青春クロスロード

Ryosuke

二郎の散歩⑨ ~白熱!竜虎の争い~

 しばらく校内を捜索していた凜は二郎を見つけることが出来ず、ダメ元で二郎のクラス教室である2年5組に来ていた。

「もう~どこにいるのよ。まだ二郎君の机には鞄はあるし、ここで待っていれば会えるかしらね」

 凜が独り言をいいながら待ち焦がれるように二郎の机の椅子に座り顔を横にして伏せていると、何かをぼそぼそ言いながら一仕事を終えた様子の二郎が姿を現し、まさかいるはずもない凜の姿を見つけて驚きの声をあげた。

「いや~、今日はなんか疲れたな。腹も減ったし、久しぶりに四葉さんのバイト先でパンでも買って帰るかな。・・・うぉ!何だ、誰だ?・・・もしかして凜先輩??」

「う~ん、あらあら、二郎君。偶然ね、まさかこんなところで二郎君に会うなんて思いもしなかったわ。ふふふ」

「いやいや、そりゃいくら何でも無理があるでしょうよ。偶然も何も俺のクラス教室で俺の席にいれば、当然俺と会いますわ。もう下手な三文芝居はやめてくださいよ。わざわざこんな所で俺を待ち伏せまでして、一体何の用ですか」

 二郎はあくまで偶然を装う凜を怪しみながら問いかけると、そんなことなどモノともせず薄暗い放課後の教室に二人きりでいる状況を意識させるように凜はすっと立ち上がり二郎に寄り添って言った。

「用が無いと会いに来てはダメなの。最近全然生徒会室に来てくれないから私が会いに来ただけよ。ねぇ二郎君、どうして最近生徒会室に来てくれないのよ。そんなに私を苛めて楽しいの?・・・・もう、違うわ。せっかく久しぶりに会えたんだし、もっと楽しいお話をしましょう。そうだ、この前のお祭りの続きをしましょう。ほらあの日は仲良く腕組んで一緒に屋台を回ったでしょ。ほらほら、もっと肘を広げてよ」

 凜は二学期が始まってから全く会いに来なかった二郎に対して可愛く拗ねてみせるも、嬉しさが勝り一気に甘い雰囲気を出してイチャイチャしようと二郎の腕を取って放すまいと密着した。

「いや、先週までバタバタしていて、なかなか顔を出す余裕がなかったのは謝りますけど、って、ちょっと凜先輩、急にどうしたんですか。誰か来たらどうするんですか。先輩、くっつきすぎですって、ちょっと凜先輩!」

 二郎は凜の意表を突く行動に一応の反抗を見せるも、二郎自身もムードに飲まれて本気で振り解くことが出来なかった。そんな二郎の反応をにやりと顔を緩めて凜がささやきかけた。

「そんなこと言って、本当はちょっと嬉しいんでしょ。顔真っ赤よ。それにこんな時間じゃ誰も来ないから安心してイチャイチャして大丈夫よ。ねぇここで気になるなら、生徒会室に来てよ。実は少しだけ残務があるから手伝って欲しいのよ。ねぇ私を助けると思ってお願い、二郎君」

「べ、別に赤くなんてなってないですよ。もう純情な男子高校生をそんなにからかわないでくださいよ。そもそも本当に生徒会の仕事なんて残っているんですか。一はどうしたんですか。確かアイツは今日生徒会に行くって言っていましたけど、そんなに手が足りないんですか?」

 二郎は凜の積極的な攻めにしどろもどろになりがなら何とか凜のペースにならないように質問を返したが、凜はそんな程度では引き下がるつもりはないと二郎を黙らせるように答えた。

「もうごちゃごちゃ言わないの!残務があるのは本当だし、一君は一足先に終えて部活に行ったからもう私だけしかいないのよ。これで満足?それじゃ行くわよ、ほら、こっち」

「おっととと、ちょっと凜先輩~」

 強引に二郎を黙らせて凜が二郎の腕に抱きつき教室から出ようとしたそのとき、教室のドアが勢いよく開かれた。

「ちょっと!こんなところで二人きり、腕なんか組んじゃって、部活さぼって何しているよ、バカ二郎!」

 二郎は予想だにしない人物の登場に素っ頓狂な声を上げて驚いた表情を見せた。

「え!!!忍、なんでこんなところに!?」

 放課後の薄暗くなる教室の中で体を寄せ合い密会する凜と二郎を発見して、絶叫の声を上げたのは忍だった。忍は顔を洗いに部活を中断してお手洗いに行ったものの、どうしても二郎の事が気になり校内を捜索していたところで、今の状況に出くわしていた。

