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レッドサンブラックムーン -機密解除された第二次大戦における<異世界からの干渉>および<魔獣との戦闘>に関する記録と証言について-

弐進座

五大湖戦区(Lakes front) 9

 <宵月>を囲むように飛来した光弾は、ネシスの方陣によって防がれた。依然として周囲を霧が取り巻いているため、火点を目視で特定するのは困難だった。
 光弾による衝撃波に揉まれながら、儀堂は演算機のような正確さで状況を認識していた。まず<宵月>で誰よりも、外界を把握しているものに問い合わせることにした。

「ネシス、敵の位置はどこだ? ついでに正体もわかると助かる」

 数秒の沈黙の後、答えが返される。

『すまぬ。妾も試しているのだが、さっぱり掴めぬ。まるで靄がかかっておるように見えぬじゃ……』

 押し殺すような声だった。直感的に儀堂は気づき、すぐに続けて尋ねた。

「その口調……よもや、相手が誰かわかっているのかい?」

 喉の奥をならすような、ひくついた音がした。笑っているのだ。

『まったく、お主は残酷なほどに聡い男じゃな』
「――何者だ?」
『定かではない。それでも聞くか?』
「もったいぶるな」

 たしなめるように儀堂は言った。ネシスは低く嗤いながら「すまぬ」と返した。

『奴らじゃ、光の民どもよ』

 僅かに息を呑んだ。

「ラクサリアンとか言う奴ばらどもか」
『左様、妾を貶めてくれた奴らじゃ』
「なぜ、奴らだと思う」
『かつて妾が刃向かったとき、全く同じ手を使ってきおった。霧で視界を閉ざし、五感を徐々に封じて、身動きをとれなくするのじゃ。言っておくが、気持ちの良いものではないぞ。一方的に嬲られるのじゃから』
「さぞかし屈辱的だろう。オレは御免被るぞ。何か手はあるのか?」
『わからぬ。だが、迂闊に進まぬ方が得策であろう。可能ならば、ここは一度退くが――』

 再び<宵月>を衝撃が襲った。光弾があられのように降り注いできたのだ。

『おのれ……!』

 <宵月>を包み込むように方陣が展開された。光弾は容赦なく方陣を叩いた。苦しげな呻きが、耳当てレシーバーから漏れてきた。
 儀堂は即断した。喉頭式マイクのスイッチを切り替え、高声令達器へ接続させる。

「取り舵いっぱい、機関全速で180度回頭。甲板にいる者は、ただちに艦内へ退避しろ」

 増速と同時に<宵月>の艦首が左へ向き始める。航跡が大きな弧を描き、その跡を挟み込むように光弾が落下し、湖面が穿たれていく。 
 興津が手すりで身体を支えながら、やや慌てた様子で儀堂へ顔を向けてきた。

「艦長、どうなさるおつもりで?」
「シカゴBMから離れる。遺憾だが、仕切り直しだ」

 再び喉頭式マイクのスイッチを切り替えた。

『なにやら騒がしいのう』
「ここは退く。それまで持ちこたえられるか?」
『無理じゃと言っても策はなかろう?」
「軽口を叩けるのならば大丈夫だな」
『ふん、妾としたことが語るに落ちたわ』

 思わず、苦笑しかけた儀堂は中断されることになった。
 電測室から戸惑うような声で報告がもたらされた。

『対空電探に反射波在り。何ものかが本艦を取り囲んでいます。反応数は4。いずれも距離は3200』
「3200だと? 至近すぎる」

 興津が責めるように聞き返した。いくら何でも近すぎる。今までなぜ反応がなかったのだ。
 儀堂は疑問に思わなかった。ネシスからラクサリアンの可能性について聞かされていたからだった。彼は日常会話のように電測へ問いかけた。

「デビル型か?」

 答えは電測室ではなく、ネシスからもたらされた。

『ギドー、謀られたようじゃ』

 鉛のように重々しい口調だった。巫山戯ふざけているわけではないらしい。

「何が見える」

 しばらく間が空いた後、絞り出すような吐息が漏れた。

『月じゃ。月が見える』


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