人体強化人間の異世界旅路

鈴木颯手

神の試練~ダンジョン攻略⑰~

 第100階層。そこに一歩足を踏み入れた俺は一瞬にして視界を光で覆われた。光が収まった先に会ったのは天空に浮かぶ円形のステージだった。後ろを振り向けば降りてきたはずの階段はなく下には青い海と緑の大地が見える。どうやらここは遥か上空、若しくはその様に見える地下と言った所か。
 そこまで考えて俺は再び前を向く。そこには恐らくラスボスであろう敵がいた。とは言ってもこれまでのボスモンスターとは明らかに違う。これまでは魔物に分類される者しか出て来なかった。しかし、俺の前にいるのは……。

「鈴木和人。我が神アポロンの命令により貴方を排除する気で挑みます」

 3組6枚の翼を背中に早い神々しく感じる動きやすそうなドレスに身を包んだまさに天使と呼ぶにふさわしい人間がそこにいた。しかし、対峙するだけで分かる圧は否応なしに強者であり、敵であると知らしめてくる。

「我が名はカドミエル。アポロン神に使える天使の一人です。本当は貴方の相手を務める魔物がいたのですがアポロン神の命により私が相手をします」
「天使自らか。これは死ぬ可能性も高いな」

 俺がそう言うとカドミエルは微笑を浮かべていった。

「安心してください。私はこの空間に訪れる為に力の大部分を封じました。それは一定のダメージを受ける事で解除されます。つまりあなたの勝利条件は封印を解除できるダメージを私に与えればいいのです」
「それは理解したが実際にお前の強さはどの程度になっているんだ? 本来の魔物程度か?」
「それに圧勝できるくらいの実力はありますよ。貴方の強さを鑑みるに総合的な実力派互角と言えるでしょう」
「ほう、それだけ分かれば十分だ」

 そう言って火属性の中級魔法を放つ。やっている事は第二次世界大戦時の米軍の火炎放射器並みといった所か。勿論威力、速度はそれ以上だ。

「どうやら戦闘における駆け引きは十分の様ですね。そして変なプライドも持っていない」

 しかし、目の前の天使カドミエルはそれを幾学模様が浮かんだ光の壁を展開して防ぐ。貫通能力はない火炎放射では突破は無理か。それを確認した俺は火炎放射を止めて止まる前にその横から一気に接近する。

「突破は無理と判断してすぐに次の行動に動く。ここまで来ただけの事はありますね」
「っ!」

 俺の接近に対してカドミエルはその場を後方に飛んで離れた。更に背中の羽根を黄金に輝かせると一回だけ羽ばたかせた。すると黄金に光る風が発生し、俺を襲う。まるで実態を持ったように俺に打撃を加えてくるその風を俺は両手で顔を覆いその場で耐える。

「ですがまだまだですね!」
「ぐっ!?」

 俺が防御の態勢に入った瞬間天使は一瞬で俺の懐に入り込み強力な回し蹴りを放ってきた。軽くヒールが入ったブーツがより強力な一撃として俺の腹部に強力な痛みを与えてくる。風には耐える事が出来た俺の体はその蹴りを受けて派手に吹き飛ぶ。そして俺の体が外に出そうになった時、背中に何かがぶつかり今度は背中全体が痛みに包まれた。

「ああ、言い忘れていましたがここは貴方がいたサジタリア王国の遥か上空にある空中闘技場です。流石に上空から落ちられては困りますので端には不可視の壁があります。今後は気を付けてください」

 カドミエルの言葉が遠くに聞こえる。腹部の痛みにそれよりは劣るが範囲が広い背中の痛みで意識が混濁する。成程、流石は天使だけあって実力を封印されていてもかなり強い。素早さの上がる鎧が腹部になかったのがいけなかったか。

「……まだ息はしていますか? 流石にこれで終わりでは私が態々出向いた意味がないのですが……」
「は、言ってくれるじゃないか。俺だってこれで終わるつもりはない。ここまで来たんだ。必ずお前を倒してクリアしてやるよ」

 刀を杖代わりにして立ち上がる。痛みはあるがこれくらい我慢出来る。息をしっかりと整えて俺は精いっぱいの笑みをカドミエルに向ける。

「さぁ、今度は俺の番だぜ」
「そうですか。ならばあなたの実力、期待させてもらいます」

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