青春クロスロード

Ryosuke

すみれのダブルデート大作戦⑤ ~翔平の焦りと剛の予感~

 二郎が忍を映画に誘うことに成功したこの日、校庭ではサッカー部と陸上部が部活を行っていた。両部活とも12時には昼休憩に入っており、サッカー部の工藤剛と服部拓実はいつもと同じように日陰となる校舎側に腰を下ろし昼食を摂っていた。他のサッカー部員や陸上部の部員も各々散らばって自由に昼の時間を過ごしていると、そこに陸上部の木嶋翔平が一人剛達の元に近づいてきた。翔平と剛、拓実は同じ2年1組であり、共に運動部に所属する事もあって、お互いに気の合う友人といった立場であった。

「よう、剛、拓実。サッカー部、なかなか気合いが入っているみたいでいいな。今年は結構いい線行きそうか?」

 翔平の問いかけにサッカー部のエースである剛がハッキリと自信を持って返事をした。

「おぉ、お疲れ、翔平!当たり前だぜ。今年は面子も揃っているし、都でベスト16に絶対に入ってやるぜ!」

「本当にウチのエースは気合い入りまくりで、練習に付き合うこっちも大変なんだよ。翔平の方はどうだ。今ウチの学校じゃ一番期待が高いのは間違いなく陸上部だろ」

 剛に続き拓実が話し掛けると、苦笑いで翔平が答えた。

「まぁ三佳が特別突き抜けて結果を出しているから、こっちのプレッシャーもなかなか凄くてさ。俺も三佳くらい走れれば良いけど、そう甘くはないよ」

 拓実が言うとおり夏休みに行われた陸上全国大会では三佳は琴吹高校創立以来初の全国大会出場選手となり、4位入賞の結果を残したことで学校内外から陸上部への期待が高まっていた。しかしながら、翔平の言うとおり陸上部は個人競技の極みであり、三佳がどんなに凄くても他の部員までも良い成績が残せるわけでもないため他の部員には三佳の快挙に浮かれたのは一瞬で思い重圧を感じる一面もあった。

 そんな微妙な空気を読んだ拓実が話を変えようと話を振った。

「そうだよな、まぁお互い頑張ろう。ところで最近三佳ちゃんを部活で見ないけど、どうしたんだ?」

「あぁその事か。実は三佳の奴、最近あまり部活に顔を出して無くてさ。本人は何も言わないけど全国大会に向けて誰よりも練習をやって来て目標を達成して、急に気が抜けちゃったのかもしれないな。俺も心配だけど、あまりプレシャー掛けたくもないし、今はそっとしているところだわ」

「そうか、まぁ誰よりも頑張っていたし、ちょっとくらい休んだっていいよな」

 拓実が翔平に同意するように答えると、剛もうんうんと頷きながら話し掛けた。

「そうだな。・・・それでなんか俺らに用でもあったのか。わざわざ部活の時に声を掛けるのも珍しいよな」

 剛の言葉に少しためらいを見せながら翔平は本題を切り出した。

「あぁちょっと剛に聞きたい事があってさ。ちょっと嫌な事を聞くから答えなくて良いんだけど・・・」

「なんだよ、そんなに改まって。とにかく聞きたいことがあるなら言ってみろよ」

「うん、そうか。それじゃ、少し前に流行っていた噂があっただろう。剛のこととか、あと5組の山田のこととかの噂がさ。それでもしかしたら山田と知り合いなのかと思ってさ」

「あぁそう言うことか。二郎と俺が同じ噂で注目されたから、何か関係があると思ったって事なのかな。まぁそうだな、確かに二郎とは友達だよ。アイツがどう思っているかは分からないけど、少なくとも俺は友人と思っているし、一応夏休みには何度か遊んだ仲だけど、それがどうした」

 剛が若干不思議に思いながらも、すこしためらいの残る翔平の問いかけに紳士的に答えた。

「やっぱりそうだったか。大したことではないけど、ちょっと気になってな。昨日、アイツが陸部に急にやってきたさ、三佳の様子を見に来たとか何とか言って葵にあれこれ聞いてきたんだよ。実は俺、アイツと一年時に同じクラスで他人に興味を持つような奴には見えなかったから、ちょっと変だと思ってさ。それでアイツのことを知っていそうなお前に声を掛けたって事だわ」

 翔平の問いに隣で聞いていた拓実が興味深そうに言った。

「へー、二郎が三佳ちゃんの心配か。まぁ俺も一度遊んだくらいでそこまで知らないけど、結構仲が良く見えたし別におかしな事ではないと思うけどな。どう思う、剛は?」

「うん、俺も別に違和感はないかな。と言うか、納得というか何というかまた先を越されたって感じかな」

 剛が何かを考え込むようにしみじみと答えると翔平が食い付くように言った。

「どういうことだ。アイツと三佳は一体どういう関係なんだよ」

「どういうって言われても正直俺も詳しくは知らないけど、俺の印象はさっきも言ったが仲の良い友人関係?って感じかな。なぁ剛、あいつらすげー仲よさそうに絶叫マシンに乗りまくっていたよな」

「あぁそう言えばそうだったな。それに俺の見立てでは三佳ちゃんは二郎の事を凄く信頼しているというか好意を持っているというか、とにかくただのクラスメートという関係とは別の次元の相手として見て居るように俺は感じているよ。まぁ二郎の奴は全然そんな風には思ってないかも知れないけど、それでもなんだかんだ心配性な奴だからそれで三佳ちゃんの様子でも見に行ったんじゃないか」
 
 拓実がザックリな印象を語り、剛がさらに一歩先の二人の関係を語ると、翔平が顔を引きつりながら言葉を振り絞って言った。

「そうか、そうなのか・・・」

「どうした翔平。二郎と何かあったのか?」

「いや、別に。まぁ気にしないでくれ。そんじゃ午後も練習頑張れよ」

 拓実の問いかけを振り切るように翔平は短く返事をしてその場を後にした。

 その様子を不思議そうに見送る拓実とは異なり、何かを察した様子で剛はその背中を見つめていた。

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