然、又左の声が通信機から響く。御剣が冷静に応える。
「こちら御剣、どうした?」
「上越市の商店街で、妖の反応を確認! 億葉が向かっているにゃ!」
「規模は?」
「約二十体! 但し、壬級、癸級に合わせて、辛級も数体混ざっている模様にゃ!」
「……億葉を信用してない訳ではないが、千景、万夜、念の為応援に向かってくれ」
「了解!」
「姉様はどうされるのですか?」
「一応、ここの屋上も確認する。試したいこともあるからな」
「? ……了解しました。億葉の援護に向かいます」
「ああ、頼む」
走り去る二人を見送って、御剣が勇次に告げる。
「では、我々は屋上に向かうぞ」
「ああ、じ、じゃなくて、了解!」
勇次たちは屋上の駐車場に出る。勇次は空を見上げて呟く。
「もう夕暮れ時か……」
「広さは申し分無いな……やはりここで試すとするか」
「試す?」
「準備がある。ちょっとその辺りを見回っていろ」
「へいへい……」
勇次は下を向いて何やらブツブツと呟き始めた御剣と離れて、駐車場を見回すと、止まっている車と車の間に女子高生の姿を見つける。
(買い物客か? あんな所に突っ立って……家族でも待ってんのか?)
勇次が目を逸らした瞬間、女子高生が猛然と飛び掛かってくる。
「 何だ 」
「ち、躱したか……」
「! そ、その手、いや、足か? な、なんだお前 」
勇次は驚く。女子高生の胴体に手足とは別に四本の長い足が生えていたのだ。
「この臭い……お前、私の可愛い子供たちをよくもやってくれたわね……!」
「!」
奇怪な姿の女子高生が鋭い足を伸ばし、勇次を貫こうとしたが、間一髪で駆け付けた御剣が刀でその攻撃を防ぐ。攻撃を跳ね返すと、御剣が叫ぶ。
「鬼ヶ島、距離を取れ! コイツは蜘蛛の妖! さっきの奴らの親玉だ!」
「ええっ 」
「この建物自体を狭世にしていたか、私としたことが気付くのが遅れた!」
「ちょっと待て、妖も狭世を作ることが出来るのかよ 」
「は、そんなことも知らないの? 貴様ら人間を引きずり込むためよ!」
「そういうことだ!」
後退しながら御剣は妖の言葉に頷く。
「あいつ、人の姿をしているぜ! 半妖じゃないのか 」
「半妖なんて半端なものと一緒にしないで頂戴! 私は完全な妖よ!」
蜘蛛の妖はそう叫ぶと、口から糸を吐き出す。御剣が叫ぶ。
「避けろ! 手足を縛られるぞ!」
御剣と勇次は左右に飛び、糸を躱す。勇次が叫ぶ。
「人の姿をしているのはどういう訳だ 」
「人の姿に擬態すると、狩りには何かと都合が良いからね……」
「だそうだ!」
「だそうだじゃねえよ! 肝心なことは全部アイツが教えてくれてんじゃねえか!」
勇次が堪らず大声を上げる。
「さて、どう仕留めようかしら……そうだ、これを使おうかしら」
「!」
「な、何だ 」
駐車場に停めてある車が四台、それぞれの方向から御剣に猛スピードで向かってくる。
「車がひとりでに動いた 危ねえ!」
「蜘蛛の糸で操っているのだろう!」
そう言いながら御剣は軽やかに襲い掛かる車を躱してみせる。勇次が感嘆する。
「す、凄え!」
「ふん、この程度、造作もない……」
「……そりゃあ、そうするように誘ったからね」
「 しまっ……」
御剣の手足が蜘蛛の糸に絡め取られ、体が宙に浮く。
「車を操る糸とは別に薄い糸を張っていたのか……ぐっ!」
「やめといたら? 無理やり引っ張ったら貴女の手足が切れるわよ」
蜘蛛の妖はそう言って笑うと、勇次の方に向き直る。
「厄介そうなやつは捕えた……まずはアンタから狩らせてもらうわ」
「くっ……」
及び腰になる勇次に御剣が声を掛ける。
「鬼ヶ島、落ち着け! そいつは丁級! 下から七番目の妖だ!」
「丁級って上から四番目じゃねえかよ! 不安を煽るんじゃねえ!」
「思ったより冷静だな、良いぞ!」
