人体強化人間の異世界旅路

鈴木颯手

ケラース教会への襲撃

「アロ村を襲ったのは正解だったな」
「く……っ!」

 サジタリア王国ケラースにある教会。普段と変わらない様子だが、内部は荒れ果てていた。礼拝堂ぼろぼろになり、人々が祈りを込めていた女神像は上半身から上がなくなっていた。あちこちから煙が上がり、地面には教会の関係者が血まみれで倒れている。
 そして、そんな彼らを守るように襲撃してきた吸血鬼との間に入りつつも負傷している為か、膝をつき、吸血鬼を見上げる神父。白い教会服は血でにじみ、ところどころ破けていた。

「とはいえ意外と粘るようでもあるがな」
「ぐっ! ああぁぁぁぁっ!!」

 吸血鬼が足元で膝をつく神父に蹴りを入れる。回避行動すらままならない神父は眼前に迫るそれをただ受け入れるしかできず、叫び声をあげて吹き飛んだ。教会の壁にぶつかり、罅を入れ備品を巻き込んでいく。たった一撃の蹴り。これだけで神父は立ち上がるどころか息をするのも困難なほどのダメージを受けた。それまでに受けたダメージも合わせると意識を手放していないのが奇跡だろう。

「隊長、今のやつでこの教会で動ける奴は全てです」
「よし、いよいよだ。あの男をとらえるぞ!」
「了解!」

 ケラース教会の表側では3人の部下が魔法を使って外に察知されないようにしている。更に人除けの魔法もかけている為一般人が教会に近づくことはない。ナタリーのような実力者なら気付くかもしれないがこのケラースにおいてそういった事が出来る実力者はいない。
 約半年かけて情報を集めて行った今回の計画は今のところ順調に進んでいた。

「でも意外ですね。教会にも戦える戦力はあったと思うんですけど」
「サジタリア王国が惨敗してから各地に派遣されたり徴兵されたりしたからな。大都市ということもあって襲撃を受ける事はないと思っていたのだろうよ」

 それゆえに動けたわけだしな、と隊長は呟く。サジタリア王国の愚かともいえる軍事侵攻の結果、自らの復讐のチャンスが訪れたのだ。なんならサジタリア王国に対して感謝すら感じていた。

「今は先行した同志が捕縛している頃でしょう。あ、ちょうどあの部屋……」

 隊長とともに和人のもとへ向かっていた部下がそう言って部屋を指さした時だった。閉まっていた扉が破壊され、そこから傷だらけになった同志の吸血鬼が飛び出してくる。いや、吹き飛んできた・・・・・・・

「なっ!?」
「ったく、目を覚ましてすぐにこれかよ」

 突然の事に驚き、固まる隊長の耳に青年の声が聞こえてくる。それは自分たちの主を殺し、復讐に走らせた張本人。

「さて、神の試練で得られた力を試すには絶好の相手だな。お前らが何かは知らないが、襲い掛かってきた以上、俺の敵だよな?」

 約半年ぶりに覚醒した和人が破壊された扉から姿を現した。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品