人体強化人間の異世界旅路

鈴木颯手

天使の降臨祭6

「ふぅ、さっぱりしたな」
「……ほっこり?さっぱり?そんな感じ、がする……」

 俺は風呂から上がりそう呟いた。ナタリーも無表情を崩して少し嬉しそうにしている。見てわかる程上機嫌だ。俺もナタリーも風呂は初めての経験だったがこれは良いな。明日も入れると思うとワクワクする。
 そして、入っていて気付いたのだがメイアちゃんが外で火の様子を見ているという事はなかった。一体どうやって沸かしているのだろうか?異世界特有の魔法によってなのだろうか?魔道具と呼ばれる物もあるしそれを使ったのだろうか……?
 そんな疑問を持ちながら着替えて脱衣所を出て居間に入るとメイアちゃんがいた。こちらに気付いたらしいメイアちゃんが笑顔を向けてくる。

「あ!カズトさん。どうでしたか?」
「ああ、凄く気持ちよかったよ。これなら毎日でも入りたいくらいだ」
「そうですよね!私も昔から入っていたので今では入らないと落ち着かない程なんですよ~」

 メイアちゃんは上機嫌でそう語る。お風呂の良いところは体の芯まで温まる事だな。きちんと体を温めて置けば冷え性にもならないしな。まぁ、入りすぎてのぼせたり濡れた体をきちんとふかないと風を引いてしまう原因になっちゃうけどな。

「それじゃぁ、次は私が入ってきますね。……覗かないでくださいね?」
「いやいや、流石に覗いたりなんてしないよ」
「……」

 メイアちゃんの言葉に俺は反論する。隣にいるナタリーがこちらに厳しい視線を向けてきているのが分かるがさすがに覗くまねなんてしないよ。だからナタリーさん、僕の右腕をつねらないで。地味に痛いから。

















「猊下、今年の天使の降臨祭も例年と同じくらいの賑わいが期待できそうです」
「それは良かった。天使の降臨祭は我らにとって年に一度の大行事ですからね」

 ケラースの郊外に経つ白を基調とした教会で二人の男性が話していた。猊下と呼ばれた男性、ケラース教会の司教は穏やかな笑みを浮かべながら報告をしてきた男性、助祭にそう言った。
 天使の降臨祭は基本的にケラース教会が中心になって行われる。その歴史は古く、祭りが始まった時には準備を手伝う組織の一つだった。今ではケラースの街では唯一サジタリア王国には所属しない中立の公式組織である為祭りの中心になっていた。

アポロンサジタリア王国王都の方ではいろいろときな臭い事があったようですし人々の気持ちを高める事になればいいのですが……」
「そうですね。……そう言えば本部より報告がありました。ヴァーゴ王国と西方魔族連合が戦ったそうですよ。特にヴァーゴ王国は勇者も投入した大規模な物だったそうです」
「何と……!あの美しき方が……。それで結果はどうなったのですか?」

 助祭の言葉に司教は言いにくそうに顔を歪めながらぽつりと言う。

「……ヴァーゴ王国の大敗だそうです。勇者も顔に大きな傷を受けたと」
「まさか!勇者は人間の中でも強者の者達ですよ!?そう簡単に敗北するはずが……!」
「相手は貴族風の少年だったそうです」
「少年……?ま、まさかセルゲイですか!?」
「おそらくそうでしょう。ヴァーゴ王国は報復戦争の準備をしていますが確実に敗北します」
「相手がセルゲイであるなら確実でしょうな……」

 事態の深刻さが分かる二人は苦虫を嚙み潰したような表情をする。それだけセルゲイと呼ばれる存在が危険であった。司教と助祭が所属する教会が魔王軍よりこちら西方魔族連合を警戒するくらいには。

「……加えて、リブラ帝国に派遣されたハバト殿が重傷を負ったそうです」
「ハバト様が……?」

 ヴァーゴ王国の勇者に関しては大して知らないがハバト・マケイラに関してはリブラ帝国に向かう際にこの街を通った為一度顔を見ていたことがある。とてつもない力の持ち主だけに重傷を負うなど信じられなかった。

「ええ、どうやらキレナイ公国の戦士たちはそれだけ強くなっている様です」
「……」
「レオル帝国でも勇者ナタリー・ダークネスが行方をくらましたそうです。四人の勇者のうち二人が怪我で動けず一人は行方不明。最後の一人も……」

 司教の最後の言葉に助祭も納得する。スコルピオン帝国にいる勇者はそれだけ問題があったのである。

「……この事態に魔王軍や西方魔族連合が大きく動けば最初の魔王誕生の時と同じくらいの混乱を人々に与えるでしょう。もしかしたら【最悪の時代】が再び到来するかもしれませんね……」

 司教の言葉に助祭は何も言えずに黙り込むしかなかった。

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