青春クロスロード

Ryosuke

人の噂も七十五日㊶ ~ゲスの極みと怒りの鉄拳制裁~ 

 勇次は大和とのやり取りを思い出しながら、どうでも良い事だけどなと笑いながら話を続けた。

「まぁそんなことは良いとして、その後、工藤と馬場さん、中田と成田さんを見つけて僕らは二手に分かれて告白を目撃したわけだね。その辺は君たちが予想したとおりだよ。それから鈴木さんが一ノ瀬君を、僕が君を監視することになって4つの噂の現場を押さえたわけだ。うーん、それにしても君の推理は本当に恐ろしいくらい当たっていたから驚いたよ。あのパン屋の店員も初めは君がヤケに仲良さげに話しているのを見て、興味が出来て少し声を掛けるつもりだったんだけど、驚くほどの美人だったから思わず連絡先を渡してしまったんだよ。橋本さんを攻略した後で、ゆっくり連絡でもしようと思っていたのに、まさかその後すぐに君と二人で会う約束をしていたなんて思わなかったから、あの時は少し焦ったたよ。さらには中田の告白を振った成田さんが君に会いに来て、あの店員と修羅場になった事も予想を超えた展開を繰り広げるから本当に楽しませてもらったよ、君には」

 二郎はふーんとだけ反応し、勇次の話を無言で受け止めて続きを促そうと目線を飛ばした。

「なんだよ、もっとリアクション見せてもらわないとつまらないな。それとももうこの話はやめにするかい」

 挑発するように勇次がいうと、二郎は語気を強めて命令するように言った。

「ごちゃごちゃ言ってないでさっさと先を話せ!」

「分かったよ、そう怒らないでくれよ。まぁ当日の話はそんなところだよ。その後は君の言ったとおり4つの噂を2つに分けて、五十嵐君に協力してもらって噂を広めることにしたんだ。実は僕見かけたんだよ。5月の終わり頃に君と五十嵐君が揉めていたのを。だから君の面白い噂があるって五十嵐君に話したらあっさり協力してくれる事になってね。それで五十嵐君が君とその友達の一ノ瀬君を、鈴木さんが橋本さんの友達の成田さんと馬場さんに日頃溜め込んでいた鬱憤を晴らすために校内に噂を振りまいたって事だよ」

「五十嵐と鈴木の目的は大体想像が付くが、お前の目的がいまいちよく分からないな。こんな事をしてすみれがお前に靡くとでも思ったのか、もしそうなら頭がお花畑過ぎるぞ、お前」

 二郎は勇次の理解できない行動を呆れたように批判した。

「分かってないな、山田君。僕はね、橋本さんには絶望して欲しかったんだよ。それに彼女にまとわりつく周りの男達、工藤、中田、それに君たち二人にも痛い目に遭って欲しかったんだよ。工藤は言うまでもないが、中田は一年の時にクラスで孤立しかかっていた橋本さんと仲良くしやがっておかげで僕が唯一の味方になるはずだったのに飛んだ邪魔をしてくれたものだよ。それに今年に入ってからは君も一ノ瀬君も彼女と仲良くしているようだったから、ついでに女の噂でも流して、気まずい関係にしてやろうと思ったんだ。まぁ馬場さんと成田さんには恨みはないけど、仲の良い友達に浮いた話が出て、しかも自分の好きな相手がその友達に告白したと聞けば、橋本さんも落ち込むだろうし、周りの男子達も自分の恋愛話に忙しいと知れば、それこそ僕に泣きついてくるだろうと思ってね。そこでようやく彼女の心を僕が独り占めするっていう美しい流れになるはずだったんだよ。どうかな、僕の立てた完璧な計画は、あの短い時間にここまで考えつくなんて凄いと思わないかい、山田君」

 勇次のイカれた妄想話を聞いた二郎と一はウンザリしたような顔つきで同じ事を考えていた。

「あぁ、中学の時にもお前と似たようなバカがいたわ。どうしてこうもバカに限って自信過剰なんだろうな、なぁ一」

「まったくだな、すーみんもこれじゃ苦労するわけだわ」

 そんな会話をしている二人の向かいにいた五十嵐もドン引きしたように言った。

「何を考えて俺に話を持ちかけたのかと思ったら、随分気持ちの悪い奴だな、佐々木。まぁ俺は山田にやり返すことが出来たから感謝はしているから良いが、鈴木の方は災難だったな、こんないかれた奴のためにあれこれと動いていたんだからな」

 五十嵐が多少の同情の言葉を亜美菜に向けると、それに反抗するように言った。

「バカな事言わないでよ。私は勇次君の彼女なのよ。彼のために彼女が頑張るのは当然でしょ。それにこうなってしまってはもうあの女の事は諦めるしかないし、初めから少し遊んだら捨てるつもりだったんだから、それが少し早まっただけでしょ、勇次君。あんな女の事なんて本当の彼女である私が忘れさせてあげるから、元気出してね」

 亜美菜は本妻としての意地を見せつけて、勇次を庇うように声を張って見せた。

「バカ言ってんじゃねーぞ、このビッチが。ちょっと遊んでやったくらいで彼女ズラしてんじゃねーよ。お前みたいな安っぽい女が一番嫌いなんだよ。1、2度抱いたら何でも言うことを聞くようなバカな女には俺の言うことに黙って従って駒のように使われるのがお似合いなんだよ。2度と気持ち悪いメールも電話もしてくんなよ、バカが」

