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レッドサンブラックムーン -機密解除された第二次大戦における<異世界からの干渉>および<魔獣との戦闘>に関する記録と証言について-

弐進座

発動(zero hour):7

【スペリオール湖畔 ダルース港 <宵月>】
 1945年5月16日 夕

 戦車中隊の兵が次々と荷下ろしされたドラム缶をトラックに積み込んでいく。代わりに、空になったドラム缶がダルースの一画に集められた。中村中尉から故障した車両の修理の目途がついたと、つい先ほど連絡があった。どうやら本郷の中隊は充足状態で、目的地へ向かえそうだった。

 本郷は<宵月>の士官室ガンルームで簡易な歓待を受けていた。本郷には南米産の珈琲が出され、傍らではユナモが出されたココアを夢中で飲んでいる。

 注がれた珈琲に映る自身の顔が歪んでいた。ひどく現実味の無い、まるで虚構の物語フィクションの世界にいるような感覚を覚える。魔獣の領域テリトリーのただ中にいながら、ティータイムの歓待を受けるなど想像の域を超えていた。

「どうかされましたか?」

 じっと珈琲カップを見つめる戦車指揮官に、儀堂は尋ねた。彼のカップには緑茶が注がれている。

「いや、なんでもない。君のおかげで、我々は万全な状態で作戦に臨めそうだ。改めて、ありがとう」
「いいえ、お互い様です。予定通りならば、これから中佐に我々が助けてもらうことになるのですから。むしろ大変なのは中佐の方でしょう。我々は主目標まで幾分か会敵を避けられますが、あなたの部隊は絶対に避けられない」
「そうだな。まったく遠いところまで来てしまった」
「ええ、全くです」

 儀堂は落ち着いた様子でカップを口元へ持って行った。20そこそこの青年とは思えぬ貫禄のある仕草だった。果たして、自分が同じ年の頃はどうだったろうか。思い出せない。

「一つ聞いて良いかな」
「どうぞ」
「シアトルの一件だが、君はどう思う? 今回の作戦に少なからず影響があるはずだ」

 儀堂は僅かに首をかしげた。

「どうでしょう。我々の行動は、六反田少将の独断で決められたもののようですし」
「いや、壇ノ浦じゃない。エクリプスの方だ」
「ああ、それなら……あるでしょう。特に日本と合衆国の連携に悪影響をもたらしています」

 シアトル事件以来、日本は合衆国に対して懐疑的になった。表向き、合衆国の関与は認められなかったが、だからといって容疑が晴れたわけでない。

「特に陸軍は否定的です。例の事件で死傷者が出ましたから、彼等としては決着がつくまで合衆国とは距離を置くでしょう。現に、エクリプスで合衆国第6軍の指揮下に入るはずだった遣米軍が離脱して、オンタリオ戦線へ回りました。聞くところによれば、統帥権まで持ち出して抗議したそうで」 
「ああ、その通りさ。古巣大隊の同僚から聞いたよ。あの人格者の栗林閣下が相当な不信感を持っているらしい」
「栗林大将は知米派と聞いています。その閣下が不信感を抱いたとなると、しばらく対米関係は冷え込むでしょうね」
「そうだろうね。だからこそ、我々が駆り出されたわけだ。遣米軍が本来負うはずだった援護を請け負うためにね。君自身はどう思っている? 合衆国がシアトル事件の首謀者だと思うか?」
「わかりません」

 即答だった。シアトル事件のことなど問題にしていない口ぶりだった。

「合衆国にしろ。第三国が関与したにしろ。シルクは無事に日本へ送られました。今回の一件で警備も強化されるでしょうから、あのような失態は起きにくいかと思います。中佐、実のところ自分はあの事件よりも気になることがあるのです」
「なにかな?」
「合衆国の新型爆弾ですよ」

 本郷は少し間を置いて答えた。マウスを彼に託した老人、フェルディナンド・ポルシェの言葉がよぎったのである。確か、あの博士は合衆国がユナモに対して使おうとしたと言っていた。

「エクリプスで投入されると聞いている。五大湖周辺のBMに対して使用するつもりらしいね。相当な威力だとか。噂だと都市ひとつを容易に消し去るほどだ――」
「なるほど……」

 儀堂は何事か考えた後で、再び口を開いた。

「我々の……<宵月>の役割はその新型爆弾投下のためのつゆ払いとお目付というわけですね。合衆国に貸しをつくりつつ、新型爆弾の効果を観測する」
「そんなところだろう」

 浮かない顔で本郷は肯いた。

「何か気に掛かることが?」

 本郷は大学の後輩から新型爆弾の威力について詳細を聞かされていた。その後輩は海軍の法務士官として実験に立ち会ったらしい。

『禁忌の火ですよ』

 法務士官は実験の感想を一言で要約した。本郷の耳にこびりついて離れなかった。

「――いや、何でも無い。そうだ。ユナモがネシスに会いたがっていたんだ。出発前に、時間を作ってくれないか?」

 儀堂は口元に手を当て、少し逡巡した様子を見せた。

「なにか……?」
「いえ、かまいません。魔導機関の調整が終わったら、そちらへ向わせます」
「ああ、たのむ」

 本郷は不可解な気持ちを抱えながら肯いた。儀堂が憐れむようにユナモを見ていたのだった。

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