レッドサンブラックムーン -機密解除された第二次大戦における<異世界からの干渉>および<魔獣との戦闘>に関する記録と証言について-
原石(Rauer Stein):4
【ウィチタ西方 合衆国陸軍仮設滑走路】
1945年5月20日
計画は概ね順調に進捗していた。確かに魔獣の襲撃は予定されていなかったが、スミス少佐にとって、むしろ好天的な誤算となった。今や完全にウィチタ西方の仮設滑走路を彼は掌握していた。
護衛の戦闘機隊に囲まれて、B-29の2機小隊が到着したのは16時9分のことだった。予定よりも20分近い遅れが生じていたが些細な誤差だった。
機体の整備と燃料補給を済ませ、2機のB-29が離陸したのは、17時30分ことだった。予定通りだった。母国では大胆さにおいて、定評のあるスミスだが独逸人らしい一面も持っていた。離陸するまでに、過剰なまで彼は任務を忠実にこなしていた。
すなわちB-29と戦闘機の搭乗員を一人残らず殺害し、用意していた日本人の死体と争ったような演出を行った。その後、補給のために残されていた航空燃料に爆薬を仕掛けると、合衆国製の無線機を用いて、予め決められていた符牒を打電した。
"プロメテウス プロメテウス プロメテウス"
時限装置が作動し、ウィチタの仮設滑走路を眩いほどの炎が覆った。朱色の空が黒色の煙に染め上げられ、その遙か上空を2機のB-29が飛行していく。
「ゴツい眺めですね、スミス少佐」
部下の一人が機体の窓から眼下の光景を眺めていた。
「シューゲル、爽快な光景だと私は思うよ」
少佐と呼ばれた男は胸ポケットから煙草を取り出すと、マッチを擦った。本名で呼ばれたシューゲルSS大尉は、合衆国軍士官の演技を終わらせることにした。
「聞くところによれば――」
シューゲルは上官に勧められるまま、パッケージから煙草をとった。
「我々が奪取した。この兵器はあの爆発よりも劇的だとか」
「そうだな。少なくともパンター12両よりは価値あるものだ」
スミスと呼ばれていたスコルツェニーSS中佐は眼下に燃えさかる炎を微笑みながらじっと見ていた。あの紅蓮の中に、合衆国のM10駆逐戦車に偽装を施された、独逸のパンター戦車の残骸があるはずだった。
「もちろん、それだけではない。我々が行った大西洋越しのピクニックは、植民地人と黄色人種の間に少なからず亀裂をもたらす。何よりも勝る戦果になるだろう」
数日後、合衆国の軍人達はM10によく似た鉄の残骸を発見し、通信施設で腐乱した日米の兵士を発見する。その風景は、日米両国にあらゆる可能性を示唆するはずだった。シアトル軍港の事件以来、疑心暗鬼に陥ってる両国の関係をさらに危うくしてくれる。
特に反応爆弾を奪取された合衆国は、異端審問官のように厳しい追及を日本へ仕掛けていくだろう。
シューゲルは魅入られたようにスコルツェニーの横顔を凝視していた。聖職者のように穏やかな表情だった。普段は畏怖の念を覚えさせる頬の古傷が、いっそう荘厳な印象を与えていた。
「今回のような任務はしばらくないことを祈るよ。装備を調えるのに苦労する」
スコルツェニーは、ふと何か思い出したかのように言った。シューゲルは言葉の意味を数秒考えた後、相槌を打った。
「確かに、パンターの生産台数は限られていますから。シュレンベルク大佐の話では、国防陸軍から、よほど白い目で見られたそうで――」
「パンター? いや、そちらではない」
スコルツェニーは快活きわまりない笑みを浮かべた。
「日本人のほうだ。新鮮な日本人の死体というものは、中々手に入らないものだぞ。そうだな。次回は南米の入植者あたりで間に合わせるしかないだろう」
「なるほど……」
シューゲルは背筋に冷たいものを感じながら肯いた。
B29は機首を南東へ向けた。これより10時間後、秘密裏に建設されたメキシコの飛行場へ降り立つ予定だった。
