人体強化人間の異世界旅路

鈴木颯手

裏側で

「何処の馬の骨とも知れない者を貴族に、それも土地持ち貴族にだと?あり得ないぞ!」

 サジタリア王国の軍事関係を一手に引き受ける軍務卿は王城にある自室にてそう怒鳴っていた。当初サジタリア王国国王は和人たちに爵位と領地を与えてこの国に尽くしてほしいと考えていた。しかし、それを止めたのは軍務卿などの王城に今いる貴族たちであった。
 サジタリア王国において土地を持つ貴族は少ない。大半が王城や周囲の土地持ち貴族に仕えており土地持ち貴族はエリート貴族の様なものだった。
 にも関わらず国王はたった一度の功績で爵位と領地を与えようとしていた。これを軍務卿や貴族たちは快く思っていなかった。その為国王に進言し金貨での褒賞となったのだ。とはいえ軍務卿はそれすら嫌だったのでサジタリア王国の貨幣で払えば良いと思っていた。因みに軍務卿が考えていた貨幣は旅立つ和人にレナード・ウィルトニアが与えた貨幣より少し多い程度だった。もし軍務卿の思い通りになっていたら和人はレナードに会う以外でサジタリア王国を訪れることはなくなっていただろう。
 加えて軍務卿が進めていたスコルピオン帝国への圧力はレサト郊外の野戦でサジタリア王国の軍勢が敗北したことで事実上失敗していた。更にその報復とばかりにレサトから敵軍が越境しアレフ郊外まで侵攻していた。都市を落とすつもりはないようだがアレフ周辺の道が使えなくなっていた。
 軍務卿は上手く行かない現状に苛立ちを覚え再び怒鳴り散らすのだった。














「カズト・スズキ……」

 サジタリア王国の王城の一室にて一人の少女が紙の束を見ていた。そこには今回の反乱に関する報告書が書かれておりその中の一文、『カズト・スズキの協力により反乱を鎮圧した』と言う部分に注目した。

「……彼をこの国にひきこめないかしら」

 少女は自らの知能をフル回転させて考える。自らの安寧の為に、贅沢できるように。少女、サジタリア王国の第二王女エミリー・フラン・サジタリアは笑みを浮かべた。

「まずはその同郷の人・・・・に会わないといけませんね」

 転生者・・・である彼女は早速行動を取るべく自らの自室を出ていくのだった。

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