人体強化人間の異世界旅路

鈴木颯手

襲撃を受ける村の裏で

「隊長、勇者はこの町を離れたようです」
「よし、計画通りに動くぞ」

 時は少し遡り、ナタリーがケラースの町を離れた時だった。町の中でも一番高い塔の上から二人の男が立っており、人間離れした速度でケラースの町を出ていくナタリーの姿を見ていた。そして、ナタリーが見えなくなると彼らはその場を離れ歩き始める。

「……隊長、よろしいのですか?」
「何がだ?」
「魔王様に報告をしないで、我々だけで行動していることです……」
「構わない。お前だって同意しただろう? 我らが王を殺したあの男……! あいつを無残に殺すためにすべてを捨てるとな!」
「それは今も変わりません。ですが我々は既に10人ほどにまで減っています。囮をしてくれた彼だって勇者が相手では……」
「仕方あるまい。どちらにしろ我らもすぐに向かうことになる。遅いか早いかの違いでしかない」

 隊長と呼ばれている男はそう言いながら覚悟を決めた目をしていた。生きることをあきらめつつも自らの使命の為に命を捨てる覚悟をしたものの目だった。

「我らが主、ヴァープ様を殺した勇者の付き人の男。あいつを殺すことで勇者に絶望を与えてやる!」

 そのために彼ら、吸血鬼の生き残りは入念な準備を行ってきた。ナタリーの動きを常に監視し、街を出る動きをしないように監視しつつ情報を集めた。いまだ和人が目覚めないこと、サジタリア王国が神聖ゼルビア帝国と魔帝国相手に惨敗したことで国内流通が悪くなっていたことも追い風となった。
 これから旅を続けるには物資が必要だがそれがケラースという大都市ですら枯渇気味になっているのだから。大都市でこれなのだから地方の町や村はもっと悲惨だろう。

「そしてついに我らはこの日を迎えた! 教会を襲撃し、男を捕まえるぞ! そして勇者の前で無残に殺してやる!」
「隊長……。我らも覚悟と準備は出来ています。ご命令を!」

 隊長の部下はそう言って強い意志のもと隊長を見る。気づけば彼の周囲には同胞たる吸血鬼が全員そろっていた。数は10人。大した戦力がない教会を襲うには十分すぎる人数だった。

「よし! 行くぞ! 我らが主の無念を晴らすのだ!」
「「「「「おおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」

 この日、ケラース教会は吸血鬼の襲撃を受けた。

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