1945年5月20日
計画は概ね順調に進捗していた。確かに魔獣の襲撃は予定されていなかったが、スミス少佐にとって、むしろ好天的な誤算となった。今や完全にウィチタ西方の仮設滑走路を彼は掌握していた。
護衛の戦闘機隊に囲まれて、B-29の2機小隊が到着したのは16時9分のことだった。予定よりも20分近い遅れが生じていたが些細な誤差だった。
機体の整備と燃料補給を済ませ、2機のB-29が離陸したのは、17時30分ことだった。予定通りだった。母国では大胆さにおいて、定評のあるスミスだが独逸人らしい一面も持っていた。離陸するまでに、過剰なまで彼は任務を忠実にこなしていた。
すなわちB-29と戦闘機の搭乗員を一人残らず殺害し、用意していた日本人の死体と争ったような演出を行った。その後、補給のために残されていた航空燃料に爆薬を仕掛けると、合衆国製の無線機を用いて、予め決められていた符牒を打電した。
"プロメテウス プロメテウス プロメテウス"
時限装置が作動し、ウィチタの仮設滑走路を眩いほどの炎が覆った。朱色の空が黒色の煙に染め上げられ、その遙か上空を2機のB-29が飛行していく。
「ゴツい眺めですね、スミス少佐」
部下の一人が機体の窓から眼下の光景を眺めていた。
「シューゲル、爽快な光景だと私は思うよ」
少佐と呼ばれた男は胸ポケットから煙草を取り出すと、マッチを擦った。本名で呼ばれたシューゲルSS大尉は、合衆国軍士官の演技を終わらせることにした。
「聞くところによれば――」
シューゲルは上官に勧められるまま、パッケージから煙草をとった。
「我々が奪取した。この兵器はあの爆発よりも劇的だとか」
「そうだな。少なくともパンター12両よりは価値あるものだ」
スミスと呼ばれていたスコルツェニーSS中佐は眼下に燃えさかる炎を微笑みながらじっと見ていた。あの紅蓮の中に、合衆国のM10駆逐戦車に偽装を施された、独逸のパンター戦車の残骸があるはずだった。
「もちろん、それだけではない。我々が行った大西洋越しのピクニックは、植民地人と黄色人種の間に少なからず亀裂をもたらす。何よりも勝る戦果になるだろう」
数日後、合衆国の軍人達はM10によく似た鉄の残骸を発見し、通信施設で腐乱した日米の兵士を発見する。その風景は、日米両国にあらゆる可能性を示唆するはずだった。シアトル軍港の事件以来、疑心暗鬼に陥ってる両国の関係をさらに危うくしてくれる。
特に反応爆弾を奪取された合衆国は、異端審問官のように厳しい追及を日本へ仕掛けていくだろう。
シューゲルは魅入られたようにスコルツェニーの横顔を凝視していた。聖職者のように穏やかな表情だった。普段は畏怖の念を覚えさせる頬の古傷が、いっそう荘厳な印象を与えていた。
「今回のような任務はしばらくないことを祈るよ。装備を調えるのに苦労する」
スコルツェニーは、ふと何か思い出したかのように言った。シューゲルは言葉の意味を数秒考えた後、相槌を打った。
「確かに、パンターの生産台数は限られていますから。シュレンベルク大佐の話では、国防陸軍から、よほど白い目で見られたそうで――」
「パンター? いや、そちらではない」
スコルツェニーは快活きわまりない笑みを浮かべた。
「日本人のほうだ。新鮮な日本人の死体というものは、中々手に入らないものだぞ。そうだな。次回は南米の入植者あたりで間に合わせるしかないだろう」
「なるほど……」
シューゲルは背筋に冷たいものを感じながら肯いた。
B29は機首を南東へ向けた。これより10時間後、秘密裏に建設されたメキシコの飛行場へ降り立つ予定だった。
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