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レッドサンブラックムーン -機密解除された第二次大戦における<異世界からの干渉>および<魔獣との戦闘>に関する記録と証言について-

弐進座

五大湖戦区(Lakes front) 5

【マディソン近郊】
 1945年5月26日 夕

 本郷が第二十増強戦車大隊の天幕を訪れたのは、空が黄昏に染まり始めた頃合だった。指揮官用の天幕、その内部は閑散としていた。折り畳み式の机に、申しわけ程度のパイプ椅子が2脚ほど添えられている。

「このようなかたちで会おうとはな。元気そうで何よりだ」

 かつての上官、東島大佐は無表情に近い面持ちで本郷を迎えた。相変わらず何を考えているのか全く読めない人物だった。

「ええ、大佐もお変わりなく……」

 本郷は微笑で取り繕うことにした。合わせるように東島は笑った。

「安心したまえ。貴官等の任務について、私は何も聞かぬよう釘を刺されているのだ」
「その、お騒がせして申しわけありません」
「かまわんよ。よくあることだ。我々はそれぞれ覗いている世界が異なる。ただ、それだけのことなのだ。肝心なのはお互い異なる世界の規則に縛られていると自覚することだろう。それこそが他者を尊重するための第一歩だと私は信じている」
「……同感です」
「お互い見解が一致して喜ばしく思う。ところで……あの少女、ユナモは元気か?」
「はい」

 本郷はゆっくりと肯いた。

「そうか、それは誠によろしい」

 東島は静かに肯定した。本心のようだった。

「さて、座りたまえ」

 東島はパイプ椅子を指した。勧められるままに本郷が腰を下ろすと、東島は向かい合うように座った。

「六反田少将がこちらに着くまで、今暫くかかるらしい。その間に現況について、君へ共有を行うように言付かっている」
「六反田閣下がこちらに?」
「その通りだ」

 意外に思った本郷だが、すぐにその理由がわかった。無線では話ができない。恐らく誰かに傍受されたくないようなことを話に来るのだろう。
 腑に落ちた様子の本郷に、東島は遣米軍が置かれた状況を端的に説明した。

「要約すれば我々は魔獣へ差し出された生き餌なのだ」

 合衆国が失った2発の反応爆弾の代わりに、五大湖周辺の魔獣を遣米軍に掃討させるつもりだった。マッカーサーは良くも悪くも日本軍の気質を正しく理解していた。すなわち、日本軍インペリアルアーミー天皇陛下エンペラーの矜持に泥を塗るような真似は絶対にしない。

「もし、この戦いに背を向けた場合、我が軍は臆病者として、北米に名前を刻むことになるだろう。私見では臆病であることは恥とは思わんが、遣米軍や日本にとって酷く都合の悪い事態なのだ。ここの暮らしが長い君ならばわかるだろう?」
「対日感情の悪化ですか?」

 東島は完全に皮肉を込めた笑いを浮かべた。

「その通り。合衆国はマスメディアと民衆の力が圧倒的に強い国だ。今回の作戦で我々が協力を拒んだならば、こぞって合衆国のマスコミはそれを喧伝し、不信感を焚きつけるするだろう」
「だからこそ、我々は血を流す必要があるわけですね。身を挺して窮地の合衆国を救ったサムライの子孫達として……」
「なかなかに劇的ドラマチックではないかね」
「ええ、近代的な英雄像ヒロイズムに溢れています」

 吐き捨てるように本郷は言った。悪い夢を見ているようだった。

「それで、遣米軍はどこまで突き進むのですか?」
「ロックフォードまでは目算が立っている」

 ロックフォード、確かシカゴまで北西100キロほどの街だ。近いと感じるのは、北米に長く居すぎたからだろうか。

「しかし、そこから先は不明だ。私はそこまでが限界だろうと思っている。遣米軍司令部も同様の意見であること強く望むよ」
「合衆国軍は何をやっているのです。我々よりもよほど戦力は潤沢でしょう?」
「遣米軍が攻勢限界に達するのを待っているのだ。我々が悲鳴を上げたところで、彼等が動き出す。そう騎兵隊のような迅速さで」
「そんな莫迦な……」

 本郷は言葉を失った。完全に捨て駒ではないか。
 つまり、それが連合国における日本の立場なのか。
 サムライの危機に駆けつける騎兵隊。
 素晴らしき同盟国の証明。
 星条旗よ、永遠なれ。
 そして日章旗にこそ幸あれ。

 かつての上官の話が終わった頃、兵士の一人が訪問者を告げてきた。
 今の上官が辿り着いたらしい。

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