人体強化人間の異世界旅路

鈴木颯手

王都アポロン

 アレフを出発した俺たちは一日かけて王都アポロンへと到着した。アレフに比べれば少し規模が小さいように見えるが王都として見れば十分とも言える規模ではあった。

「だが……」

 俺は都市を囲む壁を超える為に出入口の門の周囲にはボロボロの服を着た者達が大量にいた。彼らは木材などでちょっとした街を形成しており俺たちの方を羨ましそうに見ていた。

「あれは一体……」
「……難民?貧民?そんな感じ。だと思、う」

 ナタリーの言葉に俺はもう一度彼らを見る。サジタリア王国では都市に入る際にある程度の金をとられる。決して安くはない額だがレナードさんから貰ったお金で問題なく入ることが出来た。……彼らはきっとその金も払えない上にここ以外に行くところがない人たちなのだろう。
 元の世界でも中東や東南アジアなどで難民の問題はあった。あの世界よりも文明が低いこっちの世界なら当たり前の光景なのかもしれない。

「……ダメ」
「……分かってる、よ」

 俺の考えていたことを察したのかナタリーが止めに入った。勿論俺もそんな事をするつもりはない。そんな事をしても大量にいる彼らを救う事など出来ない。中途半端な行いは時として相手を傷つける行為になる。最後まで責任が持てないのなら最初から手を出すべきではない。

「……王国の光と影、か」

 俺はそう呟くと彼らの視線から避けるように金を渡して王都の中へと入っていくのだった。














 アポロンを囲むように形成されたスラム街には凡そ千人ほどが住んでいる。彼らは王都を訪れる者たちに様々な物を売ったりして金を手に入れて彼らと取引をしてくれる商人から食料を買ってその日その日を暮らしていた。例え王都に入れるだけの金銭がそろっても彼らは入ることが出来ない。恰好からしてボロボロの彼らでは王都の気品を損なうとして門兵に通してもらえないのだ。
 しかし、彼らはここ以外に行くところがない。ここにいるのは重税に耐え切れずに逃げてきた者たちや周辺諸国の侵略により家を失った者達といった行くあてのない者たちばかりだった。

「お母さん……」

 必死に母を呼ぶ少年、レンもその一人で彼は数か月前にこの地にやってきた。レンは何故か使える・・・・・・魔法を用いて商人や旅人から芸を披露したり綺麗な水を提供したりして金銭を得ていた。レンの母親は病弱であり商人が高値で売ってくれる薬で今まで永らえていた。
 しかし、今日母親は息を引き取った。13になったばかりのレンを一人この世に置いてきぼりにして……。

「……どうして。どうしてなんだよ!」

 レンは心から叫ぶ。自らの境遇を、母親の死を。

「許さない……!」

 レンは決意する。この国を変えると。この国を倒し理想郷を作って見せると。
 それがこの世界に転生・・した自分の使命だと。

 レンはこの日より力を蓄え王国打倒に向けて動き出すことを誓った。和人たちが王都アポロンを訪れる10年前の話であった。

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