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レッドサンブラックムーン -機密解除された第二次大戦における<異世界からの干渉>および<魔獣との戦闘>に関する記録と証言について-

弐進座

湖上の月(Moon over the lake) 3

【シカゴ】
 1945年5月31日

 その日、ターゲットの周辺空域では積雲が小さな群れを形成していた。それらは羊の群れのように、今や巨石ビルディングの廃墟と化したシカゴ上空を遊弋している。その雲の群れの間を縫い、3機の怪物ベヒモスが銀色の翼を広げて突き進んでいた。

 反応弾爆撃のため、ウィチタの仮設飛行場より飛び立ったB-29の部隊だった。低空では護衛機のP51マスタング編隊スコードロンが這うように警戒飛行している。

 遠目では、いずれのB-29も同じ型式の機体に見えたが1機だけ明らかに異なっている。機体の中央下部に丸みを帯びた膨らみが形成され、機首下部にはレーダーアンテナがむき出しのまま設置されていた。まるで身籠もったペリカンのようだった。

 偵察型のERB-29だ。機体下部の丸みにはアナログ演算機と高高度偵察用のカメラ、そして地上捜索用のレーダーが実装されている。尾翼には勇壮な太陽神アポロが描かれていた。

 機長のスティーヴン・アームストロング少佐は周辺空域の状況を分析すると、通信士に要約して伝えた。

「デンバーへ打電。雲量は2。視界は良好」

 視界は確保できている。有り体に言ってしまえば、晴れた空だった。
 機体の高度計33000フィートを指していた。

「いったいどういう気分なんでしょうね」

 副機長のマーカス大尉が先行する2機を見据えて言った。困惑とも呑気ともとれる口調だった。

「さあな。ただ断言は出来る。決して良いものではないだろう」

 アームストロングは苛立ちを隠しながら首を横に振った。マーカスがスティーブよりも年上に関わらず、副機長バイス止まりのなのはそれなりの理由があった。こいつは聞かずともわかることをなぜ聞いてくるのだ。
 想像したくもないではないか。
 母国の街を、自らの手で灰燼に帰す気分など知りたくもない。

 しかし、アームストロングがこれから起きることから眼を背けるのは許されなかった。
 彼が乗るERB-29アポロの負った任務こそ、人類初の反応弾攻撃の顛末をあまねく全て記録することだからだ。

 機体に備えられた光学、電子の捜索機器を全方位に稼働させ、送られたデータをフィルムとペーパーに記録し、持ち帰る。それらのデータは後の反応兵器開発を促進させる起爆剤となり、またニュースフィルムによって国民の士気を高める麻薬として用いられる予定だった。

「高度を上げろ。目標を先にフィルムに収めておきたい」

 主翼に取り付けられた四発のジェネラル・エレクトロニクス製R-3350が回転数を上げ、ERB-29を遙か成層の高みへと押し上げていった。アームストロングは偵察員にカメラを用意させた。BM、そしてこれから跡形もなく吹き飛ぶシカゴの姿を記録メモリーに残すためだった。

 ふとプライマリースクールの記憶が頭をよぎった。そうだ。あれは10歳の歴史の授業でのことだ。第一次大戦の戦いの記録フィルムを見せられた。塹壕から飛びでた瞬間に機関銃でなぎ倒される兵士達、降り注ぐ砲弾の雨、そして廃墟と化した風車と堤防の街が映し出された。それらは幼年期の彼にとって、どこか遠い世界の出来事のように感じられた。
 海の彼方、あるいは別の星の出来事だと思っていたはずの光景にアームストロングは当事者として立ち会っていた。
 数十年後、彼の息子あるいは娘が歴史の授業を受けたとき、果たして何を思うのだろうか。少なくとも遠い国の話とは思わないだろう。そこに映し出されているのは、間違いなく母国の惨状ステイツなのだから。

「スティーブ、捉えました。たしかに黒玉ボールが増えています」

 偵察員が機械的な報告を上げてきた。感情を抑えているのだろう。アームストロングは双眼鏡を構えた。

「……天体図か」

 眼下の要約としては、的確だった。
 直径数百メートルはあるシカゴBMの周辺を、ミシガンから飛来した4つの小BMが不定型な軌道を描きながら周回している。まるで母星と衛星のようだった。

「アポロよりトール各機へ。マザーとチルドレンを捉えた。事前偵察の状況から変化はない。マザーの周辺を目測30ノットほどで周回している」

 トールと呼びかけられた2機のB-29は、それぞれ『了解』と短く返した。2機とも反応爆弾の投下態勢に移行しつつあった。

『トール1よりアポロへ。これより爆撃コースへ入る。ゴーグルを着けろ。ハンマー・・・・の火で眼をやられるぞ』
「了解。気をつけろ。周辺空域はクリアだが――」

 警報音がけたたましく鳴り、編隊に緊張が走った。

「アラート!」

 レーダー員が裏返った声で正体を知らせてくる。

「5時よりアンノウン反応1! 高速で接近中! まもなくコンタクト!」

「全周警戒! 武器使用を許可する」

 間髪入れず、尾翼の機銃座から発砲音が鳴り、銃座から無線が入る。

『スティーブ、下です! 何かが高速で……ファック! ドラゴンだ!』

 シカゴBMを守っていたブラックドラゴンが高速で上昇してきた。アームストロングは指向可能な銃座の火力を叩き込ませたが、分厚い上皮にはじき返された。護衛機のP51が追いすがるも間に合いそうになかった。

 ドラゴンは咆哮を上げるや、喉元から火球フレアを放った。紅蓮の炎が巨人の群れへ向っていく。
 間に合わないことはわかっていた。それでもアームストロングは叫ばずにはいられなかった。

「トール各機へブレイクしろ! フレアがそっちへ――!」

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