青春クロスロード

Ryosuke

ある梅雨の日 その4 ~剛の誤算~

徐々に気温も上がり始め、じめじめした空気が気持ちを萎えさせ、燦燦と輝く太陽が一段と恋しくなり始める7月上旬。夏を感じさせるこの季節に、もやもやとした気持ちでどこか落ち着かない生徒が一人、未だ明けない梅雨空のように心を灰色に染めながら悩んでいた。

 それは2年1組、サッカー部のエースで学年一のモテ男といっても過言ではない工藤剛だった。剛は高校に入ってからすでに3人の女子から告白されており、そのすべてを断り今の状況に至っていた。他に自分を好きだという女子が多数いることを友人からよく耳にしており、剛自身、うぬぼれではなく自分はそれなりにモテる方だと考えていた。そのため、自分がデートに誘えば失敗する訳がないとどこか高をくくっていた節があったのは否めない。しかし、それは正真正銘の学校内一のモテ女である馬場三佳の前では荒唐無稽な幻想であったことを剛は思い知らされていた。

 時は少しだけ遡り6月ももう終わりという時期、梅雨による校内練習が続き、陸上部の三佳と接触が増え、自分に対して好意的な態度に変わってきたと感じ始めていた頃、剛は思いきって三佳をデートに誘うことを決意していた。

 いつものように練習前の準備運動を渡り廊下で行っていた三佳に、剛はデートの話を打ち明けた。

「馬場さん、今日も雨で嫌になるね」

「そうだね、梅雨は嫌いじゃないけど、そろそろ晴れたグランドで思いっきり走りたいよ」

「本当にそう思うよね。俺も早くサッカーを外でやりたいよ。そういえば、もう7月になるけど夏休みとかは部活あるの」

 剛はいつものように当たり障りのない話から始め、本題に入ろうと話題を変えた。

「8月に全国大会があるからその調整もあるけど、夏休み入ってから1週間くらいは少し休みがあると思うから、どこか遊びに行けたら良いなぁ。剛君はサッカー部忙しいの」

 三佳はいつもと変わらず世間話と思いながら会話を続けた。

「サッカー部は合宿に行ったり、試合があったりするけど、普通に休みもあるよ。そっか、陸上部も少し休みがあるなら、一緒に遊園地でも行かないか。実はペンギンランドのチケットがあってさ。ちょうど7月中頃まで使えるチケットだから誰かを誘いたいと思っていたんだ。もし馬場さんが良ければ、夏休みに入ってすぐにでもどうかな。全国大会前の良い気晴らしにでもなると思うよ」

 剛は余ったチケットがもったいないからという、少し控えめな誘い方をしつつも三佳の夏休みの予定にうまく付け込むようにデートに誘った。

「ペンギンランドか、なるほど、それは楽しそうだね。そうだな、予定がはっきりしないから何とも言えないけど、そうだね。うーん。ちょっと部長に予定を確認してくるよ。ちょっと待っててもらえるかな」

 三佳は突然のデートの誘いにどう断ればよいかわからず、その場を離れる口実を作り一度剛から離れて考えることにした。

(これってデートの誘いだよね。まずったな、本当はエリカにでも相談して、すみれと剛君をどこかのタイミングで引き合わせようと思っていたのに、先に私がデートに誘われたらどうしようも出来いないじゃん!あーどうしよう。うーん。部活があるって断れば一番いいけど、さっき少し休みがあるって言っちゃったしなぁ。うーん、デートかぁ。デート?まだデートなんて一言も言ってないし、二人で行こうとも言われてないよね。よし、正式にデートになる前にすみれとかエリカを誘って、友人グループでの遊びイベントにしちゃえばいいや。ナイスアイデア、私!)
 
 三佳は普段めったに使わない頭をフル回転させ、どうにかこのデートの誘いをすみれと剛を引き合わせる場にしようと目論むのであった。

「剛君、お待たせ!今部長に確認したら、やっぱり夏休みに入って数日はお休みがあるみたいなの。それで私思い出したんだけど、クラスの仲の良い友達がペンギンランドに行きたいってこの前話していてね。どうせならお互い友達誘って皆で気晴らしに遊びに行こうよ。私もあそこのジェットコースターを乗りたかったんだよね。どうかな?」

「え、みんなで!?でも、チケットは2枚しかないよ。だから今回は2人で行った方がいいんじゃないかな。みんな忙しいだろうしね」

 剛は実際には持っていない架空のチケットを盾にどうにか二人で行くための理由を考えて三佳を誘うが時すでに遅しだった。

「でも、前売り券とか当日券も普通に買えるよね。私は自分で当日券を買うから友達にそのチケットはあげたらいいよ。これでチケットも無駄にならないでよかったね」

「そ、そうだね。わかった。それじゃ、俺は友達に声をかけてみるから、馬場さんも友達に話してみてくれるかな」

「OK,それじゃまたメンバーが決まったら教えるね」

 三佳の提案をこれ以上崩すことはできないと悟った剛は、何とか断られなかったことを良しと自分に言い聞かせて、話をまとめることにした。

 こうして剛の三佳とのデートの計画は、一瞬にして消え去ったのであった。


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