青春クロスロード

Ryosuke

夏休み その4 花火大会③ ~生真面目っ子と茜空~

 一方その頃、生徒会の5人は尊達よりも5分ほど早く会場に到着し、早速屋台を回り始めていた。ほのかの指令通り5人は夏らしく女子は浴衣、男子は甚平を着て夏祭り気分を満喫していた。

 生徒会会計の佐倉ほのかは白をベースに赤い大きな花柄の入った浴衣と黄緑調の帯がほのかの可愛らしさ一層引き立てていた。

 生徒会副会長の二階堂凜は黒をベースに桜模様の入った大人っぽさが際立つ浴衣に白系統の帯が凜の凜々しさに拍車を掛けていた。

 そして、生徒会書記の宮森巴は水色をベースに赤や白の牡丹柄の可愛らしい浴衣に白系統の帯を着けて普段の真面目一本の固いイメージを上手く和らげていた。

「悪くない。浴衣は女性を綺麗に見せる」

「先輩達とても綺麗ですよ。巴ちゃんも普段のイメージと違ってスゴイ可愛いね。3人とも凄く良く似合っています」

 グレーと群青色の甚平を着た英治と一はそれぞれに女性陣の浴衣姿を褒めた。

「英治、そこは一君みたいに素直に綺麗だって言ってほしいんだけど」

 ほのかが英治にちゃんと褒めて欲しいと要求するように言うと、英治は恥じらいを隠すように顔を背けながら返事をした。

「バカもの、男はそんな簡単に綺麗だの可愛いだのとかそういうことは言わないものだ」

 なんやかんやでほのかと英治がイチャついている隣で、凜と巴が一を囲んでいた。

「一君もなかなかお世辞が上手くなったじゃない。後でかき氷買ってあげるわよ」

「一ノ瀬君、普段と違って、か、可愛いっていつもはどんな風に思っているんですか」

 凜が一の頭をポンポンとなでる一方で、巴はすこし顔を赤らめながらいつも通りの口調で一に問いただした。

「凜先輩、二郎がいないからって俺で遊ばないで下さいよ。巴ちゃんもそんな怒らないでよ。いつもの固いイメージと違って、今日の浴衣は色鮮やかで凄く可愛くてそっちの方が似合っていると思っただけだよ。だから、もっとスマイル、スマイル。せっかく可愛いのにもったいないよ」

 一の恥じらいもなくすらすら出る褒め言葉に耐えきれなくなった巴が白旗を揚げてそっぽを向きながら捨て台詞を言った。

「もうそんな可愛い、可愛いと言って、誰にもでそんなこと言っているんでしょ。私は騙されませんよ」

 言葉とは裏腹に顔も耳も真っ赤にして巴は恥じらうように言った。

「宮森さんもチョロいわね。ただの生真面目っ子かと思ったら可愛いところもあるじゃない」

 凜が巴には聞こえないような小声でつぶやくと、一がそれに付け加えた。

「巴ちゃんはああ見えて一年の頃から意外と可愛いところあるんですよ。俺は姉と妹に鍛えられているので、あれくらい純情な方が扱いやすくて良いですね。元々ちょっと真面目すぎるだけで性格も良いですし、なんだかんで付き合いも長いですからもう慣れましたよ」

