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レッドサンブラックムーン -機密解除された第二次大戦における<異世界からの干渉>および<魔獣との戦闘>に関する記録と証言について-

弐進座

発動(Zero hour):6

【シアトル 日本領事館】
 1945年4月20日 

 ひと月ほど前に遡る。六反田の根城と化した領事館の一室に、儀堂とネシスは呼びだされた。入室するや、儀堂は僅かに目を細めた。恐らく来客用に調度品や装飾を整えた室内だったのだろうが、今や完膚なきまでに散らかされていた。段ボールが無造作に置かれ、書類の山が築かれている。外務省から出禁を食らいかねないほどの有様だった。

「不浄にもほどがあろう。ギドーよ、妾は外で待つぞ」

 ネシスは断固とした口調で言うと、廊下へ戻ってしまった。
 室内に残された儀堂へ向けて、手が振られた。書類に山に隠されて、顔が見えなかったが確かめるまでも無かった。

「おう、来たか」

 六反田だった。備え付けのソファーに座ったまま、現地で仕入れた煙草を不味そうに吸っていた。目の下には不健康極まりにないクマをつくっている。

「御用と伺いましたが……」
「ああ、そうだ」

 まだ半分ほど残っている煙草を、テーブルの灰皿でもみ消すと、六反田は上着のポケットから何かを取り出した。

「お前さんに渡すものがある」

 意地の悪い笑顔と共に、手にした小箱をテーブル上に滑らせた。見覚えのあるパッケージだった。今回を含め、これまで4度ほど同じ形状のものを儀堂は手にしている。中身については大よそ想像ができた。

「昇進おめでとう、儀堂少佐・・

 箱の中には真新しい階級章が入っていた。

「これはいったい――」
「YS87船団の護衛とオアフBM撃滅による昇進だ。うれしくないのか?」
「いいえ、有り難いことです。しかし、腑に落ちないのです。性急すぎませんか?」
「察しろよ。大尉に艦長やらせていることに、あれこれ文句を言う莫迦が多いのだ」
「なるほど……」

 月読機関は独自性を持っているとはいえ、海軍隷下の組織に違いなかった。帝国海軍では慣例として、艦長職は佐官以上が任ぜられることになっている。しかし、儀堂は大尉だった。装甲版並に厚い面の皮を持つ六反田だが、小うるさい慣例を並べ立てる外野の文句にうんざりしていた。

「だから、連中のお望み通り、慣例とやらに合わせてやったのさ」
「御用はこれだけでしょうか?」

 さして感動を覚えた様子も無く、儀堂は箱を受け取った。もちろん感謝はしているが、階級が上がったところで彼のやることに変わりは無いからだ。
 六反田は儀堂の無機質な反応を面白そうに見ていたが、すぐに何かを思い出したように手を叩いた。妙に芝居が掛かった仕草だった。

「おお、忘れるところだった。お前さんに、ひとつ仕事を頼みたい」

 六反田はテーブルに地図を広げた。北米大陸の拡大図だった。

「エクリプスのことは既に聞いておるだろう」
「対BM反攻作戦ですか」
「そいつを援護する」
「援護? どういう意味ですか?」

「<宵月>の魔導機関を使い、空路で北米を横断。合衆国軍よりも先に五大湖周辺のBMに到達、周辺の脅威を撃滅する」

「五大湖へ? <宵月>の飛行機能はあくまでも非常手段です。とてもではありませんが、北米を長駆横断できるとは――」

 そこで儀堂は地図上に書き込まれた点線に気がついた。それらは合衆国とカナダの州境に点在する湖を繋ぐように引かれている。

「大陸の湖水地帯を縫うように向うわけですか?」
「まあ、そんなところだ。<宵月>の飛行時間に制限があることぐらい、俺も承知しているよ。だから一気にシカゴを目指すのでは無く、湖伝いにスペリオール湖経由でミシガン湖からシカゴへ向ってもらう。まあ飛び石航路アイランドホッピングの大陸版、レイクホッピングというやつだな。作戦発動は5月9日予定だ。エクリプス発動時のどさくさに紛れさせる」

 儀堂は地図に視線を落とし、経由先の候補となっている湖間の距離を丹念に確かめた。最長150キロ連続飛行しなければならない。<宵月>で、それだけの距離を飛行したことは無かった。

「検証が必要です。飛行可能距離の限界を正確に割り出す必要があります」
「なんだ、まだ済ませてなかったのか?」
「閣下が、むやみやたらと<宵月>を飛ばすなと仰ったのです。聞屋マスコミに騒がれると困るからと」
「おや、そうだったか。なら気にするな。<宵月>のことは周知の事実だからな。つい先日も合衆国が探りを入れてきた」
「……わかりました。では、ネシスに――」

 言いかけたところで、当の本人が入室してきた。どうやら待ちくたびれたらしい。

「やればよかろう? 何をためらう」

 ネシスは、さも当然という具合に言った。

「何の話かわかっているのか」
「わかっておる。妾の同胞はらからを解放する話だ。妾の耳は良くてのう。壁越しでもお主等の話は聞こえておったぞ」

 六反田は口角を上げた。

「そいつはいい。嬢ちゃん、やってくれるかい」
「このやたらと大きな島を飛べば良かろう?」

 ネシスは北米の地図をなぞった。瞳は最終目的地の五大湖へ向けられている。

「できるのかい?」
「造作も無い、とは言い難いな。さすがに一足飛びに行くことは無理じゃ。ただ、そうさな。途中で幾度か休めば難なくたどり着けよう」
「そうか……わかった。お前が言うのならば、確かなのだろう」
「話が早くて助かる。じゃ、やってくれ。委細については矢澤君から君へ連絡させよう」
「承知しました」

 六反田は満足そうにうなずくと、少しばかり首をかしげた。

「それにしても意外だな」
「何がですか?」
「君は、昇進について疑問は挟んでも、この作戦の目的や実現性について、何の疑問も抱かないのかね?」
「目的は自明です。閣下、私は全てのBMをこの世から消し去ると誓ったのですから。実現性については、それこそ閣下の領分です。あなたのことだから<宵月>に限らず、あれやこれやと巻き込んでいるのでしょう」
「ずいぶんと信頼されたものだな。まあ的確な評価だ」
「ところで、作戦名は何ですか?」
「作戦名?」

 六反田は虚を突かれた顔になった。何も考えていなかったようだ。顎に手を当て、数秒の沈黙の後で、六反田は口を開いた。

「そうだな。ここは験担ぎもかねて、『壇ノ浦』とでもしておくか」
「八艘飛びのようにBMへ向えと。すると我々は源氏になるわけですか?」
「まあBMは平家ほどに潔くは無かろうがね」

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