「酷いよ、勇次君。私あなたの言うことなら何でも聞いたのに。あなたがして欲しいことだっていっぱいしてあげたのに・・・それは勇次君が私の事を彼女にしてくれるって約束してくれたから、・・・だから私頑張ったのに・・・・あんなことも、こんこんなことも・・・・」

 亜美菜は目頭に涙を溜めながらも、最後まで勇次の顔を見ながら恨み節を言った。

「知らねーよ、そんなこと。お前が勝手にやっただけだろう。勘違いすんな、気持ち悪い女だな。ハッキリ言ってお前みたいに寄ってくる女は山ほどいるんだよ。わざわざお前ごときを彼女にして何が面白いんだよ。それに比べて、橋本さんはどうだ。お前みたいに取り巻きを作らず一人で孤高に存在感を発揮したと思ったら、二年になったらあっという間に学年内のカーストトップに君臨するような立場に成り上がって、それでいて偉ぶらずに、誰にでも優しく、簡単には男に尻尾を振らない正に俺の理想の女子なんだよ。そんなしっかり者で気の強い橋本さんをどん底に突き落として、周りの友人達とも孤立させて弱ったところを僕が支えて、僕が居なくてはダメな女に作り替えて、それをまた捨てて絶望させることこそが、一番ゾクゾクするだろう。まぁでもそれも叶わぬ願いだったみたいだから仕方がないね。後はしばらくこの愉快な噂が収まるまで楽しく経過を見守ることにするよ。せいぜい噂を潰せるように頑張ってくれよ。まぁ一度広がった噂を沈下させるなんてどうせ無理な話だけどね。はっはっはっはっはっは」
 
 勇次は徹底的に亜美菜を突き放し、それでいて自身の異常な性癖を自白して高らかに笑った。それはどんなに噂話の犯人として断定されようが、結局ところ一度自分の手を離れて広まった噂話の収束の難しさを分かっており、今後勇次が何もしなくてもしばらくは今の状況が継続されるだろうと考えていたため、初めからこの犯人捜しなど無意味であり、自分の戦略勝ちを確信しての余裕だった。

 そんな勇次の態度にそれまでショックを受けて黙っていたすみれが、明確な怒りと軽蔑の視線を持って言った。

「見損なったよ、佐々木君。あなたがこんな下劣で非情な最低男だったなんてね。あなたのような人間とこの1年半以上友人だった私自身が恥ずかしいよ。二度と私に話し掛けなでちょうだい。もう絶交よ」

 すみれの言葉をあざ笑うかのように勇次が答えた。

「絶交ねぇ、随分可愛い物言いじゃないか。もちろんいいさ。目的がなくなった今もう僕も君になんか興味ないからね。また別の女を探すまでだよ」

 勇次の何一つ反省していない言い草を聞いたすみれは思わず腕を振り上げて、会心の一撃を勇次の左頬にたたき込もうとしたその瞬間、その腕が優しくそれでいて強い意志をもって掴かまれた。

「すーみん、君がこんな奴のために傷つく必要はないよ」

 それは一だった。一は心優しいすみれがどうな理由であれ、誰かに手を挙げることはすみれの心を傷つける行為だと考えて引き留めた。

「どうして一君。止めないでお願い!」

 すみれが怒りを止められない様子で一の手を解こうとして一に懇願するように言った。

 それを見た勇次が安心したように言った。

「さすが生徒会様だね、一ノ瀬君。いくら生徒同士のいざこざがあろうが、目の前で暴力沙汰を起こさせるわけがないよな。まったく助かったぜ、真面目だけが取り柄の生徒会の奴は話がわか、ぶほぉっ!」

 すみれが悔しそうに勇次に視線を向けたその瞬間、一の右の拳が勇次の左頬に見事にぶち込まれていた。

「ど、どうして、お前・・・」

「生徒会だから暴力沙汰を起こさないだって、バーカが!俺がこの学校の秩序を守る生徒会だからこそ、お前みたいなゴミクズには怒りの鉄槌を喰らわせなきゃ藤堂会長に顔向けできないわ」

 一はこれまで好き放題言って、すみれを侮辱し愚弄した勇次に正義の一撃と言わんばかりの鉄拳制裁を喰らわせた。

「二郎、悪いがここからは俺に任せてくれないか。さっきも言ったが俺はこいつにお礼参りをしなきゃならんし、こいつには俺の存在をしっかり理解してもらわないといけないからな」

 一の気合いの入った言葉を受けて二郎が答えた。

「まぁお前の事だ、何も準備をしていないって事はないんだろう。それに何か訳ありみたいだし、あぁ、後はお前に任せるよ。それで良いか、エリカ、すみれ」

「うん、私は大丈夫だよ」

「もちろん、私は一君を信じてるから」

 エリカとすみれの了解を得て、二郎が一に視線を向けて言った。

「だとよ。そんじゃ頼むぜ、相棒」

「任せておけ」

 一はゲスを極めた勇次に引導を渡し、最後の後始末をつけるためにエリカから二郎へと引き継げられたバトンを受け取り勇次の前に立ちはだかるのであった。

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