「はぁ宮森さんも苦労しそうね」

「なんすか一体?」

「いや何でも無いわ」

 一の飄々とした態度に凜は巴の気持ちを察して同情するのであった。
 
 屋台を一通り回ると特設ステージでのパフォーマンスの演目が変わり、最近流行の曲が流れ始めていた。

「私この曲好きなんだよね。ちょっとステージの方に行ってみない」

「良いね、行こうよ」

「おう、行ってみるか」

 ほのかの提案に凜と英治が頷く。

「先輩、そろそろ人も多くなってきたので、俺は場所取りしておきますよ。あっちの方はまだ少し場所が空いているので、あの辺りで待っていますよ」

「だったら、私も一ノ瀬君と一緒に待っています」

「そうか、済まんが頼むな」

「二人ともよろしくね」

 一と巴が後輩の役目として場所取りを申し出ると、3年3人はその提案にありがたいと乗っかり、生徒会グループはここで二手に分かれることになった。

 3年3人と分かれて一と巴は広場の空きスペースを探していると、見慣れた顔を見つけた。

「尊、大和!ここにいたんだな、早くから来ていたのか」

「おう、一、お前ももう来ていたのか。場所取りなら向こうの方はまだ少し空いているぞ」

 一と尊が挨拶代わりの情報交換をしていると、少し遅れて巴が顔を出した。

「あれ、中田君と小野君。二人も花火を見に来たんだ。小野君は久しぶりだね」

「宮森さん、久しぶり。どうして二人で。他の生徒会の人たちは来てないの」

 尊が軽く会釈をしていると後ろから驚いた様子で大和が返事をした。大和は自分の方から巴を探しに行くつもりだったので、まさか巴と一が二人で顔を出すとは思っていなかったため、不意を突かれたような様子だった。

「小野君、どうしたの。そんな驚いた顔して。それにどうして生徒会の先輩達がいること知っているの?」

「え、いや、その、一が生徒会の人と行くって話していたから。まさか二人でいるとは思わなくてさ。二人はまさかデートとかじゃないよね」

「デート!!そんなわけ無いよ。何を言っているのよ」

「先輩達なら向こうのステージの前にいるぞ。俺らは場所取りしに来ただけだ」

 巴が大和の言葉を全力で否定する一方で、一が淡々と状況を説明した。

「そうだよな、いきなり変なこと言ってゴメンな。気にしないでくれ」

「一、皆は6時頃には来るから、時間が空いたら顔でも出しに来いよ。誰かしらここにいると思うからよ」

「わかった。俺も二郎が来る頃にはこっちに合流するよ。そんじゃまた後でな」

 一は尊との会話を終えて再び空いたスペースを探し始めた。その後ろについて行く巴の後姿に大和は熱い視線を向けながら告白の決意を固めていた。



 それからややあって、なんとか場所を見つけた二人はシートに座わり休憩をしていた。一はシートの上に仰向けで寝転がり、巴は浴衣が着崩れないように正座に近い状態で足を横に流して座っていた。

 時間は6時を過ぎた頃、昼間から夜へ向かう空が真っ赤に染まり始めるそんな時間だった。
 
 一は仰向けになって朱色に染まる空を見上げながら巴に話かけた。

「そういえば、なんだかんだこうやって二人でゆっくりできる事ってあまりなかったよな」

「そう、だね。一年の時は教室ではいつも小野君がいたし、生徒会でも二人きりって事はあまりなかったかも」

「生徒会では部屋に二人でいても、だいたい雑務処理に追われてゆっくり話す余裕も無かったしね」

「ホントそうだったね、一ノ瀬君は次の生徒会も続けるつもりでしょ。もしそうなら、私が手伝ってあげてもいいからね」

「どうしたんだ、急に。メンバーを選ぶのは会長だろ。会長は俺よりも巴ちゃんがやればいいんじゃないか」

「私じゃ駄目だよ。私は結構嫌われていると思うから、会長になるのは皆から好かれている一ノ瀬君がふさわしいよ」

「嫌われているなんて、そんなことないぞ。まぁすこし小姑みたいに口うるさくて厳しいところもあるにはあるけど、きっちり真面目に締めてくれることに先輩達も、クラスの連中も感謝していると思うぞ」
 
 一は巴に対する素直な気持ちを正直に話した。

「それってやっぱり皆から煙たがられているって事だよね。はぁ」

「いやいや、違うよ。誰もやりたがらない損な役回りを引き受けてくれているって事だよ。本当は俺が言わなきゃいけないことを巴ちゃんが言ってくれるから、俺がおいしいところをさらって上手くまとめられるんだよ。俺みたいになだめ空かして適当にやっているとどこかで上手くいかなくなるところをきっちり締めてくれるから、アメとムチになって上手くいっているんだと思うよ。少なくとも一年の時はそれでクラスがまとまっていたと思うぞ」