「何一つとして良くねえよ!」
「ゴチャゴチャと煩いわね……」
「くっ!」
蜘蛛の妖は一瞬で勇次との距離を詰め、その脚を振るう。
「うおっ!」
勇次が仰向けに倒れ込む。
「首を刈ったつもりだったけど……ギリギリで躱しやがったわね。生意気な」
「ちっ! どわっ 」
素早く立ち上がって、背を向けて逃げようとした勇次だったが、蜘蛛の妖が吐き出した糸に絡まれて、再び仰向けに倒れ込む。手足の自由が完全に奪われた状態となった勇次を蜘蛛の妖は見下ろすように立って尋ねる。
「さて、何か言い残すことはあるかしら?」
「……趣味の悪い下着穿いてるんだな、流石は完全な妖さまだ」
「……殺す」
蜘蛛の妖が右前脚を大きく振りかざす。御剣が叫ぶ。
「又左―― 」
「 」
蜘蛛の妖は驚き、困惑する。自身の振り下ろした右手を勇次が口に咥えた金棒で受け止めたからである。蜘蛛の妖は思わず勇次に問い掛ける。
「何……それ?」
「フォッチガフィフィタイ!」
「……成程、車のミラーを通じて、隊舎とやらから武器を送り込んできたってわけね。ただ残念ね、手足が満足に使えなきゃ、限界よね?」
蜘蛛の妖が再び右前脚を振りかざす。御剣が再度叫ぶ。
「鬼ヶ島、怒れ! 先程のやり取りから判断するに、貴様はまだ冷静さを保っている! 妖力をいたずらに暴走させることは無いはずだ!」
「フォ、フォンナコトヲフィワレテモ!」
「姉の行方を突き止めるんだろう! こんな所で死んでも良いのか 」
「 」
「だから、ゴチャゴチャと煩いのよ! 」
蜘蛛の妖の振り下ろした右前脚は空を切る。糸を断ち切った勇次が攻撃を躱したのである。蜘蛛の妖は勇次の顔を見て驚く。
「あ、アンタ その頭!」
「あん? うおっ! な、なんだこりゃ!」
勇次は近くの車の車体に映った自分の頭を見て仰天する。二本の短い角が額の辺りに生えていたからである。御剣が勇次に問い掛ける。
「貴様の名前は 」
「お、鬼ヶ島勇次だ!」
「年齢は 」
「もうすぐ十七!」
「趣味は 」
「えっと……スマホゲーム!」
「好きなセクシー女優は 」
「し……って、な、何を言わせようとしてんだよ!」
「冷静だな! それで戦え! 『鬼の半妖』! 貴様に正におあつらえ向きの武具だ!」
「これは……金棒?」
「そう、鬼と言えば、金棒だ! 『鬼に金棒』! もはや敵は無い!」
「! ナメンな! 」
勇次に襲い掛かった蜘蛛の妖だが、勇次の一振りによって、八本あった手足を一瞬で四本失ってしまった。支えるものを一気に失くし下半身を地べたにつける。勇次は再び金棒を振るおうとする。蜘蛛の妖が命乞いを始める。
「ちょ、ちょっと待った! 鬼のお兄さん! ここで私を生かした方が利口だよ? 私の肉体や血液を調べて、後々の為の研究材料にするのよ。悪い話じゃないと思うけど? それに人間の顔をした私を殺せるの?」
勇次は黙って金棒を下ろす。蜘蛛の妖はニヤリと笑う。
「流石、話が分かるね、気高さで知られた鬼の種族を受け継ぐだけあるよ。さて、まずは脚四本の治療をお願いするわ。それが済んだら知っていることは何でも話すわよ。取り調べは妖道的見地に則って行って頂戴――ね? あら?」
手足の自由が利くようになった御剣が蜘蛛の妖の首を躊躇なく斬り落とした。
「蜘蛛の妖によって犠牲者多数と他の管区から報告があった。貴様を生かす理由は無い」
御剣が納刀すると同時に、緊張の糸が切れた勇次が倒れ込む。
勇次はエスカレーターを駆け上がるが、そこで驚きの光景を目にする。
「なっ 妖が全滅している…… 」
「貴様が遊んでいる間にさっさと片を付けておいた。一分半位だったか?」
後ろから上がってきた御剣が淡々と告げる。
「マ、マジかよ……」
「なんだ、新入り、それ位で息上がっているのかよ?」
「待たせてくれますわね……」
