青春クロスロード

Ryosuke

夏休み その2 三佳の陸上全国大会➀

 7月末、夏休みに入り1週間が経つ頃、二郎は特にやることもなかったためバスケ部の練習に朝から参加していた。ここ琴吹高校男子バスケ部は練習参加の縛りが非常に緩く人が集まればチーム練習や試合を、集らなければ自主練をすると言った自由な部活だった。この日は二郎の他に3人ほど参加していたので、個々でシュート練習をしたり、2on2などの軽い練習をする事になった。

 練習が終わり片付けを始めた12時前、体育館入り口に遠くからでもよく目立つ金髪の少女が一人、こちらに向けて手を振っているのに気がついた。

「ジロー、久しぶりです。ちょっと良いデスカ」

 声の主は2年4組で写真部所属、二郎のお茶友達の輝く金髪と美しい青い瞳そして見る人を元気づけるようなはじける笑顔のレベッカ・ファーガソンだった。

 レベッカの声に隣で部活をしていたバトミント部の生徒も何事かと手を止めたが、用事の相手が隣のバスケ部だと分かり気にせず練習を続けた。

 二郎は突然現れたレベッカに内心驚きながらも、少し待つように声を掛けて、急いでボールなどの用具をしまいモップがけをして、午前中の部活を終えた後でレッベカの元へ向かった。

「ごめん、ごめん、待たせてしまって。どうした、こんな夏休みに学校に出てくるなんて珍しいじゃんか」

「急に声を掛けてごめんなさいデス。部活の用事で生徒会に呼ばれたんデス」

「そうだったのか、それで一体どんな用なんだ」

「実は二郎のクラスの馬場三佳さんが陸上の全国大会に出るのは知ってマスカ」

「おう、知っているぞ」

「その大会の日に写真部で取材に行ってほしいと頼まれたのデス」

「そりゃ大変だな。がんばれよ。・・・それで俺と何か関係あるのか」

「もちろんデス、ジローも一緒に行きマス。頑張りまショウ!」

 レベッカは誘うのでもなく、頼むのでもなく、決定事項を伝えるかのごとく陸上の全国大会の取材を決行する事を話した。

「何を言ってるんだ、レベッカよ。なんで俺が行かなきゃいけないんだよ。誰がそんなこと決めたんだよ」

「え?!だって鬼の副会長サンにジローも行くから私も手伝ってほしいって言われて、それで私もOKしたんデスヨ。それと生徒会の一ノ瀬君も一緒に行きマスヨ。ジローのフレンズですよネ」

 どうやら二郎は凜によってレベッカを取材に協力させるためのダシとして使われたようだった。

「あの性悪女め、少し美人だからって勝手に人の夏休みの予定まで決めやがって、今度こそガツンと言わせて、あのいつも綺麗で涼しい顔を困らせてやるしかないな。一の奴も何も言ってこないし、ちょっと生徒会室に行くからレッベカも来てくれ!」

 右手にグーを作り左の手のひらに拳をパンパンと打ち付け気合いを入れる二郎が体育館入り口から生徒会室へ向かおうと振り返ったところ、目の前には背中まで伸ばした綺麗な黒髪をなびかせて、この暑苦し真夏の室内とは思わせないような涼しい顔立ちをした生徒会副会長の二階堂凜が立っていた。

「あら、二郎君、どこ行くのかしら。私にガツンと言わせたいなら、いくらでも言ってあげるわよ。・・ガ・ツ・ン!」

 凜は二郎の耳元でどこか色っぽく言葉を言うと、片手に持っていたキンキンに冷えたスポーツドリンクの缶を二郎の首筋に押し当てた。

「冷て!凜先輩、なんでここに!」

「なんでって、一君が今日は二郎君が珍しく部活に来ているって教えてくれたから差し入れを持ってきてあげたのよ、ほら」

「そうだったんですか、それはどうも。・・・それでさっきの話しですが・・・あの・・」

「なーに、さっきの話しって、私が美人って話しかな、それとも性悪女って話しかしら」

「それは当然、凜先輩は美人で優しくて皆の憧れという話しですよ」

「そう、それはありがとう、二郎君」

 カエルがヘビににらまれたかのように二郎は震えながらに言った。

「ジロー、全部バレてマスネ、鬼の副会長さんを甘く見ちゃ駄目デスヨ」

「レベッカさん、誰が鬼ですって」

 凜は笑顔でレベッカをにらみ付けた。

「バカ、レベッカ、死にたいのか、お前!」

「ノー、アイ キャント スピーク ジャパニーズ。ワタシ ニホンゴ シャベレマセン。ゴメンネ、ゴメンネ」

 自分の失言を外人ネタでごまかそうとしたレベッカであったが、時すでに遅しだった。

「あなたたち、人をなんだと思っているよ!」

「「ごめんなさい!!」」

 その後、まさに鬼と化した凜によって2人は仲良く怒られ、ようやく話しを進めることになった。

「それで、凜先輩。なんで俺が取材とやらに行かなくちゃいけないんですか、何の話しも聞いてませんよ」

「そりゃしてないわよ、今日決まったのだから。実は琴吹高校創設以来、初めて全国大会に出場する馬場さんの事を号外の生徒会新聞で取り上げるように校長先生から話しがあってね。それで写真部にお願いしたのよ。本当は生徒会総出で行った方が良いんだけど、私ら部活の予算編成で忙しいし、なによりインタビューするにも馬場さんは2年生だから、同じクラスの一君や二郎君の方が良いかと思ってね。それでお願いしたって事よ」

「いや、お願いするって言うか、もう決定事項じゃないですか。インタビューするなら一とレベッカで十分でしょうが」

 二郎は当然の疑問を凜にぶつけていた。そもそも二郎は写真部でもなければ生徒会でもないのだ。ましてや陸上部でもなく何一つ関係性のない自分が取材に行けといわれても全く意味が分からない状態だったので、さすがに納得しがたい話しだった。

「確かに二郎君には関係ない話しだけど、レッベカさんも一君も初対面だから、一日一緒にいるのも気を遣って大変だと思ったのよ。それにカメラの機材も結構重たくて運ぶのも大変だから荷物持ちとしてついて行ってあげてほしいのよ。駄目かな。二郎君なら二人とも仲良しだし馬場さんとも同じクラスで知り合いでしょ、適任だと思ったのよ。どうかな」

「まぁ特に予定もないし、そういうことなら仕方がないですけど、今度は先に話して下さいよ。いくらなんでも強引すぎますよ、今回の話しは」

 二郎は依頼を聞き入れながらも、もう少し配慮をしてほしいと凜に少し強めに言い聞かせた。

「ゴメンね、二郎君。今回は私が悪かったわ。今度お詫びにごはん奢るから怒らないでね」

 普段見せないようなしおらしい態度で両手を合わせて謝る凜の姿を見て、二郎は思わずドキリとして顔を逸らしながら言った。

「分かりましたよ、行けば良いんでしょ。それでいつどこでやるんですか」

「ありがとう、二郎君。日時は8月6日土曜日、埼玉県熊谷市の陸上競技場よ。10時ごろに会場に着けば大丈夫だと思うわ。インタビューの詳細は一君に伝えておくからよろしくお願いね」

 笑顔に戻った凜が二郎に詳細を伝えている横でレベッカが小声でつぶやいた。

「副会長さんは鬼じゃなくて魔性の小悪魔ですネ、ジローはチョロい男ですネ」

 こうして三佳の陸上全国大会の取材を一、レベッカ、二郎の3人で行うことになった。

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