人体強化人間の異世界旅路

鈴木颯手

魔王のお茶会1

「……」

 魔王が支配する地域にあるラ=サルヴァークの魔王城。その最上階付近にあるテラスにて魔王、ルグス・フォウル・ヴァウッシュ=ゼーゲブラストは不機嫌な表情で自身の目の前に座る人物をはんば睨みつけるように見ていた。ルグスの視線の先には絶世の美女と言う言葉がぴったりな女性が座っており優雅な手つきで入れられたお茶を飲んでいる。
 どこか鉄臭いお茶の匂いに眉を顰めつつルグスは問いかける。

「何のようだ?」
「あら?早急に物事を進めようとするのはどうなのでしょうか?先ずは優美な会話を行うべきではありませんか?」
「貴様と話すだけでも嫌なのにそれ以上の時間を取られてなるものか」
「ふふ、相変わらずせっかちさんですね」

 エイザ=ルートを除くすべての魔王軍が卒倒しそうな覇気を出しながら睨みつけてくるルグスに平然と答える女性。ルグスの実力を知る者からすればそれだけで彼女がただモノではない事に気付くだろう。
 女性はやれやれと息を吐くとルグスの目を見る。ただそれだけの事ではあるがルグスは不快そうに、だがどこか辛いような顔をしながら視線を下に向ける。まるで顔を合わせないようにしている様だった。

「先ほどまではあんなに睨みつけて来たのに私が視線を向ければ視線を逸らすのですね」
「……うるせぇ。さっさと要件を言え」
「……まぁ、いいでしょう」

 女性がそう言うと再び視線を下に戻す。それを確認したルグスは再び睨みつけるように女性を見る。

「貴方の配下の……、ヴァンプ?でしたっけ?」
「ヴァープか?」
「そう、それです。彼がケラースにいるようですが貴方の差し金ですか?」
「ああ、俺の部下を殺した奴を追わせているからな」
「そう言えば幹部を二人失ったのでしたね。ご冥福をお祈りいたしますわ」
「やめろ。虫唾が走る」
「そうですか?なら構いませんが。それで、ケラースの街で騒ぎを起こすのは止めて欲しいのですよ」
「は?貴様に指図される謂れはないぞ」
「理解しています。ですが、その西で遂行中の作戦が最終段階に来ております。ここで余計な事をされて支障をきたしたくはないのですよ」
「西?……ああ、なるほどな」

 女性の言葉にルグスは納得する。と、同時に彼女の要望を態々聞いてやる必要性もなかった。そう思ったルグスは小ばかにしたような表情をして言った。

「断る。と言ったらどうする?」
「こうします」

 ルグスの言葉に素早く返答した女性は左腕を植物の茎に変形させると腕の部分から生えてきた食虫植物のような口を開きルグスの上半身を飲み込んだ。

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