 一の言葉にさらに落ち込む巴を今度は元気づけようと自分を下げて巴の貢献を褒める様に言葉を返した。

「そうかな、私自分でも厳しすぎるって思うくらい決まりを守って、気がつくと人にもそれを強要してしまうことがあるから、気をつけなきゃイケないって思うけど、どうしても気になって言ってしまうのよ。客観的に見たら嫌な女だと思うの。こんな女、誰も好きにはなってくれないよね」

 巴は膝を抱えてうずくまるように顔を伏せながら言った。

「巴ちゃん、一体どうしたのさ。誰かに何か言われたのか。誰だって完璧な人なんていないよ。俺だって自分の本当に思ったことが言えずに、その場の空気ばかり気にしてなあなあにしてしまうことあるし、そんな自分が嫌になることもしょっちゅうあるよ。誰でも自分の駄目だと思う事なんて一つでも二つでもあるさ。だから、巴ちゃんが自分で駄目だと思うことはこれから直して行けば良いんだよ。それにさっきも言ったけど、今日の浴衣姿は本当に可愛いよ。普段の姿を知っている俺からしたらそのギャップにドキッとするし、しっかりしてそうで本当は凄く弱気なところもポイント高いし、そもそも巴ちゃんは素顔が美人だし、普段からもっと素直に自分を出していけば男達がほっておかないよ。絶対モテるから大丈夫だ」

 チャラ男並の口ぶりで褒め殺しの言葉を恥ずかしげもなく一がペラペラと話していると、巴は嬉しいような、でも、信じられないような顔つきで言葉を返した。

「一ノ瀬君はズルいよ。そうやってまた私を惑わせるつもりなの」

「惑わせるってそんなこと、本当に思った事を言っただけだぞ」

「なら、一ノ瀬君は私の事、好き?」

「お、おう、大好きだぞ。高校では一番付き合いも長いし、女子の中で一番信頼しているよ」

「違う、そういう好きじゃなくて、・・・だから、違う好きだよ」

「え、違う、好き?・・・」

 この時これまで聞こえていた周囲の喧噪が驚くほど消え去り、二人の間に静寂が訪れた。

 一がシートの上で寝転がっていた体を起こし、言葉の真意を確かめるように巴を見つめる。巴は落ち着かないように視線を泳がせながらも一の目線をとらえ見つめ返す。

 一が何かを言うおうとして口元を開きかけたとき、静寂を切り裂くように声がかかった。

「一、ここにいたのか。急で悪いけど宮森さんを少し貸してくれないか」

 大和の登場で正気を取り戻した巴は急に自分が一に言ったことを思い出し、この場に居ることに耐えきれなくなり、大和に慌てて返事を返した。

「ええ、分かったわ。小野君、今行くね」
 
 言葉と共にすっと立ち上がり一の前から逃げるように大和の手を引いて巴はその場を後にした。

 その場に取り残された一は巴の言葉の意味を正しく理解して、大きなため息をつくと、再度シートの上に寝転がり、夕焼けから少しずつ青黒く変わって行く夜空を見上げながら目と閉じて、自分自身の気持ちについて思い耽るのであった。

(好き、か。まさか巴ちゃんが俺のことをそんな風に思っていたなんてな。・・・でも、恋愛に奥手そうな彼女でさえ自分の気持ちを伝えようと努力しているのに俺は何をしてんだろうな。俺は本当に三佳っちの事が好きなのかな。ただの憧れなのかな。俺はどうしたいのかね、まったく・・・)

 一向に答えの出ない袋小路に迷い込んだ一の心はまだしばらくはその答えには辿り着けそうもなかった。


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