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レッドサンブラックムーン -機密解除された第二次大戦における<異世界からの干渉>および<魔獣との戦闘>に関する記録と証言について-

弐進座

原石(Rauer Stein):3

【ウィチタ西方 合衆国陸軍仮設滑走路】
 1945年5月20日 午後15時

 戦闘開始から2時間後、滑走路のあちこちで局地的な地獄が誕生していた。各所で兵士ともグールとも判別のつかないうめき声が上がり、死体の山が築かれている。その一画を虚ろな足取りで数体のグールとトロールが進んでいた。生き残った人間の気配が行く手にあった。血にまみれた倉庫が、その先にある。魔獣たちは禍々しい殺気を放ちながら、大隊本部のある倉庫のすぐ側まで辿り着いた。抵抗する様子はなかった。もはや弾薬はつきている。

 トロールの咆哮と共にグールが倉庫へ侵入しようとしたとき、地表がはじけ飛んだ。グールは柘榴のようにはじけ飛び、トロールは石の塊に変えられた。

"こちらクロス1、今のでカンバン終わりだ。周囲に脅威は認められない"
「ラビット1より、クロス1へ了解。助かったよ。すまないが、少し待っててくれ。負傷者がいるんだ」
"クロス1、了解。ラスカー大佐、衛生兵メディックをそちらへ向わせましょう"
「ありがとう。オーヴァー」

 ラスカーは無線機のマイクを置いた。すぐ側では虫の息のメージャーが横たわっている。甲羅竜タラスクが倉庫に突入した際、崩れた壁の破片が脇腹に突き刺さったのだ。適切な治療を受けさせなければ、長くは保たないだろう。ラスカーの部隊の兵士たちは、等しく傷を負っていた。肉体的であれ、精神的であれ、回復までかなりの時間を要する深手だった。その中でも数名は、二度と戦場に出られないかもしれない。

 しかしながら、彼等は生きていた。何よりも得がたい戦果だった。

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 負傷者の手当てと収容が終わったところで、ラスカーは彼の大隊を救った使徒に会った。

「やあ、ようやく会えましたね。ご無事で何より」

 オットー・スミスと名乗る少佐は、心から案じていたようだった。軍人と言うよりも伊達男の印象が強い容貌だった。それに紳士的な態度に相反して、凄味のある特徴を備えていた。彼の頬には大きな裂傷の痕があった。ラスカーの視線に気がついたらしい。スミスは頬の傷を指でなぞった。

「こいつは若気の至りです。大学時代に酒場で派手な喧嘩をしちまってね」

 スミスは、そう言うとラスカーを労い、後は自分たちに任せて欲しいと言った。彼等は、この仮設滑走路の防衛のため、寄越されたようだった。その口ぶりから、かなりの自信を感じ取れた。実際にその通りだろうとラスカーは思った。スミスの背後に、数両のM10駆逐戦車が見えていたからだ。高威力の75ミリ長砲身を備えた車両で、特殊な炸薬を用いればドラゴンの上皮とて貫くことが可能だった。

 実際、ラスカーの部隊を蹂躙した甲羅竜タラスクを仕留めている。あのとき、防衛線ラインが崩壊し、竜と共に大量のグールが流れ込んできたとき、ラスカーは死を覚悟していた。
 しかし、スミスの登場により、彼の覚悟は空振りに終わった。スミスの駆逐戦車中隊は甲羅竜タラスクに止めを刺すと、グールの群れに突入し、M10の車体で大量の合い挽き肉ミンチを量産した。トロールに対しては、75ミリ徹甲弾を振る舞い、土に還してしまった。

――彼の部隊ならば、再び魔獣が現われたとしても大丈夫だろう。

 幸いなことに、デンバーとの通信が回復し、航空支援を受けられる体制が整っていた。いささか遅すぎたが、無いよりは良い。ラスカーには必要なくとも、この場を引き継ぐスミスにとっては別の話だった。
 ラスカーは感謝の言葉を述べると、負傷者と共に後方へ下がる旨を伝えた。

「途中まで護衛しますよ」

 スミスの申し出を、ラスカーは丁重に断った。確かにラスカーの部隊は壊滅的な被害を被ったが、士気は維持している。それに兵士の数は減ったは車両は無事だった。皮肉なことに、一車両当たりの乗員数が減り、身軽・・になったことで、スムーズに撤退できそうだった。
 スミスは、「せめて途中まで」と言ったが、ラスカーの意思が固いことがわかると引き下がった。口元に一瞬微笑が浮かんだように見えたが、気のせいかも知れない。

――それにしても、M10があれほど強力だったとはな。

 駆逐戦車にしては意外なほど頑丈だった。これまで合衆国の駆逐戦車は強力な砲と機動力を引き替えに装甲を犠牲にしてきたが、M10は違うらしい。トロールの打撃をものともせず、グールの集団ごと、車体で轢き殺してしまった。まるで重戦車のような頑強さだった。

 ラスカーはM10の配備を要請することにした。どのみち、彼の部隊は再編成されることになるのだ。彼の願い通りになるのならば、運良く生き残った砲兵中尉に受領してもらおうと思う。たしか、あの教会の跡取りは戦車兵を希望していたはずだ。

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 スミス少佐は、頭に包帯を巻いたユダヤ人の背中を見送った。彼の背後から、そっと部下が近づき、小声で耳打ちする。

スコルツェニー中佐・・・・・・・、どうしますか?」
「気をつけたまえ、今の私はスミス少佐・・・・・だよ」
「申しわけありません。あのユダヤ人たちの始末ですが――」
「放っておきたまえ」

 スミス少佐は祝福するように言った。

「君は何か勘違いしているようだな。私はあくまでも社交辞令で護衛を申し出ただけだ。それに、ここはベルリンと違い、ユダヤ人の死に疑問を抱く者が多いのだ」

 皮肉めいた口調で言うと、スミスは部下に滑走路の掃除・・を命じた。彼は合衆国軍が偏狭なまでに、この仮設飛行場を守ろうとした理由を知らされていた。

 あと数時間後に、燃料補給と機体整備のためB-29の小隊が着陸する予定だった。それらは五大湖周辺の戦況に決定的な影響をもたらす兵器を搭載している。

 小隊は2機で構成され、固有の機体名が割り振られている。

 片方を「エノラ・ゲイ」、もう片方を「ボックスカー」と言う。

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