青春クロスロード

Ryosuke

すみれのダブルデート大作戦⑩ ~進撃の剛、再び~

 一方で三佳との奇跡的な関係修復に成功した剛はそれから精力的に三佳へのアプローチを続けていた。

 剛の怪我は予想通り全治3週間の捻挫だった。ただし、足を酷使するサッカーとあって全力でプレーするには経過観察が必要で最低1ヶ月は運動を控えた方が良いというのが現状での医師からの診断だった。ただ数日程で自力で歩けるようになったため、現在では松葉杖を使わずに通学している状態にあった。また剛は一日でも早く直したいと懇願したところリハビリを受けることになり、授業が終わるとすぐに通院すると言った日々が続いていた。

 その状況は普通の高校生であれば、生活が制限されて鬱屈な日々にウンザリする人がほとんどであろうが剛は違った。なぜならば、この通院は剛にとって片思いをする三佳に堂々と会うことが出来るまたとない機会だったからだ。剛はお互いにリハビリに通っていることを利用して振られる前以上に多くのコミュニケーションを取ることに成功していた。

 リハビリを開始してから1週間、この日も決まった時間に決まった場所で三佳とともにリハビリの順番を待ちながらたわいもない世間話に華を咲かせていた。

「いや~今週もあっという間だったね。学校行って、病院に来てそれでもう気がつけば金曜日の夕方だよ」

 剛のすっかり慣れた雑談の問いかけに三佳が慣れたように返事した。

「本当だね~。私なんてもうそんな生活が3週間続いているよ。さすがに少し飽きて来ちゃったよ。剛君も早く体動かしたいでしょ?」

「そうだね、だけど今我慢しないと後を引くって言われたらしょうが無いよな。部活の皆には迷惑掛けるけど今は我慢かな。それに俺は意外と楽しいというか、なんとうか・・・・一人だったら退屈だけど、こうして三佳ちゃんと毎日会えるから割と悪くないというか、むしろ嬉しいというか・・・・」

 途中から自分で言っていて照れくさくなった剛がごにょごにょと話している様子を不思議そうに見ていた三佳が話題を替えようと言った。

「どうしたの、ツヨポン?それよりも今話題になっている映画のこと知っている?クラスの子が話をしていて私も気になっちゃってさ。ディズニーのアトラクションが舞台の話なんだって。なんか面白そうだよね」

「あぁ確か『パイレーツオブカリビアン』だよね。拓実とエリカが今度見に行くって言っていたな。三佳ちゃんも好きなの、そう言う映画?」

「あぁ、うん。普段はあまり映画とかドラマは見ないんだけど、こうも部活もなく時間があると時間を持て余しちゃってさ。それで最近はDVDとかでよく映画見ているんだよね」

 三佳は足のリハビリのせいで部活に行けなくなっている今日この頃、今まで興味を持たなかった映画鑑賞に時間を費やすようになっていた。それは部活一筋で生きてきた三佳にはこれまで知ることなかった事を映画を通して知る良い時間となり、三佳の中に新たな何かを生み出すきっかけになるのであった。

 そんな時にすみれと忍が何やら映画の話をしていたのを思い出し、剛との雑談の話題にと思いふと話したのであった。

 ちなみに三佳を取り巻く女子達の関係は以前と少しだけ変わっていた。エリカには怪我の事を話しており、その事を知ったエリカがすみれと忍には少し疲れているようだから三佳をそっとしておくようにと話していた。もちろん仲違いしたわけではないので、学校生活の面では今まで通りのやり取りを保っていたが、プライベートの部分では少しだけ距離を取っている状況だった。そのためすみれや忍が一と二郎とダブルデートで今週の日曜日に映画を見に行くなど知るよしもなかった。

一方長い通院生活で三佳が退屈をしていると感じ取った剛は、何気なく言った三佳の言葉がその映画を見に行きたいと言っているように聞こえたのだった。そんな勘違いをした剛は「いつ言うのか、今でしょ!」と心の中で葛藤した末に思い切って言った。

「あの、三佳ちゃん。もし良かったらその映画を一緒に見に行かないか。今は二人とも運動は出来ないしあちこち歩き回るのも良くないけど、映画なら座って楽しめるし、たまには映画館でド迫力の映画を見るのも、良い気晴らしになるかと思って。どうかな?」

 剛の申し出に驚きを見せるが、少し嬉しそうな表情で返事をした。

「え、でも・・・うん!そうだね。それ良いかも。小学生の時以来映画館なんて行ってなかったら楽しみかも!!でも、良いの?私なんかと一緒で、もしかして気を遣わせちゃったかな」

「え、良いの!本当に!むしろ三佳ちゃんと一緒だから良いんだけど」

「え?」

「え、いや、違う、違わないけど違うんだ。俺もその映画のことが気になっていて一緒に見に行ける人を探していたんだよ。拓実もエリカもデートで行くのに邪魔は出来ないし、それで三佳ちゃんが良ければ一緒にと思って」

 剛のあたふためく様子に三佳は小さく笑いながら言った。

「ふふふ。ありがとうね、誘ってくれて、私も一緒に行く人がいなかったから嬉しいな。それでいつ行こうか」

「そうだね。どうせなら今週の日曜日なんてどうかな」

「うん、予定もないし私は大丈夫だよ」

「そっか、分かった。それじゃチケットが取れたら時間とか場所を連絡するよ」

「うん。よろしくね」

 三佳は一度自分に告白をしている相手である剛が自分を映画に誘うと言うことは、それはデートの誘いだと言うことにワンテンポ遅れながらも気がついていた。それでも以前のように狼狽えることなくその誘いを素直に受け入れることが出来ていた。それは少ない時間とはいえ、同じ境遇で怪我に苦しむ気持ちを共有し、毎日会って話す世間話やちょっとした愚痴を言い合う相手として剛のことを以前よりも親近感を持てる相手と認識することが出来たからだった。そんな相手からの好意は三佳に取っては重荷ではなく、心をぽっとさせる心地よいものとして受け止めることが出来たのだった。

 こうして剛は思いもせずに三佳との念願のデートを実現させて、練習試合で決めることの出来なかった3点目のゴールを奪い、ハットトリックを決めた時にやろうときめていたゴールセレブレーションのゆりかごポーズを心の中で全力で行うのであった。またあのとき自分にスライディングをした後輩の中澤に今度何かを奢ることも心に誓うのであった。

 それから剛が予約できた映画のチケットは立川上映のモノだった。なぜなら二人の最寄りの調布駅の映画館は予約が一杯になっていた為、何とか探し当てたのが立川の映画館だった。

 またレベッカパパの入手したチケットも立川上映であり、もともと立川でダブルデートを計画していた二郎達と奇しくも上映時間が重なる日程となった。これが二郎にとって窮地を脱出する不幸中の幸いとなるのか、はたまた地獄の修羅場となるのか、来たる9月28日日曜日、それぞれの想いをのせて日本一アホな高校生のラブコメディが遂に開幕されるのであった。



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