人体強化人間の異世界旅路

鈴木颯手

神の試練~ダンジョン攻略⑮~

 第40階層を皮切りにこのダンジョンは牙をむき始めた。

 第41階層。そこは罠と食虫植物、この場合は食人植物というべきか。その巣窟だった。触れれば皮膚すら簡単に溶かす液体を分泌する植物ばかりで敵だけではなく敵が周りにまき散らす液体にすら気を付けないといけなかった。そしてボスは巨大な食虫植物だった。様々な効果を持つ液体をまき散らし俺を殺しかけるほど厄介だったが弱点である火を使って何とか辛勝した。

 第42階層から47階層にかけてゴーレムが出てきた。階層が上がるごとに目に見えて耐久力を上げていき最後には切れ味が半端ない刀ですら抵抗を強く感じる程だった。恐らく普通の刀では切る事すら敵わなかっただろう。それどころか折れるなり砕け散るなりしていただろう。それだけ頑丈で厄介な相手だった。
 第48、49階層はこれまでとは一転して水場のフィールドだった。階層全体が下水道みたいな作りになっていて出てくる魔物もリザードマンやサハギン、ケルピーと言った水場にいそうな魔物が中心だった。ゴーレム程の厄介さはなかったがそれと比較できそうなくらいに強かった。特にリザードマンとサハギンは徒党を組んで連携してくるから余計にそう感じる。
 その二つの階層のボスはクラーケンだった。2層ともそう言う訳ではなく49階層の方はテンタクルスといった感じだったな。ボス部屋は巨大な水場であり飛び石の様に陸地が存在している感じだ。クラーケンはその巨体で重さなど感じないとばかりに飛び上がって陸地ごと捕食しようとして来るのが厄介だった。テンタクルスの方はそんな事はしなかったが顔を出した触手の先には鋭い牙を持つ口がありそれで襲ってきた。数はクラーケンの倍はあったから何度か嚙みつかれたりするくらいには接戦だった。
 最終的に自爆覚悟で雷魔法で感電させて倒す事が出来た。俺の体も大分感電したが水の中にいた2体の方が悲惨だったようで表面は軽く焼けていた。
 このように何とか第50階層までクリアする事に成功した。そして丁度中間地点となる第50階層。ここはまさにその名にふさわしい場所だった。

「はぁっ!」
「ーーーーッ!!!」

 俺の刀の攻撃を防ぎ・・逆に反撃すらして来る相手。俺は一度距離を取り息を整える。トロールと呼ばれるその魔物は見た目からは想像できない程に凶悪だった。いや、見た目からすれば凶悪には見える。だが、その度合いが違う。

「ーー!」
「くっ!」

 俺はトロールが咆哮を上げて魔法・・を放ってくるのを見て回避に入る。トロールが出した火球は自動で俺のいた場所に直撃し地面を破壊し塵にした。上級乃至中級の魔法だろう。明らかに下級ではあり得ない性能だ。
 この通りこのトロールは魔法を使ってくる。それだけではない。定番の再生能力を持ち知恵も働き戦場での駆け引きが上手い。そのくせ近距離では右手の剣と左手の盾を器用に使い、中遠距離では魔法で仕留めようとして来る。そして剣や盾、トロールが着こむ武具が魔道具なのか俺の刀が全く入って行かない。武具がない場所は深々と攻撃が出来るが直ぐに再生してしまう。
 更に魔法は全くと言っていい程効果がない。正確には仕留めきれるだけの威力がないといった所か。第40階層で最初に戦ったミノタウロスを超える実力だ。まぁ、階層が上がっているし妥当ではあるが。
 因みにこのトロールがボスモンスターだ。というか第50階層は階段を下ってきて真っ先にこの部屋にたどり着いた。部屋の奥には次の階層に降りるための階段以外扉などは存在していない。もしかしたら隠し通路があったのかもしれないが。そしてこの部屋に入った瞬間、降って来た階段と降りるための階段がふさがりこのトロールが天井から空いた穴から降りてきたという訳だ。と言う訳で次の階層に行くためにはこいつを倒すしかない。そして今の俺では有効打を与える事は不可能だ。
 ……あまりやりたくはないがダメージを覚悟するしかないな。俺は足に力を入れて最高速度で一気に近づく。それをトロールの視界でやった為トロールは迎撃の動きを取る。右側を後ろに引き剣を真っすぐに俺の方に向ける。所謂突きの態勢を取った。それを見ても俺は足を止めない。まっすぐにトロールに近づいていく。
 そして剣が俺の体を貫くには充分な所まで来た時一気に突く。トロールの筋力を精一杯使ったそれはあっという間に俺の胴体を貫通……する前に俺が横にそれた事で脇腹を掠る。掠ると言っても表皮のみならず肉まで切り裂いたが。わき腹から出血するのを感じるがそれを無視しして懐まで近づく事に成功した俺は武具の隙間、首の所から一気に刀を突き入れた。顎の付け根から入り被っていた魔道具の兜を吹き飛ばしながらつむじ吹きから貫通する。

「ーー! ーーー!?」
「はは、ギリギリだったな」
「ーー……。ーー……」

 トロールは何かを喋りかけるが絶命し後ろに倒れる。それを確認すると俺は懐から回復用のポーションを取り出し半分を飲み、残りを出血している所に直にかける。消毒薬の様に染みるがこれが一番聞きやすいのは何度も受けた傷から検証済みだ。出血は止まり少しずつ肉と皮が再生してくる。完全に回復するまで5~10分ってところか。
 その間俺はトロールの死体に腰かけ息を整えた。今回は大分ヤバかった。ここからは魔道具を持った相手が出てくる可能性もあるだろう。その為にもそう言った物に太古杖キル装備や知識を身につけないといけないな。
 そう思いつつ俺は久しぶりに感じるゆったりとした時間を回復するまで堪能するのだった。

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