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レッドサンブラックムーン -機密解除された第二次大戦における<異世界からの干渉>および<魔獣との戦闘>に関する記録と証言について-

弐進座

五大湖戦区(Lakes front) 6

 六反田は単身で五大湖近くまで来ていた。彼の副官従僕たる矢澤中佐はビスマークに留守番させている。いざとなったときのための中継要員として、残ってもらったのである。月読機関は壇之浦作戦のために、各地へ要員を送り込んでいる。彼等が上げてくる報告を集積し、正しく配分できる人員が必要だった。

 六反田はマディソン近くの野戦飛行場に降りると、そこからジープをすっ飛ばしてきていた。ジープは戦車と魔獣の残骸の間を縫うように駆け抜け、第二十増強戦車大隊の本部近くで止まった。

 数分後、東島と話を終えた本郷が姿を現わした。本郷は彼にしては希有な表情を浮かべていた。彼は誰の目から見ても明確なほど率直な怒りを浮かべていたのである。

 六反田は納得した面持ちで肯いた。

「その様子だと、あらかたの事情は聞いたようだな」
「はい……」

 数秒の沈黙が二人の間で流れた。六反田はおもむろにドアを開け、ジープから降りた。そのまま本郷の肩を叩いた。

「少し歩こうじゃないか」

 六反田は大隊本部から離れる方向へ足を向けた。一、二歩遅れて、本郷が続く。

「<宵月>からの通信が途絶えた」

 前触れも無しに六反田は言い放った。まるで三行半を突きつけられた心境で、本郷の足を止めた。数歩離れて、六反田は振り返った。

「三日前、シカゴBMを目視したと報告があった。それから連絡が全くつかん。何らかの問題が生じた可能性が高い」

 淡々と朗読するように六反田は言った。作戦計画の上では、<宵月>はしばらく待機することになっていた。そして味方の航空隊がシカゴに到着するまで、シカゴBMを監視し、定期報告を行うはずだった。航空隊の到着した後は、<宵月>はシカゴBMへの牽制攻撃を開始する段取りだ。

 本郷は心拍数の上昇と反比例するように、顔面が青ざめていくのがわかった。

「まさか魔獣との戦闘で? それともまさかオアフのようにシカゴのBMが動いたと?」

 絞り出すように言う。

「わからん。俺も昨日ようやく手を打つ算段が整ったところだ。それこそ陸さんと海軍をかけずり回って、整備中だった航空機で、やっとここまで駆けつけたのさ。まあ、本当のところはシカゴまで直行したかったのだが、中継できる飛行場が遠すぎてな。ここまでが限界だった」
「それは……」

 忸怩たる思いが本郷の心中を覆い尽くした。壇之浦作戦の予定では、<宵月>を支援するため飛行場を確保していなければならなかった。しかし、現実は大きく裏切っている。遣米軍の出現で状況が変化しすぎたためだ。結果的に本郷の判断に迷いが生じ、それが飛行場確保の遅れとなって現われた。

 マディソン近郊に飛行場が建設されていれば、<宵月>の安否をもっと早い段階で確認できたかもしれない。
 思わずにはいられなかった。もっと早く決断しておれば……。

「閣下、自分が飛行場を――」
「あのパイプ野郎マッカーサーめが……!」

 六反田は本郷の懺悔を断ち切った。

「あの野郎が無茶言いやがったせいで、俺が押さえていた航空隊まで遣米軍の援護に回されちまった。なあ本郷君、理不尽きわまりないだろう。どう思うよ?」

 六反田は口元を歪めた。遠回しに本郷の行いをたしなめていた。彼にとって懺悔など無意味だった。告解をされたところで、赦しを与えられるわけではない。必要なのは建設的な行動だった。

 六反田の真意を理解し、本郷は恥じ入った。六反田は部下の思考が正常化されたのを認め、労うように続けた。

「元々困難な任務だったことは百も承知だ。むしろ君がここまで進出してくれたおかげで遣米軍は多少なりとも楽ができたらしい」

 胸ポケットから煙草出すと、本郷に勧める。本郷は丁重に断った。六反田は気にするそぶりも見せず、自分の煙草に火をつけた。いかにも不味そうに吸う。

「その点は大いに評価されるべきところだ。誤解するな。お前さんを信じなかったわけではない。さもなければ、こんな魔獣だらけの原野に送り出すものか。俺はね、自分の都合で世間は出来ていないと自覚しているだけだ。言いたいことはわかるな」
「ええ、わかっているつもりです」
「よろしい。ならば君には、私の都合で理不尽に付き合ってもらうぞ」

 本郷は背筋を伸ばした。いかにも陸式の将校がとりそうな所作に、六反田は苦笑した。

「本郷中佐に命じる。シカゴへ向え。そこで<宵月>の安否を確認し、子細を報告せよ。危機的状況にあった場合、可能な限り支援してくれ。以上」

 六反田は煙草を吸いきると、ジープへ戻り、すぐに発進させた。彼はこれから遣米軍司令部へ向い、栗林大将へ直談判するつもりだった。本郷中隊と<宵月>を支援するため、一機でも多く航空隊を回してもらわなければならない。いざとなったら軍令部を動かして海軍隷下の航空隊を押さえてしまうつもりだ。

――まあ、憎まれるだろうな。

 六反田はジープが産み出す風に叩かれながら思った。

 まあ、いい。慣れているさ。

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