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レッドサンブラックムーン -機密解除された第二次大戦における<異世界からの干渉>および<魔獣との戦闘>に関する記録と証言について-

弐進座

五大湖戦区(Lakes front) 10

 月が見えるとネシスは言った。日が昇っている頃合だ。まして新月というわけではない。ならば、結論は一つだろう。

「BMなのか……。まやかしの類いではないな?」
『妾を見くびるな。おのれ……!』

 ネシスは苦しげにうめいた。目前の脅威に悪寒を感じながら、儀堂は思考を巡らせた。

――4つのBM。あいつネシスが言うのだ。見誤ったわけではないとすれば……。

 周辺にあるBMは、それぞれシカゴ、インディアナポリス、デトロイト、そしてトロントだった。

――莫迦な

 一番近いシカゴですら、直線距離で400キロ以上離れている。オアフBMの最大速度が30ノットだったことから逆算しても、7時間以上はかかる。その間、連合国側が何も気づかなかったとは考えにくかった。エクリプス作戦が発動前から連合国は作戦目標となっている4BMを航空機によって、定期的に観測してきたのだ。作戦発動後は、より頻繁に航空偵察を行っている。異変があればすぐに気づくはずだった。

 ここまで考えたとき、儀堂はある可能性に気づいた。極めて初歩的なことだった。

「ネシス、お前が見ているBMの大きさはどれくらいだ?」
『やはり、お主は聡い男じゃのう』

 ネシスは追い詰められた犯罪者のように続けた。

『どれも小さく、せいぜいがこの戦船いくさぶねほどの大きさじゃ。生まれたて・・・・・じゃよ』
「畜生。やはりそういうことか」

 4BMいずれでもないとすれば、新たなBMに他ならなかった。そいつが<宵月>を囲むように現われたとなれば、もはや敵の狙いは明らかだった。

「天の民とかいう輩は、ずいぶんと素直な性分らしいな」
『なんじゃと?』
「連中にとって、オレ達は余程目障りなのだ。どうしてもシカゴへ行かせたくないのだろう。きっと――」

 至近弾が炸裂し、<宵月>が大きく揺らいだ。手すりにつかまり、儀堂は心の中で静かに罵った。

「オレ達がシカゴにつくと、連中にとってさぞや都合の悪いことが起こるらしい」
『ほほう、それはまたそそる話じゃ。しかごとやらは余程に良い街なのじゃろうな』
「そうだな。オレも行ったことはない。是非とも見聞したくなった。ただ、そのためには、ここを突破する必要がある」
『退くか進むか、それが問題じゃな』
「……ハムレットか?」
『何の話じゃ?』
「いや、何でも無い。ネシス、飛べるか?」
『無論じゃ』
「よろしい。これから敵の包囲を突破する。このままでは、十字砲火で我々はミシガンの魚礁になるだけだからな」
『よかろう。ただし、あの月と同じ高さまでは連れて行けぬぞ。結界をはりつつ、<宵月>を持ち上げるのは、さすがの妾でも骨が折れるのじゃ』
「そこまで飛ぶ必要は無い。この霧が晴れる高さまで飛んでくれ。まずは視界を取り戻す」
『ふむ、わかった』

 <宵月>を取り囲むように、方陣が組まれた。すぐに離水し、高度を上げていく。相反して光弾の命中率は下がっていった。光の矢は次々と空を切り、<宵月>から遙かに離れた水面へ着弾している。

――ネシスは生まれたてと言っていたが、新兵のようなものか。

 儀堂は光弾の軌跡を追いながら、敵の能力を分析した。新たに現われたBMの練度は高くないようだが、どうにも腑に落ちなかった。敵は<宵月>を捕捉するために、周到に準備してきているはずだ。

――オレが、敵側で、この艦の能力を知っていたとしたら……まずい。

 敵の意図に気づいた儀堂は、自身の選択が誤りであることに気がついた。

「ネシス、待て! 恐らく奴らは――」

 <宵月>の艦橋に光が差し込み、船体を陽光が包み込んだ。霧の外に出たのだ。儀堂は自身の判断が遅れたことを察した。

「ネシス、全周囲を防御しろ! 直撃が来る」
『なんじゃと!?』

 間髪入れずに、<宵月>へ向けて4つのBMから光線が放たれた。

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