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レッドサンブラックムーン -機密解除された第二次大戦における<異世界からの干渉>および<魔獣との戦闘>に関する記録と証言について-

弐進座

発動(Zero hour):9終

【シアトル 日本領事館】
 1945年5月17日 朝

 早朝、矢澤中佐は紙片を手に、日本領事館の一室へ足を運んだ。まだ寝ているかも知れないと思い、控えめなノックとともに入室する。彼の懸念は杞憂に終わった。この部屋の主は、とうの昔に起きていたらしい。いや、ひょっとしたら寝ていなかったのかも知れない。
 六反田は室内に備え付けられた長いすに腰を下ろしていた。両手で新聞タイムズを広げ、眠たげに視線を滑らせている。

「おう、来たか」

 六反田は新聞を応接テーブルの上に置くと、矢澤から紙切れを受け取った。

「<宵月>と本郷中隊は、上手くやっているようです」

 六反田は紙片の内容を確かめた。夜半に<宵月>より発信された暗号電文だった。月読機関独自のアルゴリズムで組まれているため、解読に朝までかかってしまった。

「スペリオールまで辿り着いたか。あとはシカゴBMまでクルージングだな。合衆国軍の様子はどうだ?」
「これといって問題は報告されていませんね。順調に進捗しているようです。敢えて申し上げるのならば、マ元帥マッカーサーがご機嫌ななめというくらいですかね」
「あのコーンパイプ閣下が?」
「はい。遣米軍が第6軍指揮下から離脱したのを、かなり根に持っているようです。総司令部があるデンバーからの報告では、我が軍がサボタージュしたような言い草をしているとか。前任者のアイゼンハウアー元帥に対する対抗心もあるでしょう。栗林大将はアイゼンハウアー元帥とは懇意にしていましたから。ひょっとしたら、ご自分が嫌われていると思っているのかも知れませんね」
「だとしたら、おめでたい男だな。きっと自分を中心に世界が回ると思っておるのだろうさ」

 六反田は紙片を灰皿に投じると、煙草の火をうつした。徐々に炎が広がり、やがて黒い灰になり、燃えかすが宙を舞った。

「まあ、現場で指揮をとっているのはパットンだ。あの鉄帽てっぱち将軍のことだから、酷いことにはならんだろうが」
「その言い草だと、まるで失敗するように聞こえますよ」
「そう聞こえたか? そこまでは思っておらんよ。まあ、成功するとも思っとらんがね」
「何か懸念が?」

 訝しむ矢澤に対して、六反田は目を丸くした。心外とも言わんばかりだった。

「おいおい、懸念だらけだろう。忘れたのか。俺たちは、あの黒い月に関して何もわかっちゃいないんだぞ」

 尚も矢澤は納得できないようだった。彼の手元にはオアフBM消滅時の報告書が大量に届いていた。それらは六反田も目を通しているはずだ。加えて、記憶を取り戻したネシスやユナモへ聞き取り調査を行い、以前よりもBMの解析精度は向上している。

「儀堂少佐の報告書はかなり詳細でしたよ。それにあの黒い月を送り込んだ連中についても判明しています。光の民、ラクサリアンとかいう存在です。以前よりも、BMに対する情報は集積されています」
「違う。そこじゃないんだ。あの黒い月の存在理由レゾンデートルだよ」
「哲学の話ですか?」
「何の冗談だ。難しく捉えすぎだ。何でBMがこの世界に送られたか、さっぱりわかっておらんだろう」

 矢澤は虚を突かれたような顔になると、やや恥じ入るような表情を浮かべた。

「……ええ、確かにその通りです」
「奴らとの戦いが本格化したとき、俺は征服者コンキスタドレスとして認識していた。だが、しばらくして違うと気がついた。BMは破壊をもたらすのみで、その後に統治や征服行為は一切行わなかった。連中は勢力圏を拡大しても、占領軍を送り込んで資源を収奪したり、被征服民を酷使するような真似はしなかった」
「結果論ではありませんか? 我々の抵抗が予想以上で、本来は地球全土を破壊しつくしてから占領軍を送り込むつもりだったかもしれません」
「もちろん、その可能性はある。だが俺は低いとも思っているがね。なあ矢澤君、我々人類の反攻が本格化したのは2年前からだ。戦線の膠着はその前から進んでいた。人類は確かに甚大な損害を被ったが、致死量じゃ無い。3年前の時点で、BMの被災範囲は極限に達していたんだよ。そして今や拮抗状態から覆そうとしている。なあ、4年も猶予がありながら、そのラクサなにがしとか言う連中は一切手を打たず、指をくわえてされるがままにしていたんだぞ。BMの増援を送るわけでも無く、ろくな補給も行わないまま放置していた。この理由は何だ?」

 矢澤は考えを巡らせて、すぐに結論が出ないことに気がついた。

「わかりません」
「だろう? だいたい思い返せばBM出現時の状況も不可解だ。世界大戦の最中、どこの国も戦時下か戦争準備を整えている状況下で、人口密集地や戦場に計ったかのように現われたんだぞ。それもほぼ同時に世界中で散らばるように出現している。これじゃ、各個撃破してくださいと言っているようなものだろう」
「それは……」
「なあ、あんなものを送り込んでくるには何かしら目的があったはずだ。何らかの事故アクシデントで送り込まれた可能性もあったが、シルクとかいう月鬼がその可能性を否定した。覚えているだろう。あの鬼には自壊装置が組み込まれていた。万が一、BMから解放されたときの保険付きってわけだ。わざわざ、そんな仕込みまでする奴ばらが無意味にBMを送り込むとは考えられん」

 六反田は新しい煙草を取り出すと、火を点けた。不味そうに吸い、紫煙を吐き出す。

「俺が気に食わん理由がわかったか。敵の意図・・・・がわからんまま、盛大に反攻作戦をやらかしたとき何が起るかわからんのだ。このままBMを捨て置いてくれれば良い。だが、もし違ったら?」

 矢澤は眉をひそめた。ようやく六反田の真意を掴んだのだ。

「閣下が<宵月>を差し向けたのは、敵の出方を探るためですか?」
「ああ。もしラクサなにがしが、<宵月>の存在に気づいているのならば相応の反応を見せるだろうさ。当てが外れたとしても、それはそれで構わない。合衆国が反応爆弾で始末するだけだ」
「合衆国の作戦を出しにするわけですか?」
「お互い様さ。合衆国軍のつゆ払いに、うちの虎の子<宵月>とマウスを出しているんだぞ。俺としては是非とも合衆国軍の目の前で、ラクサ某の反応を披露して欲しいがね。北米の主役は合衆国だ。連中には、本当の脅威・・・・・が何か認識を正してもらわないと困る」

 六反田は我慢ならない様子で立ち上がると、窓の外へ視線を巡らせた。
 全く困るのだ。合衆国は神の火を手に入れてから正気を失いつつあるように見えた。
 わけのわからん黒玉との戦いが終わりもしないうちから、仮想敵国に日本を据えるなど、堪ったものではない。

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