青春クロスロード

Ryosuke

夏休み その4 花火大会② ~撃沈必須のラバーズ・ハイ~

 8月も終わり近づく花火大会当日、天気は良好で絶好のコンディションとなったこの日、尊は大和とともに会場の広場に17時前に来て場所取りをしていた。

 会場となるのはここ武蔵村山市の野山北公園であり、都内でも屈指の敷地面積を誇る都立公園であった。ここには野球なども出来るほどの広いグランドとそれに隣接する釣りなども出来る大きな池や子ども達が遊べる木の丸太などで作られたアスレチックや壮大な滑り台などが数多く設置されている森林地帯があり、園内を散歩するだけでもかなりの時間が必要なほど広大な公園であった。

 そのグランドがメイン会場となっており、その中には屋台が40~50店舗ほど並び、その一角にはステージが設置されアマチュアバンドが音楽を演奏していた。

 子供連れの家族や地元の学生などが焼きそばやタコ焼きを食べながら楽しそうにはしゃいでいたり、浴衣や甚平を着たカップルなどもちらほら見られて、それなりの盛り上がりを見せていた。花火の打ち上げまであと3時間とあって会場の広場には多くの場所取りのシートが広げられていたが、探せばまだ十分場所が取れる状況だったため、尊と大和はなんとか畳2畳分程のスペースを確保する事が出来た。

 場所取りを終えて、シートに座り一休みを始めたところで大和が尊に話し掛けた。

「尊さ、この前はあまり聞かなかったけど、今日何かするつもりなのか」

 先日のファミレスでの一幕に思うところがあった大和は、探るように尊に問いただした。

「何かって何だよ」

 急に振られた質問をなんとかごまかそうとしたところ、さらに核心をつく言葉が大和から返ってきた。

「何かってそれを俺が聞きたいんだがな。もしかして忍に告るつもりなんじゃないか」

「え、いや、その、何でそう思うんだよ」

「いや、自分では気づいてないかもしれないけど、忍と話しをするとき明らかに様子がおかしいし、この前の『俺と熱い夏を・・』とか何とか言っていたのも忍はハンバーグに目がくらんで全く聞いてなかったけど、多分二郎と一はお前が忍に惚れている事も気付いているから、今日はお前が忍に何かするって気付いていると思うぞ」
 
 大和は尊の思惑や一や二郎の考えなどほぼ完璧に言い当て、尊に観念して正直に話せと言わんばかりの表情で迫った。

「マジか、ずっと誰にも話さず秘密にしてきたのにどうしてわかるんだ。お前らエスパーなのか」

「いや、お前が忍に惚れていることなんてバスケ部に入部してから3日で分かったぞ。二郎や一も似たようなものだろ。多分気づいてないのは忍だけだわ」

「嘘だろ、当事者の忍が全く気づいてないのに、他の連中がどうして気づくんだよ。それに今まで誰も俺に恋バナとかしてこなかったぞ。気づいているなら冷やかしの一つくらい言うだろ」

 尊は自分の忍への思慕を隠せていたと信じて疑わなかったため、どうして皆にバレていたのか全く分からなかった。なぜなら、尊自身、男友達は非常に多く交友関係は広いと思っており、そんな中でも誰があの子を好きだ、嫌いだなどの下世話な話しをする事もあったので、もし自分の忍への片思いがバレているなら、少なからず男友達から良くも悪くも茶々を入れられてもおかしくないと思っていた。

「いや、尊さ。俺はなんだかんだ高校の中じゃお前と一番深い仲だからはっきり言うけどさ。多分、みんなお前の事はバスケの上手い日本語が話せるゴリラくらいにしか考えてないぞ。だから、皆お前が忍に恋をしていることを知っていても、野獣が美女に恋をしているのを遠くで温かく見守っていたんだと思うぞ」