「お、お前らまで……もう終わらせたのか?」
千景と万夜が待ちくたびれたという様子で立っている。万夜が御剣に尋ねる。
「姉様、本当にこの方見込みはあるんですの?」
「筋は悪くは無い……まあ、まだ保留の段階だがな」
「上杉山隊、応答するにゃ!」
突然、又左の声が通信機から響く。御剣が冷静に応える。
「こちら御剣、どうした?」
「上越市の商店街で、妖の反応を確認! 億葉が向かっているにゃ!」
「規模は?」
「約二十体! 但し、壬級、癸級に合わせて、辛級も数体混ざっている模様にゃ!」
「……億葉を信用してない訳ではないが、千景、万夜、念の為応援に向かってくれ」
「了解!」
「姉様はどうされるのですか?」
「一応、ここの屋上も確認する。試したいこともあるからな」
「? ……了解しました。億葉の援護に向かいます」
「ああ、頼む」
走り去る二人を見送って、御剣が勇次に告げる。
「では、我々は屋上に向かうぞ」
「ああ、じ、じゃなくて、了解!」
勇次たちは屋上の駐車場に出る。勇次は空を見上げて呟く。
「もう夕暮れ時か……」
「広さは申し分無いな……やはりここで試すとするか」
「試す?」
「準備がある。ちょっとその辺りを見回っていろ」
「へいへい……」
勇次は下を向いて何やらブツブツと呟き始めた御剣と離れて、駐車場を見回すと、止まっている車と車の間に女子高生の姿を見つける。
(買い物客か? あんな所に突っ立って……家族でも待ってんのか?)
勇次が目を逸らした瞬間、女子高生が猛然と飛び掛かってくる。
「 何だ 」
「ち、躱したか……」
「! そ、その手、いや、足か? な、なんだお前 」
勇次は驚く。女子高生の胴体に手足とは別に四本の長い足が生えていたのだ。
「この臭い……お前、私の可愛い子供たちをよくもやってくれたわね……!」
「!」
奇怪な姿の女子高生が鋭い足を伸ばし、勇次を貫こうとしたが、間一髪で駆け付けた御剣が刀でその攻撃を防ぐ。攻撃を跳ね返すと、御剣が叫ぶ。
「鬼ヶ島、距離を取れ! コイツは蜘蛛の妖! さっきの奴らの親玉だ!」
「ええっ 」
「この建物自体を狭世にしていたか、私としたことが気付くのが遅れた!」
「ちょっと待て、妖も狭世を作ることが出来るのかよ 」
「は、そんなことも知らないの? 貴様ら人間を引きずり込むためよ!」
「そういうことだ!」
後退しながら御剣は妖の言葉に頷く。
「あいつ、人の姿をしているぜ! 半妖じゃないのか 」
「半妖なんて半端なものと一緒にしないで頂戴! 私は完全な妖よ!」
蜘蛛の妖はそう叫ぶと、口から糸を吐き出す。御剣が叫ぶ。
「避けろ! 手足を縛られるぞ!」
御剣と勇次は左右に飛び、糸を躱す。勇次が叫ぶ。
「人の姿をしているのはどういう訳だ 」
「人の姿に擬態すると、狩りには何かと都合が良いからね……」
「だそうだ!」
「だそうだじゃねえよ! 肝心なことは全部アイツが教えてくれてんじゃねえか!」
勇次が堪らず大声を上げる。
「さて、どう仕留めようかしら……そうだ、これを使おうかしら」
「!」
「な、何だ 」
駐車場に停めてある車が四台、それぞれの方向から御剣に猛スピードで向かってくる。
「車がひとりでに動いた 危ねえ!」
「蜘蛛の糸で操っているのだろう!」
そう言いながら御剣は軽やかに襲い掛かる車を躱してみせる。勇次が感嘆する。
「す、凄え!」
「ふん、この程度、造作もない……」
「……そりゃあ、そうするように誘ったからね」
「 しまっ……」
御剣の手足が蜘蛛の糸に絡め取られ、体が宙に浮く。
「車を操る糸とは別に薄い糸を張っていたのか……ぐっ!」
「やめといたら? 無理やり引っ張ったら貴女の手足が切れるわよ」
蜘蛛の妖はそう言って笑うと、勇次の方に向き直る。
「厄介そうなやつは捕えた……まずはアンタから狩らせてもらうわ」
