対神聖ゼルビア帝国戦争Ⅹ～ライオネス街道野戦Ⅷ～

「漸くか……」

　サジタリア王国国王ダウム・バーヴィック・サジタリアは崩れ行く自軍を見つめながらその様に呟いた。彼の独り言は焦り、国王の指示を求める家臣たちの耳には入っていなかった。だが、彼とて誰かに聞いて欲しいものではなかったため都合が良かった。

「（後はこのまま何もしなければ任務・・は完了し、サジタリア王国は大混乱に陥る。これもすべては魔王様・・・の為に）」

　ダウム、に入れ替わった魔族は心の中でそう言うとぼんやりとその時・・・が来るのを待ちわびる。魔王軍第二将ヤノトの部下である彼はクレイナス死亡の前後に国王を殺し成り代わっていた。そして、魔王軍側の期が熟した頃にサジタリア王国を率いて侵攻するように誘導した。
　エミリーが違和感を感じていた理由はそもそも本人ではなかったのだ。そして、エミリーは違和感を感じながらも遂に判明する事は無く最大の切り札である王国騎士団の権限を失いこうして敵のど真ん中に連れて来られていたのである。

「（後は国王として殺されれば我が任務は完了するな）」

　ダウムに入れ替わった魔族は迫りくる魔族軍を前に目をつぶり全てを受け入れた。

「（魔王様。我ら魔族の悲願を叶えてくれる事を願っております……）」

　魔族はそう呟くと剣を振り上げる魔族の攻撃を抵抗なく受け入れ首を切り落とされるのだった。

「敵の国王を殺したぞぉぉぉっ！」
「「「「「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ！！！！」」」」」

　魔族は雄たけびを上げて周囲の兵士に襲いかかる。国王を失った兵士たちの士気は大きく下がり逃亡する塀が増えていく。しかし、サジタリア王国の不幸は更に続く。

「ガルガ殿にフリードリフ殿下に続くぞ」
「みんなー？　士気を上げて頑張っていこー！」

　新たに幹部となった第五将イグラシアと第六将アダリーシアなどが率いる合計三万の魔王軍が援軍として到着したのである。挟み込むように展開した魔王軍にサジタリア王国軍は絶体絶命の危機へと陥ったのだった。

コメントを書く

対神聖ゼルビア帝国戦争Ⅹ～ライオネス街道野戦Ⅷ～

コメント

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品