人体強化人間の異世界旅路

鈴木颯手

対神聖ゼルビア帝国戦争Ⅸ~ライオネス街道野戦Ⅶ~

 このように、王国騎士団が華々しい活躍を見せる一方で王太子ウィスター率いる中央軍は喜劇とすら呼べそうな程魔王軍の独壇場であった。そもそもウィスターに軍事関連の知識はない。そのくせ見栄っ張りでプライドが高い為彼の出す指示は全て見当外れのものばかりだった。

「殿下! このままでは後方の陣形が崩れます!」
「殿下! 敵将の勢いが止まりません!」
「殿下! このままここに留まるのは危険です!」
「殿下!」
「殿下!」
「殿下!」
「殿下!」
「ああ! もう! うるさいぞ貴様等!」

 ウィスターは自分の下に次々と飛び込んでくる戦況報告に苛立ちを覚えていた。彼にとって自分の指示は完璧でありその通りに動けない兵たちが無能と言う価値観だった。故に、敵の攻撃になんら有効な手を打てず、かと言って本陣を動かす事も出来なかった。
 だからこそ、彼の目の前に敵将ガルガが到着するのは時間の問題だったのである。

「お前が大将だな?」
「き、貴様! 何者だ!」
「魔王軍第七将ガルガ。貴様の首を獲る者だ!」
「ひっ! お、お前ら! こいつを討ち取れ!」

 軽い悲鳴を上げながらその場に尻もちをつくウィスターを守るべく兵士たちが間に入って来る。そして、一斉に攻撃を仕掛けるがガルガが斧で薙ぎ払うとその兵たちは上下に分断された。更に二回、三回と繰り返していきウィスターを守る兵は誰もいなくなった。

「ば、馬鹿な……!」
「ゴルガを殺したというからサジタリア王国の力がどれほどのものかと期待していたが……、どうやら俺の勘違いだったようだな」
「ま、待て! 俺を助けてくれるのなら金をやる! だから……!」
「そんなもので! 俺から逃れる事など出来ると思っているのかァッ!!」

 見苦しく命乞いをするウィスターに苛立ちを覚えたガルガは怒りと共に斧を大上段に構えると一気に振り下ろした。地面を割き、砕き、軽くクレーターを作るその威力に、ウィスターの体は左右に真っ二つに割かれた後、やってきた衝撃波によりバラバラにちぎれ飛ぶのだった。

 ウィスターという総大将を失った彼らはガルガの縦横無尽な動きの前に数を急速に減らしていき僅か百名足らずの逃亡兵を除き全滅する事となった。
 サジタリア王国軍の総崩れの序章であった。

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