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レッドサンブラックムーン -機密解除された第二次大戦における<異世界からの干渉>および<魔獣との戦闘>に関する記録と証言について-

弐進座

五大湖戦区(Lakes front) 4

――こいつはまた困ったことになったな

 本郷史明少佐は後頭部をかいた。考え事をする際に、彼が行う癖のひとつだった。本郷の手をとめたのは、車内無線の声だった。装甲板を隔てて、数メートル先から発信されたものだった。

『ホンゴー』

 平坦な口調でユナモが語りかけてきた。

「ん、どうした?」
『ナカムラが戻ってきた』
「おお、そうか。ありがとう」

 本郷は再び展望塔から身を乗り出した。木々の間を縫って駆けてくる中村大尉の姿が見えた。

「隊長、ただいま戻りました」
「ご苦労」

 マディソン攻略中の部隊を特定させるために本郷は中村を送り込んでいた。

「それで、どこの部隊だった?」
「戦車第18連隊です。部隊章エンブレムから一目瞭然でしたよ」
「18連隊、となると島田大佐の部隊か」
「お会いしたことが?」
「いいや、ないな。展開規模は?」
「マディソンをぐるりと包囲してますね。歩兵も随伴させているんで、ありゃあ、連隊どころか師団の全力を繰り出していてもおかしくはないです」
「そうか。助かったよ。君は自車へ戻ってくれ。追って指示を出す」

 中村は短い返事ともに礼をすると、五式戦車チリ我が家へ帰宅していった。その背中を見送りながら、再び本郷は後頭部をかいた。

「やれやれ、どうしたもんかな」
『ホンゴー、どうした?』

 無線が切られて無かったらしい。ユナモが尋ねてきた。本郷はしまったと思ったが、そのまま会話を続けることにした。

『ホンゴーは何に困っているの? あの街のまわりにいる人たちが原因か? あの人達を無くせば解決する?』
「いや、ユナモ、無くしちゃ駄目だよ」

 本郷はふっと笑いを漏らしながら言った。

「僕らは、彼等を助けるためにここにいるようなものだからね」
『助ける?』
「そうなんだ。どうして味方が来ちゃったのかなあ」

 ぼやくように本郷は言った。完全にお手上げだった。本郷の予定では今頃マディソンへ突入しているのは彼の中隊のはずだった。もちろん、中隊規模の戦力で制圧は不可能であるから、そのまま突っ切るつもりだった。

 ところが眼前で展開されている光景は、本郷の青写真を見事に裏切っていた。味方の、それも米英軍ではなく古巣の日本陸軍がマディソンを着実に包囲しつあった。恐らく半日ほど激しい戦闘が行われた後で、マディソンの中心部に日の丸が掲げられるだろう。

『ホンゴーは味方が嫌いなのか?』
「いや、そういうわけじゃない。そう何て言うかな。僕らここにいることは内緒なんだよ」
「ナイショ?」
秘密ゲハイムさ」

 本郷はユナモがわかる言葉に訳した。

「ヤー、理解した」

 連合国がエクリプスを発動する一週間前の5月2日に本郷中隊はビスマークを出発していた。そこから83号線伝いに西進し、五大湖に至っている。

 六反田が起案した壇之浦作戦において、本郷達の任務は3つのフェイズに別れていた。いずれも湖伝いへ内陸へ飛行する<宵月>の側面援護を目的とした者だった。

 まず第1フェイズにおいて、本郷の戦車中隊は<宵月>よりも先行するかたちで出撃し、<宵月>が停泊予定となっている湖周辺の敵戦力を掃討する。言ってしまえばつゆ払いである。<宵月>がスペリオール湖についたことで、つゆ払いの役は終わった。

 そこからが第2フェイズだった。本郷達は最終目標となっているシカゴへ向けて南進し、途中で野戦飛行場を敷設することになっていた。そのため中隊には工兵部隊が随伴している。シカゴへ進出可能な範囲で飛行場を確保し、六反田が確保した航空部隊が離着陸可能な策源地としてしまう計画だった。部隊は戦爆連合の航空戦力で構成されており、<宵月>と同調して、シカゴへ向けて出撃する予定だ。彼等は<宵月>がBM本命の相手をする間、取り巻きの魔獣を排除する役目を帯びている。本郷達は<宵月>と航空隊が任務を終えるまで、飛行場の防衛を行う。

 第3フェイズは最終局面となっていた。すなわち撤収である。壇之浦そしてエクリプス作戦において<宵月>が役目を終えた後、航空隊が安全圏へ退避した後、本郷中隊は全力で大陸東部の緩衝地帯まで撤退する。

 現状、本郷達は第2フェイズへ移行したところだったが、計画を修正すべきか判断を求められていた。理由は単純で、マディソン近郊に野戦飛行場を構築する予定だったからだ。しかし、予期せぬ友軍の出現が、計画の障害になるかもしれなかった。そもそも本郷の乗るマウスや<宵月>の存在を知るものが少ない。そして何よりも壇之浦作戦自体、月読機関が独断で実行した秘匿作戦だった。説明を求められたとき、ひどく面倒な事態に陥る予感がした。連中陸軍からすればおかで海軍の陸戦隊が何をやっているのかと言いたくなるだろう。

 考えあぐねた本郷が右手でこめかみを2、3度もむと、無線機からあくび混じりの声が響いてきた。

「ホンゴー、どうする?」

 思わず本郷は苦笑した。

「もう少し待ってくれ」

 本郷は無線の周波数をかつて自身が使用していた陸軍の周波帯へ切り替えた。しばらくして、陸軍そして海軍航空隊の周波帯へ切り替える。電子の波を介して、忙しないやりとりがなされていた。そこからわかったことはただ一つだった。

――要するに僕の中隊は味方に包囲されつつあるのか

 何があったか不明だが、本来ならば五大湖北部のオンタリオ戦区担当だった遣米軍の大半が南進して五大湖戦区へ当たることになったようだ。目下のところ、本郷の周辺は遣米軍の将兵2万名によって埋め尽くされている。皮肉と言うべきか、<宵月>のつゆ払いをする過程で本郷たちが脅威度の高い魔獣を駆除してしまったため、彼等の進撃は思いのほか快調に進んでいた。
 本郷は現況を十分に把握したと判断し、続いて最終的な決断を下した。再び無線機を操作すると、今度は非常用の回線へ周波数を合わせた。ビスマークにある月読機関の支部との連絡のため用意されたものだ。周波帯の調整を完了させると、送話スイッチに手をかけた。非常事態の符牒を唱えるためだった。

――確か符牒は……。

『アケガラス、アケガラス、繰り返すアケガラス』

 ぎょっと本郷は無線機を睨んだ。彼よりも先に符牒が唱えられたからだった。

『アズマへ、聞こえるか? こちらはロックだ。ちょいと不味いことになった。プランDを修正する』

 ロックは六反田、プランDは壇之浦作戦を意味していた。

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