準備

「報告します！レオル帝国軍約一万こちらに向けて進軍してきます！」

　結局、レオル帝国軍は退かなかったか。流石に代理を立てて向かってくるよな。

「直ぐに迎撃の準備を！本国にも援軍の遣いを送って！」
「はっ！」
「砦の扉は塞ぎ土塁や木材で補強して！それと上から油などを落とす用意を！」
「はっ！」

　レナードさんの指示が矢継ぎ早に飛ぶ。流石に一騎士団の団長を任されているだけの事はあり敵襲にも動じずに指示を出している。
　さて、俺はどうしようかな。一般兵と共に戦ってもいいけど流石に難しいだろうし……。この砦には二千人しかいない。籠城するだけなら暫くは持つだろうけどサジタリア王国の上層部があれでは絶対に援軍は来ない。つまりここでレオル帝国軍を退けるか自分たちが退くしかない。しかし、前線基地を放棄すれば糾弾されるのは間違いない。そうなればレナードさんは処刑や騎士団の没収もあり得る。
　やるならスナイパーライフルによる指揮官の狙撃だけど、余程の馬鹿でもない限り警戒しているだろうな。前回の様に五千人切りをやるか？……いや、流石に無理だ。五、六千ならいけるがそれ以上は体がもたない。

　……詰んでるなぁ。

　俺は心の中でそう呟く。こればっかりはどうしようもない。レナードさんには悪いが最悪の場合逃げる事も考えなければ。折角、組織からの拘束もなくなったんだ。せめて寿命が来るまではこの世界を見て回りたい。その為にもここで死ぬ事なんて出来ない。

「和人さん」

　ふと、レナードさんに呼びかけられた。何だろうと思いそちらに顔を向けると真剣な表情をしたレナードさんがこちらを見ていた。

「どうしました？」
「……和人さん。和人さんにはこの最悪の場合この砦から逃げてもらって構いません」

　レナードさんの口にした内容は今まさに俺が考えていた内容と同じであった。

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