「お前いくら何でもゴリラはないだろ。せめて知能が高いチンパンジーにしてくれよ」

「いや、そこは人間扱いを要求しようぜ。どんだけ謙虚なんだよ、お前は。まぁ、とにかく今日お前は忍を誘って告白でもするつもりなんだろ。もうバレてんだから正直に言えよ」

 大和は話を戻して、尊の今日の目的を改めて確認した。

「あーもう、そうだよ。1年半も片思いしていても全く気付いてもらえないし、高2の夏も何もなく終わっちまうなら、ダメ元でも告白しようと思ったんだよ。なんか文句あるか。俺だって彼女がほしいんだよ」

 観念したように尊は今日の目的を白状して、モテない男子高校生なら誰でも共感できるだろう心の叫びを吐露した。

「いや、お前の気持ちは痛いほど分かるぞ。正直に話してくれてありがとう、我が友よ。実は俺も今日チャンスがあれば告りたいと思っているんだ」

「告るって誰にだよ。大和、好きな奴いたのか」

 大和の突然の告白宣言に尊が前のめりになって聞いた。

「俺も一年の時から片思いをしていた女子がいてな。でも、どうやらその子は別に気になる奴がいるみたいでなかなか告白する勇気が出なかったんだが、お前が撃沈覚悟で突撃すると言うなら俺もお前を見習って告白しても良いかなと思ってな」

「俺は撃沈確定なのかよ。それより誰だよ。お前の片思いの相手は」
 
 尊は大和の物言いに若干の不満を持ちつつも大和の想い人が気になりさらに突っ込んで質問した。

「3組の宮森巴だよ。一年の時同じクラスでよ。その頃、俺と一と宮森さんは同じクラスで、課外授業とかで同じ班になった縁で仲良くなってな。それからなんだかんだ好きになっちまってよ。だけど、クラスも変わって今ではあまり交流もなくなっていてどうにかしたいと思っていたんだわ」

 大和は過去を回想しながらため息を吐くように本音を言った。

 小野大和は正に平凡と言う言葉がよく似合う男だった。中肉中背、見た目もイケメンでもなければ不細工でもない、学力も上から数えた方が早いけど決して目立たない、友人関係も男女ともにそこそこで学園生活には困らない程度にいるそんな生徒だった。これだけ普通であると言うことはある意味では十分に恵まれているとも言えるし、実際に周りの生徒からも十分に勝ち組側のように思われることが多かった。

 しかし当の本人はそうではなかった。なぜなら本物の勝ち組男子で学年カーストの頂点にいる一ノ瀬一というデカい壁が一年の頃から存在し、それを目の当たりにして来たからだった。
 
 そもそも生徒会で巴と一は知り合いで、バスケ部では一と大和が友達だった事で、大和は巴とも仲良くなった経緯もあり、常に巴の隣には一がいて、その後に自分がいるように感じていた。それ故にスーパー優等生の一と比べれば自分のような平凡男子は全く巴にアピールできていないのではないかと常々に思っていたため、これまで積極的に行動できなかったという事情もあった。しかし、今回似たように恋に悩む親友の尊が覚悟を決めたことで大和自身も気合いが入り告白したいという想いになっていた。

「よし、大和。二人で協力してお互いに告白ができるチャンスを作ろうぜ」

「了解だ。一に確認したところ生徒会の人たちも、もう来ている時間だから他の連中が来る前に俺は先に宮森さんを誘ってみるから、それまで場所取りをお願いできるか」

「もちろんだ。お前が帰ってくるまでは俺がここを守ろう。忍が来たら今度は俺が男を見せる番だぜ」

「サンキュー、相棒。お互いの検討を祈るぜ」

 尊と大和は同じ思いで苦しむ仲間を手に入れた高揚感でハイタッチを交わし男の友情を深めるのであった。

 そんな二人の姿はいわゆるマラソン中にどんなに走っても苦しくならない“ランナーズ・ハイ”のように、どんなに勝算のない恋路でも勢いでどうにかなるんじゃないかと勘違いする“ラバ-ズハイ”の状態に陥っている様子だった。

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