人体強化人間の異世界旅路

鈴木颯手

取り敢えずの終結

「終わった」
「お、お疲れ様です……」

 魔物を率いていた吸血鬼を倒したことにより、アロ村を囲んでいた魔物たちは一斉に逃げ出した。もともとナタリーの魔法で混乱状態にあったうえに自分たちのリーダーが殺されたのだ。魔物達に継続して戦闘を行う余裕など存在しなかった。結果、魔物たちは散り散りに逃げ出して周辺から魔物の気配は完全に消え去った。少なくとも数日は魔物が襲い掛かってくることはないだろう。

「魔物は逃げた」
「ということはアロ村の危機は去ったという事ですか?」
「違う」

 村の危機がなくなり、安心したのか笑みを浮かべたアークにナタリーは断言した。そもそも今のアロ村が村として機能するとは思えないとナタリーは思っていた。生き残りはわずか20数名。それも大半が女性や子供であり、アークのように労働力となる若い男性はわずか数人しかいない。外敵から身を守る外壁は破壊されており、村内部の建物も半分が破壊されている。
 誰がどう見ても廃村にしか見えない様相であり復興しようにも労働力がない。完全にてづまりな状況と言えた。

「……そういえばここの教会は?」
「昨日の襲撃で前線に立って魔物を食い止めてくれたよ。遠くから飛んできた矢に射抜かれて死んだけどな」

 更に、魔物が入ってきた外壁の近くに教会があり真っ先に破壊されたとアークは語る。戦力となりえる教会の人間を優先して殺したのだろうと推測出来るが今となってはどうしようもない事だ。今はこの村の状況をどうするかを考えるべきだがアークはそれに答えた。

「俺たちは、ケラースに移住しようと思います」
「出来るの?」
「この人数なら大丈夫だと思います。ケラースは人手が足りないって聞いていたので」
「そう……」

 実際、人手不足である事に変わりはない為受け入れてくれるだろう。しかし、その結果として彼らは散り散りとなりアロ村の再興は完全に出来なくなるだろうがナタリーとしてもそこまで面倒を見る気はない。彼女にとってすぐにでも和人の下に戻りたいのだから。

「私は村の周りを軽く見てくる。……護衛は必要?」
「いえ、流石にそこまでしていただく訳にはいきません。魔物が来ないと分かった以上すぐにでも荷物を纏めてケラースに向かいます」
「分かった」

 アークの指示のもと、荷物をまとめ始めた村人を背にナタリーは身体強化の魔法を再び発動して思いっきり地を蹴った。一瞬にして形式が通り過ぎていくがナタリーは身体強化魔法でともに向上した視力をフル活用して周辺を見回る。魔物に荒らされた形跡はあるが魔物や魔族の気配、姿は無くアロ村は今のところ魔物に襲われる心配はないだろう。それを確認したナタリーは最後にアロ村の様子を見てからケラースに戻るために走っていくのだった。

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