「くっ……」
及び腰になる勇次に御剣が声を掛ける。
「鬼ヶ島、落ち着け! そいつは丁級! 下から七番目の妖だ!」
「丁級って上から四番目じゃねえかよ! 不安を煽るんじゃねえ!」
「思ったより冷静だな、良いぞ!」
「何一つとして良くねえよ!」
「ゴチャゴチャと煩いわね……」
「くっ!」
蜘蛛の妖は一瞬で勇次との距離を詰め、その脚を振るう。
「うおっ!」
勇次が仰向けに倒れ込む。
「首を刈ったつもりだったけど……ギリギリで躱しやがったわね。生意気な」
「ちっ! どわっ 」
素早く立ち上がって、背を向けて逃げようとした勇次だったが、蜘蛛の妖が吐き出した糸に絡まれて、再び仰向けに倒れ込む。手足の自由が完全に奪われた状態となった勇次を蜘蛛の妖は見下ろすように立って尋ねる。
「さて、何か言い残すことはあるかしら?」
「……趣味の悪い下着穿いてるんだな、流石は完全な妖さまだ」
「……殺す」
蜘蛛の妖が右前脚を大きく振りかざす。御剣が叫ぶ。
「又左―― 」
「 」
蜘蛛の妖は驚き、困惑する。自身の振り下ろした右手を勇次が口に咥えた金棒で受け止めたからである。蜘蛛の妖は思わず勇次に問い掛ける。
「何……それ?」
「フォッチガフィフィタイ!」
「……成程、車のミラーを通じて、隊舎とやらから武器を送り込んできたってわけね。ただ残念ね、手足が満足に使えなきゃ、限界よね?」
蜘蛛の妖が再び右前脚を振りかざす。御剣が再度叫ぶ。
「鬼ヶ島、怒れ! 先程のやり取りから判断するに、貴様はまだ冷静さを保っている! 妖力をいたずらに暴走させることは無いはずだ!」
「フォ、フォンナコトヲフィワレテモ!」
「姉の行方を突き止めるんだろう! こんな所で死んでも良いのか 」
「 」
「だから、ゴチャゴチャと煩いのよ! 」
蜘蛛の妖の振り下ろした右前脚は空を切る。糸を断ち切った勇次が攻撃を躱したのである。蜘蛛の妖は勇次の顔を見て驚く。
「あ、アンタ その頭!」
「あん? うおっ! な、なんだこりゃ!」
勇次は近くの車の車体に映った自分の頭を見て仰天する。二本の短い角が額の辺りに生えていたからである。御剣が勇次に問い掛ける。
「貴様の名前は 」
「お、鬼ヶ島勇次だ!」
「年齢は 」
「もうすぐ十七!」
「趣味は 」
「えっと……スマホゲーム!」
「好きなセクシー女優は 」
「し……って、な、何を言わせようとしてんだよ!」
「冷静だな! それで戦え! 『鬼の半妖』! 貴様に正におあつらえ向きの武具だ!」
「これは……金棒?」
「そう、鬼と言えば、金棒だ! 『鬼に金棒』! もはや敵は無い!」
「! ナメンな! 」
勇次に襲い掛かった蜘蛛の妖だが、勇次の一振りによって、八本あった手足を一瞬で四本失ってしまった。支えるものを一気に失くし下半身を地べたにつける。勇次は再び金棒を振るおうとする。蜘蛛の妖が命乞いを始める。
「ちょ、ちょっと待った! 鬼のお兄さん! ここで私を生かした方が利口だよ? 私の肉体や血液を調べて、後々の為の研究材料にするのよ。悪い話じゃないと思うけど? それに人間の顔をした私を殺せるの?」
勇次は黙って金棒を下ろす。蜘蛛の妖はニヤリと笑う。
「流石、話が分かるね、気高さで知られた鬼の種族を受け継ぐだけあるよ。さて、まずは脚四本の治療をお願いするわ。それが済んだら知っていることは何でも話すわよ。取り調べは妖道的見地に則って行って頂戴――ね? あら?」
手足の自由が利くようになった御剣が蜘蛛の妖の首を躊躇なく斬り落とした。
「蜘蛛の妖によって犠牲者多数と他の管区から報告があった。貴様を生かす理由は無い」
御剣が納刀すると同時に、緊張の糸が切れた勇次が倒れ込む。
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