青春クロスロード

Ryosuke

二郎の散歩⑧ ~イライラエースと小悪魔副会長~

 二郎が葵と話をしていた頃、体育館では忍は二郎の登場を今か今かと待っていたが、5時30分を目の前にしても一向に姿を見せない二郎に徐々にイライラを募らせていた。

(二郎の奴、一体何をやっているのよ。いつもならもうとっくに来ているはずなのに。もしかしてあの女に捕まって生徒会の手伝いをさせられているのかなぁ)

 忍としてはすみれやエリカになんだかんだ二郎は部活に参加する奴で、皆が言うほど不真面目じゃないと言い切った手前、今日だけはちゃんと部活に参加して欲しいと考えていたが、この時間まで来ないところを見ると嫌な予感を頭によぎらせていた。

 そんなモヤモヤを抱きながらいまいち練習に身の入らない忍に副部長の歩が声を掛けた。

「ちょっと忍、全然集中できてないじゃん。再来週には去年都大会でベスト16の桃李高校と練習試合なんだよ。もっと気合いを入れて練習しなきゃダメだよ」

 歩の喝にハッとした忍は気の抜けていた顔をパンパンと二度両手ではたき返事した。

「ごめん。そうだよね。こんなんじゃダメだよね。あたしちょっと顔洗ってくるわ」

 そう言って忍が体育館を出て行こうとしたとき、遅れて一人の生徒が忍に声を掛けた。

「おう、忍、どこに行くんだ?」

「あれ、一?生徒会はもう終わったの?」

「あぁ、今日は切りが良いところで上がって良いって凜先輩が言ってくれたから、いつもより早くこっちに来られたってわけだよ。お前はどうしたんだ、まだ練習終わってないだろう」

 
「う~ん、それじゃ二郎は生徒会の手伝いで遅れているわけじゃないってことなの。もう一体何やってんのよ、あいつ」

 忍は一の問いかけには全く反応せず、ぼそぼそと独り言を言っていると一が忍の顔をのぞき込んで言った。

「お~い忍、何をブツブツ言ってんだよ、お~い、お前はどこに行くんだ~」

「もううるさいな!トイレだよ。それくらい察しろ、バカタレ!」

 忍は二郎がどこかをほっつき歩いて部活に顔を出さない事に、また沸々と怒りが湧きあがってきたのか、その怒りを一にぶちまけてカリカリしながら忍は体育館を出て行った。

「何をアイツは怒っているんだ。はぁ~、あれ、まだ二郎の奴は来てないのか。・・・なるほど、全く忍の奴もわかりやすい奴だな。さて、あいつらの痴話げんかは放っておいて、俺は一汗かくとするか」

 一はまだ二郎がいないことを確認し、忍の不機嫌な理由にピンときたのか苦笑いを浮かべながら、大きく背を伸ばして尊達に合流するのだった。

 一方、陸上部の葵と別れて校舎に戻りながら二郎はあれこれと思考を巡らしていた。

 (う~ん、三佳の奴どうしたんだろうなぁ。やっぱりちょっと様子がおかしい気がしたけど、最近部活に出てなかったとはな。何かあったのかなぁ。まあ俺が心配してもしょうがないか。よし、今日は疲れたしもう帰るか)

 曇りが薄く広がるこの日、いつも以上に日暮れが早く感じた二郎は玄関口に掛けられている時計を見て5時30分を指している事を確認し、この日は部活には行かずにこのまま帰ろうと思い、置いたままにしてあった荷物を取りに教室に戻ろうと本館の2階に向かった。

 一方、二郎が葵との話を終えようとする少し前、ここ本館三階にある生徒会室では二郎と接触のあったほのかが生徒会の業務をしていた凜に二郎の目撃情報をもたらしていた。

「ちょっと凜、さっき美術室の前で二郎君に会ったよ。今行けば二郎君を捕まえられるんじゃないの。しばらく会ってないんでしょ?」

 ほのかの話に目の色を変えて凜が返事をした。

「ジ・ロ・ウ!!あの浮気者め~、なんで最近全然顔出さないのよ、もう!一君、あの子は一体何をやっているのよ」

「いや~、そう怒らないでくださいよ、凜先輩。二学期始まって色々バタバタしていて二郎もこっちに顔出す余裕が無かったんだと思いますよ。それこそ今日になってようやく通常運転に戻って、久しぶりに校内散歩でもして、部活にも行くんじゃないんですか」

 一はご立腹の凜を宥めるように二郎の事情を説明して、この日の二郎の動きについて話をした。

 その話を聞いた凜はほのかに確認するように問いかけた。

「ねぇほのか、二郎君を見たのっていつの話なの」

「いつって、ほんの5分くらい前よ、もしかしたらまだ美術部の子に捕まっているかもしれないし行ってみたら。色々聞きたいこともあるんでしょ」

 ほのかは凜をその気にさせようと囁くように伝えると、凜が熟考の末、何かしらひらめいた様子で言った。

「そう、そうね。一君、今日はもう上がって良いわよ。今から行けば少しは部活もできるでしょ」

「え?でもまだ少し残務がありますが、大丈夫ですか」

「残りは私がやっておくから大丈夫よ。ほのかも今日は折角生徒会がお休みなんだから早く帰りなさいよ」

凜の様子を見てほのかが笑みをこぼしながら、また一が突然の提案にとまどいながらも空気を読んで返事をした。

「はいはい、それじゃ私はお先に。残業頑張ってね、凜」

「あーはい、それじゃ、早め上がらせて貰います」

「えぇ、お疲れ様、一君。ほのかもありがとうね」

 凜が怪しい笑みを浮かべながら、二人を見送ると凜は校内のどこかに彷徨いているだろう二郎を捕まえるために校内探索を始めた。

(ふふふふ、放課後に生徒会室で二郎君と密室でイチャラブするって言うのも良いわね。あの鈍感男でも二人きりで迫ればその気になるでしょ、流石に。所詮は男子高校生、私みたいな美人を前に冷静でいられるはずはないわ。今度こそ他の女なんて目に入らないようにしてやるわ。ふふふ)

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