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レッドサンブラックムーン -機密解除された第二次大戦における<異世界からの干渉>および<魔獣との戦闘>に関する記録と証言について-

弐進座

五大湖戦区(Lakes front) 2

【マディソン上空】
 1945年5月26日

 戸張大尉は9機の編隊を率いてマディソンの上空を飛行していた。

――やりにくいったらありゃしねえ。

 北米の空で烈風を操りながら、戸張寛は思った。

『キヨセ2よりキヨセ1へ。大尉・・、もうそろそろですよ』

 僚機の滝崎飛行曹長からだった。

「ああ、わかっている。わかっているよ」

 自棄になったように戸張は応えた。操縦桿を倒し、右旋回を行いつつ高度を下げる。高度計の針が3000を切るあたり、機体を水平に戻すつもりだった。8機の烈風が同様の軌道を描き、後に続いていく。

――畜生めが。

 出世などするものではないと本心から感じていた。おかげで糞みたいな書類仕事に付き合わされることになっている。

 戸張はオアフBMとの戦い、北太平洋海戦での功績により大尉へ野戦昇進させられていた。初めに自身の昇進を聞いたとき、当人はようやく階級が実力に追いついたと思った。しかし、残念ながら実態は少し異なっていた。平時ならば、この種の手続きは、数ヶ月の月日と書類の束を費やして実現するはずだった。それが1ヶ月足らずで成された背景には相応の理由があった。

 確かに戸張の飛行士としての力量と戦果は昇進に見合うものであったが、それ以上に軍は指揮官に相応しい人材を求めていたのである。要するに人手が足りなかったのだ。特に中隊長の任に堪えられる人材が絶対的に不足していた。戦闘指揮官だけではなく、人員の配置や考課を適切にこなせる人物である。もちろん戸張とて完璧ではないから、十全に果たしているわけではないが、それでも他に上手くやれる士官が見当たらぬ以上はやらざるを得ない。

 おかげで戸張が飛行に身を任せられる時間は随分と減ってしまった。納得のいかないことだった。俺以外のやつらが好き勝手に飛び回れるように、配慮せねばならないとは……。

「キヨセ1より各機へ、もうすぐ黒テングデビルどもとご対面だ。目ん玉ひんむいて、周りをよく見ろよ」
『キヨセ3よりキヨセ1へ。いくらなんでも命令が雑すぎやしませんか』

 高田飛行曹長が呆れたような口調だった。まるで生徒をしかる教師のようだった。実際、高田の母は教職だった。どうも戸張は高田苦手だった。その昔、戸張は校長室へ呼び出されることで定評のある学童だった。

「いいんだよ、こういうのは伝わりゃ十分なんだ」

 投げやりに近い言い方だったが、視線は全方位をくまなく捜索していた。それだけではない。隷下の小隊が下手な行動をとらないように、眼を光らせている。彼の中隊の大半は補充された新兵ひよこによって構成されていたのだ。戦場の空気に慣れるまで、まだ時間がかかるはずだった。敵の存在を認めるや、勢いに任せて突っ込みかねないとすら思っていた。実際、初陣の戸張自身がその通りだった。

 5年ほど前、世界中がBMの出現に混乱する中で、彼は上官の仇を討つことに執着し、滅茶苦茶に暴れ回ってしまった。あのときは運良く生き残れたが、彼の部下がそれに倣う必要はまったくないはずだった。

――あのときの俺は全くの莫迦だった


 もっとも戸張自身に後悔はなかった。かつての彼の上官、飯山大尉は戸張のような些か極端な性分でも公平に扱ってくれたのだ。むしろ信用すらしてくれた。

 戸張はがさつな性格であったが、保身に関しては全く無頓着で無縁だった。その反面、周囲を気にかけるだけの情を持った男だった。そうでなければ、内地に帰還する度に、わざわざ家族を失った親友を訪ねるはずがない。

『コグレ1より、キヨセ1へ敵集団を認む。3時方向、下方です』

 麾下の小隊長が朗読するような報告を上げてきた。無線越しに緊張が伝わってくる。新兵としてあるべき態度だった。相手は烈風よりも遙かに交戦能力に劣るデビルだ。怯む要素など微塵もないが、それでいいと思う。この戦場で侮って良いものなど存在しない。
 戸張は苦笑を抑えつつ、了解と告げた。

「キヨセ1より各機へ。これより有翼型魔獣の集団へ突撃を行う。いいか、敵さんトロいがそれだけに厄介だ。一撃で決めるつもりでやれ。高度に気をつけろ」

 戸張中隊は一斉に急降下を行うと、デビルとの距離を一気に縮めた。デビルは目算で高度500を浮遊していた。彼等はすぐに戸張の存在に気づき、紫色の光弾を放ってきた。高速で駆ける烈風を捕捉できたものは一つも無かった。
 地表が迫る中で、光学照準器に蝙蝠のような羽の生えた人型が一杯に広がった。

「撃て!」

 烈風は敵集団へ機関砲の掃射を行うと、地表すれすれで上昇へ転じた。戸張たちの一撃で、デビルの数体がどす黒い血しぶきを上げて、地表へ墜落していく。
 それまで五式戦車をチリを追いかけ回していたデビル達は蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。

「おい、追うぞ」

 僚機に告げ、何の迷い無く戸張は機首を向けた。その先にはマディソンの街並みがあった。恐らく、街の一角を根城に、攻撃をしかけているのだろう。まず間違いなく面倒な奴らだった。放っておいても碌なことにならない。

「やつらのことだから――」

 何事かいいかけたときだった。割り込むように無線が入った。

『避けろ!』

 反射的に戸張は機体を起こし、左へ旋回をかけた。同時に上官へ向って、命令する莫迦野郎がいるかと思い、すぐに考えを改めた。戸張達がいた空域を緑色の火炎が貫いたからだった。

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