人体強化人間の異世界旅路

鈴木颯手

対決!レオル帝国後編

「進めぃ!我らが皇帝陛下に吉報を届けるのだ!」

 帝国軍の将軍ゾン・ヒヒハトは大気が震えるほどの声量でもって自軍に発破をかける。既に目標のベアード砦は目視にて確認できる位置まで来ており攻城兵器を砦に張り付けるために歩兵や弓兵が前に出て砦に牽制攻撃を開始し始めていた。
 僅か5000の帝国軍だが魔王軍の魔物や東から挑発を繰り返す神聖アンドロメダ帝国との紛争によって鍛えられている。また、ゾン・ヒヒハトも自ら前線に立ち敵を打ち倒してきた猛者でもある。魔物の脅威を感じない斜陽の王国の兵に負けるはずがないという自負があった。
 そしてベアード砦からも矢の雨が降って来る。歩兵たちはそれを盾で防ぎながら弓兵の援護を行い弓兵は歩兵の盾に隠れながら砦の兵に向かって矢を放つ。高低差の関係で帝国軍の矢はあまり当たらないがそれでも相手の動きを阻害させる力はあった。ベアード砦からは矢の攻撃も散発的になり攻城兵器が到着する頃にはほとんど矢が降って来ることはなかった。

「ふん、敵は逃げたか。兵士たちよ!敵は我らに怯えて砦に引きこもっているぞ!一気に攻勢をかけるのだ!」

 ゾン・ヒヒハトの言葉に帝国軍は雄たけびを上げる。攻城兵器が到着すると梯子型の場合はその近くに、破城槌型なら門の周辺に集まった。そして、今門に向けて破城槌が打ち付けられそうになった時にそれは起きた。門が突然開きそこからベアード砦の騎士たちが出てきたのである。士気高い彼らは門の周りにいた帝国軍を切り伏せながら破城槌を奪い取り砦の中に運んでいく。
 その一方で曲刀のような剣を持った者を中心に帝国軍の波の中を突き進んでいる者もいた。その数は数百程だが先頭の男を中心に精鋭で固められており帝国軍を難なく切り伏せていた。それを見たゾン・ヒヒハトは不快を隠そうともせずに眉を顰め大声を上げた。

「何を手間取っている!そいつらを囲んで殺せ!四方八方から攻撃するのだ!」

 ゾン・ヒヒハトの命令を実行しようと帝国軍は動き出すが密集している為上手く動けなかった。更にゾン・ヒヒハトが声を上げたため指揮官の位置もバレるというおまけまでついて。指揮官の位置を確認した男、和人は一気に駆け抜ける。帝国軍の隙間を流れるように進む和人に帝国軍も応戦しようとするが剣を向けるころにはその場におらず密集している事もあり剣がぶつかり怪我をする者も現れ始めた。帝国軍の混乱はそのままベアード砦の騎士たちの優勢を決定づけることとなり帝国軍が持ってきた攻城兵器は奪われるか破壊されてしまった。ベアード砦は頑丈な砦である。攻城兵器なしでの攻城戦はほぼ不可能と言え、今回の作戦の失敗を意味していた。
 その事に気付いたゾン・ヒヒハトは顔を真っ赤にして叫ぶ。

「ふ、ふざけるな!我が帝国軍がこんな斜陽の国に……!」
「相手を最初から侮っていたら勝てる戦いも勝てないぞ」

 怒り狂うゾン・ヒヒハトは見知らぬ声を聴いたが直ぐに胸から生えてきた剣、刀によって激痛と共に意識を奪われたためそれが誰なのか知ることはなかった。
 帝国軍の指揮官を打ち取った和人は周囲の兵を対象としマシンガンを放つ。薙ぎ払うように放たれたそれらは周囲の兵を殺し本陣の指揮能力を奪っていった。
 本陣を壊滅させた和人はそのまま反転し帝国軍の後方からマシンガンを放つ。たった一人で行われる圧倒的な殺戮に帝国軍は一気に総崩れとなった。

 

 レオル帝国による突然の襲撃は将軍ゾン・ヒヒハト以下指揮官の全滅と3000もの兵の損失と言う形で幕を閉じたのだった。

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