「ま~たあなたなの。せっかく良いところだったのに、毎度毎度邪魔ばかりして、むむむむ」

 凜は忍の登場によって計画通り進んでいた二郎との密室イチャラブタイムをぶち壊された事に怒り心頭と言った様子でいると、そんなことはお構いなしに忍が二郎と凜を引き剥がそうと二郎の腕を取った。

「もう、いつまでひっついているのよ、あんた達は。離れなさいってば!」

 急に手を引かれた二郎は突然の出来事に戸惑った反応を見せた。一方で凜は二郎の腕にひっついていたため、腕を引かれた二郎に釣られて横に体を逸らされてムっとして文句をに言い返した。

「いきなりどうしたんだよ、お前?おいおい痛いって」

「きゃっ、ちょっと急に現れたと思ったら何なのよ、あなた!」

 忍が凜と二郎の間に体をねじ込みながら凜の横暴に食ってかかると、凜は内心ではブチキレながらも先輩としても余裕を見せつけようと淡々と対応しつつもしっかりメンチを切って凜を蚊帳の外へ追い払うように手を振って言った。

「何なのは、こっちの台詞ですよ!二郎には部活があるんですから、こんなところで先輩のわがままに付き合っている場合じゃないんですよ。二郎を解放してください」

「解放しなさいって、何よ。二郎君はこれから私と仲良く生徒会の仕事のお手伝いをしてくれる予定なのだから、部活は残念だけど今日はお休みなのよ。だからあなたはお呼びじゃないんだから早く体育館に戻りなさいな」

 二人は互いに目の前の相手に真っ向から向き合って一歩も引かないと言った様子でにらみ合っていると、二郎が怯えながらぼそっと言った。

「いや、俺は生徒会にも部活にも行く気は無いんですけど・・・・」

 そんな二郎のつぶやきを凜が笑顔で、忍が喝を入れるように言った。

「二郎君、今何か言ったかな?かな?」

「バカな事言ってないで、あんたはさっとと着替えて練習に参加しなさい!」

「ひぃ、すいません!!」

 二郎を黙らせると二人はさらにヒートアップさせていた。

「もうこんな時間に部活に行っても一時間も練習できないでしょう。あなたこそわがまま言わずに二郎君を自由にしなさいよ」

「先輩こそ嘘ついていませんか。さっき体育館で一に会いましたよ。本当は生徒会の仕事なんてないのでしょ。二人きりで一体何をするつもりですか」

「何を言っているのよ。一君を部活に行かせてあげたから仕事が残っているのよ。そもそもあなたは女子バスケ部でしょ。男子バスケ部とは関係ないじゃない。いちいち二郎君の行動にいちゃもんつけないでちょうだい」

「関係ありありですよ!女バスも男バスも顧問が同じで一緒に練習することが多いんですから私が二郎に注意するのは何もおかしくないんですよ。それこそどうして二郎が生徒会の手伝いをしなきゃイケないんですか。先輩こそ何も関係ないでしょ。後輩の男子を追い回してハッキリ言って二郎が迷惑してますよ」

「バカな事言わないで!私と二郎君はあなたよりもず~っと深~い関係なのよ。だから私が二郎君に手伝いをお願いしても何も問題無いのよ。た・だ・のクラスメイト程度のあなたとは違うのよ、わかるかしら、うん?」

「何が深い関係ですか。あたしだって二郎と部活もクラスも2年間ずっと一緒ですよ。二郎だって、あたしのことを、学校の女子で一番信頼しているって言っていたんですから、あなたよりも二郎と深い関係なんです。だから先輩こそ大人しく一人で生徒会の仕事でもやってくださいよ」

(いやいや、凜先輩との深い関係ってただの中学からの先輩後輩の関係しかないような気がするし、忍の奴も学年の女子で一番マシなのが忍だって言ったたような気がするが、今そんなこと言ったらぶん殴られそうだからやめとくか。そもそもなんでこいつらはこんなに喧嘩してるんだ)
 
 二郎が内心で凜と忍にツッコミを入れるも竜虎の争いに水を差す勇気も無く息を潜ませて二人の様子を見守ることにした。

 そんな状況下で凜と忍が仁義なき戦いを繰り広げている間に、すっかり二郎が完全に蚊帳の外に追いやられたところで、意外な人物がひょっこりとドアから顔を出して二郎にこっそり声を掛けた。

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