青春クロスロード

Ryosuke

すみれのダブルデート大作戦② ~大和の嫉妬と二郎の不安~

 9月20日土曜日。この日バスケ部は男女ともに午前中からの全日練習だった。朝8時半過ぎに学校の体育館に来た一はすみれと約束したとおり、二郎に映画デートの予定を早々に確認しようと二郎の到着を今か今かと待ちわびていた。

「しかし、展開が急だね~。本当に大丈夫かな」

まだ誰も来ていない体育館の中でふと独り言を一がこぼしていると、いつもは一番に部活に来ている大和が姿を現した。

 騒動解決から一週間が経ったこの日まで一と大和が二人切りになる状況はこれが初めてであり、いつもは平凡な顔つきの大和がキリッと目付きを変えて一に声を掛けた。

「うん?一か・・・・・今日はいつもより早いな」

 大和と言えば、一に片思いをする巴に告白し振られはしたが、今でも巴に思いを寄せていることもあり、一がすみれと付き合いだした事で巴の事を心配していた。また夏祭り当日の巴や一の行動や様子から何かしら二人の間にあったと感づいており、一に対してなんとも言えない思いを募らせていた。

「おはよう、大和。ちょっと今日は早く目が覚めて、時間に余裕があったからさ。それにいつもお前にばかり準備して貰うのは悪いから、早く来ようかと思ってさ」

 どこかしら歯切れの悪い大和の言葉に一はいつもと変わらない口調で返答したが、それでも大和は意を決したように問いかけた。

「そっか。・・・・・・なぁ一。お前同じクラスの橋本さんと付き合い始めたんだよな。そのきっかけはあの夏祭りの日だったんだよ」

「え、あぁそうだが。どうした朝っぱらから、そんな話して?」

「いや、2学期が始まってから何かとバタついていて聞けなかったけど、お前、宮森さんとも何かあったんじゃないのか」

 緊迫した表情の大和の問いに虚を突かれた一は、言葉に詰まるもすぐに落ち着きを取り戻してはっきりと返事をした。

「それは・・・・。すまんが。そのことは俺からは話せない。巴ちゃんがいないところで彼女の事を勝手に話せないよ。大和、お前が彼女の事を心配しているのは俺もよく分かる。だけど、それを俺に聞いちゃダメだ。何があったか気になるなら巴ちゃんに直接聞いてくれ」

 一の回答に一瞬の沈黙の後で強ばった表情を緩めた大和は普段の人の良い凡人の顔つきで話を終わらせように言った。
 
「でも、・・・・・・・分かった。・・・はぁ。さて、練習の準備でもするか。用具を出すのを手伝ってくれるか」

「あぁ、了解だ」

 大和はもっと一に詰め寄りたい気持ちを何とか押しとどめたが、心の内では一に対する微かな嫉妬や怒り、そして、羨望など様々な感情が混ざり合った気持ちを沸々と燃やすのであった。



 そんなこんなで8時58分。練習開始直前になって、そんな早朝の二人のやり取りなどつゆ知らず、相変わらず寝ぼけ眼をこすりながら、気の抜けた表情の男がようやく姿を現した。

「は~、おはよーさん。全員ちゃんと揃ってるか~」

「あほ!揃ってるか~じゃないだろうが。お前が最後だ、バカヤロウ。毎度毎度ギリギリに来て、後輩に示しがつかないだろうが」

「あぁいいじゃねーか。ちゃんと時間内に間に合っているだからよ。ほら、ごちゃごちゃ言わずにアップのランニング始めようぜ」

 部長の尊の注意など全く気にも留めない二郎が、のろのろと走り始めると呆れた表情で尊が言った。

「全く相変わらず締まらない奴だな。よし、俺たちもアップ始めるぞ。各自館内5周したらストレッチ。終わったらいつも通りフットワークから始めるぞ」

「ウース!!」

尊の掛け声で各自アップを開始しストレッチを始めたところで、一が二郎の隣に来て話し掛けた。

「おーす、二郎!すみれから話を聞いたぞ、お前」

「なんだ、いきなり。お前も朝から説教じゃないだろうな。すみれと良い、エリカと良い昨日は散々だったんだぞ。その上ほのか先輩にまで苛められて大変だったんだから、お前くらいはほっといてくれや」

 昨日の事を思い出しながら、心底疲れた様子で泣き言を言う二郎の様子を見て、一が誤解を解くように言葉を付け加えた。

「何だか知らないが、そりゃご苦労さんなことだな。だが安心しろ。俺の用は忍との映画デートの話だよ。すみれに言われたんだろ、忍を映画に誘うようにって。俺も昨日ダブルデートに参加して欲しいって言われて、それで予定を組もうと思ってよ。お前のスケジュールがどうなのか、それを聞こうとしただけだ」

「なるほどな。お前も良くあんなむちゃくちゃな誘いを受けたもんだな。忍が俺に誘われて大人しく参加すると思うか、お前?」

 二郎が未だ納得出来ないと言った面持ちで一に問いかけると苦笑いしつつもすみれを援護するように答えた。

「ははは、まぁそれはあれだ。すみれは言い出したらトコトン突き抜ける女だからよ。彼氏の俺としては彼女が大丈夫だと言うならそれを信頼して従うまでだよ。そう言うことでお前も観念して、今回はすみれの言うことを大人しく聞いてくれや。一応すみれもお前らのことを心配しての事だから悪く思わないでくれよ」

「はぁ、まぁ俺もすみれが俺らのことを考えてくれている事は分かるから一応了解はしたけどさ。それはそうとして忍がどうするかまではなんとも言えないしさ。むしろ、またなんか拗れそうでそれが心配なだけだよ、はぁ」

 力なくため息する二郎に鼓舞するように一が言った。

「まぁな。そこは俺も懸念しているところだけど、すみれ曰く忍が映画に行きたいと言っていたみたいだから、なんとかなるだろうよ」

「まぁそうだな、とりあいず当たって砕けろか。それで俺の予定だったか。別に何も予定なんてないさ。来週の日曜日は部活もないし、そこら辺で良いんじゃないか」

「そりゃ良かった。ちょうどすみれともその日が良いんじゃないかって話していたんだよ。よし、それじゃ昼休憩の時にでも忍に声を掛けてその日で打診してみろよ。女バスもその日は休みのはずだし、あとはお前次第だから頑張れよ」

「何だよ、一も一緒に誘ってくれないのか」

「そりゃお前の仕事だろ。仲直りの証なんだろ。頑張れって。意外とあっさりOKしてくれるかも知れないし、気楽に声かけてみろって」

「あいよ。・・・はぁ本当に大丈夫かよ。・・・う~ん・・・ふ~」

 二郎は小声でつぶやきながら、同じくストレッチを始めている女バスの部員の中にいる忍を一瞥して床に仰向けになって思い切り背を伸ばし深呼吸するのであった。



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