人体強化人間の異世界旅路

鈴木颯手

ボラネデ戦2

 ボラネデはマッタンなどの行政官や将官、その家族が住む人が多い城壁内の他に平民が多く住んでいる町が城壁外に広がっていた。その為、ボラネデを完全に守るには討って出なければならない為出陣した。レオル帝国の駐留軍三千にマッタンの騎士たち七千の計一万はタウラス公国軍二万と対峙するべくボラネデから出陣していく。
 一方、海上を進むタウラス公国軍に対してはレオル帝国の海軍は迎え撃つ事となった。レオル帝国が保有する港で最も規模が大きいボラネデに海軍があるのは自然の事であるがそれ以上に他の港では海軍の規模的に収容が難しかったのである。しかし、それが功を奏しタウラス公国の奇襲に難なく対応する事が出来ていた。
 レオル帝国の海軍はタウラス公国より数は少ないが練度においては上であり、更には城壁に設置されたバリスタを流用した遠距離武器も装備していた。このまま何事もなく会戦すればタウラス公国は近づこうとするたびにマスとすら貫通させる威力を誇るバリスタに一方的に攻撃を受けていただろう。最悪の場合、マストを折られ航行不能となり満足に戦う事も出来ずに敗北するだろう。そうなれば地上のタウラス公国軍に海軍をうち破ったバリスタが雨のように降り注ぎ呆気なく撃退されるだろう。



 レオル帝国海軍提督ドル・ヴァウッハはそのように考えていた。陸海問わずに軍人とは思えない肥満体型で疲れる為か椅子に座りつつも汗をかく彼だが見た目に似合わずに知力に長けていた。と言うよりこの体型を直せなかったから知将としての道を歩まなくてはならなくなったと言っていい。だが、それが彼の性に合っており順調にエリートコースを進み近年では海軍においてはナンバー2の地位である提督に昇進していた。
 そんな彼は誰もが醜悪と答えるであろう嫌な笑みを浮かべて指示を出す。

「バリスタ用意!合図とともに一斉射撃を開始する!合図をするまでは決して撃つな!」
「はっ!」

 部下に指示を出したドルは真剣な瞳でタウラス公国の海軍を見る。彼に取って、この状況そのものが奇妙であった。そもそもレオル帝国はタウラス公国より格上であると同時に宗主国である。その国力は斜陽の時を迎えているサジタリア王国や12大国以外の中小国家にボコボコにされたレオル帝国より低い。本来なら絶対にこのような無謀とも言える攻撃を行ったりしない。

「(魔王軍の襲撃と同時のこの攻撃……。奴らは手を組んでいたのか?タウラス公国は未だ魔王軍を支持する勢力が一定数いると聞く。もし手を組んでいたのならこの戦いは厳しいものになるな……)」

 タウラス公国は初代魔王とは友好関係にあった国の跡地に建国された国家だ。そのため、魔王に対して有効的な者が多かった。レオル帝国の属国となってからはそう言った者は弾圧の対象となっていたがレオル帝国が直接調べたのにも関わらず発見したのは二桁程度でありそれも末端ばかりであった。

「(もし、魔王軍から何かしらの援助を受けていたのなら……)む?」

 そこまで考えた時だった。ドルが考えている発射位置に敵船団がやってきた。一当てすれば敵の事も分かるだろうと考えたドルは右手を上げると発射の指示と同時に降ろすのだった。

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