愚者①

　スコルピオン帝国遠征軍がレサトに到着したのは丁度和人がアレフの街を出発した時であった。
　しかし、早速レサトへの攻撃を開始しようとしたアバールだったがその行く手を阻むようにスコルピオン帝国軍が待ち構えていた。その数は1万3000。僅か3000の差だがスコルピオン帝国とサジタリア王国では大きく練度の差が存在している。その為この差は数以上の差を起こしていた。
　有能な指揮官なら確実に引き返すべき局面だがアバールは違った。

「たかが・・・3000の差だ！スコルピオン帝国など踏みつぶしてやれ！」

　アバールの無茶な指示に誰もが引き返すべきと言うがアバールは聞き入れなかった。兵たちも一縷の望みにかけてスコルピオン帝国軍と対峙する。

　サジタリア王国軍は左翼に王国騎士団、右翼に貴族軍が展開し中央にはアバール子飼いの赤狼騎士団が布陣した。本来なら最も練度の高い王国騎士団を中央に置くべきだがアバールは自身の兵を優遇し王国騎士団を追い払うように左翼へと追いやっていた。
　王国騎士団もこの動きに何となく察していたため特に混乱はなかったが一人声に出して不満を表す者がいた。

「どうして僕たちが左翼なんだよー！中央じゃないのー！？」
「団長代理・・・・、落ち着いてください」

　自分の身長並みに巨大な剣を背中に背負ったその少女、ミュレイ・ムー・ラングルトは駄々をこねる子供の様に不満な様子を隠すことなく表している。そんなミュレイを団員たちが宥めているが一向に収まらない。しかし、それも両軍の布陣が完了すると次第に収まっていった。彼女にとって自分の我儘を通して多大な迷惑をかける訳にはいかないという思いがあった。
　そして目を赤く腫らしたミュレイは眼前の敵を睨むように見る。

　王国騎士団と対峙しているのはレサトの駐留軍であった。国境線沿いの都市の軍の為練度は高く2倍の軍勢と言う事もあり王国騎士団の苦戦は免れない相手だった。
　一方で残りの戦線は数の上では同数であったが練度面で見れば大きく劣っている状況だった。
　ミュレイはこの戦いには勝てないなー、と考えながら動き出した敵に合わせて進軍を開始するのだった。