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レッドサンブラックムーン -機密解除された第二次大戦における<異世界からの干渉>および<魔獣との戦闘>に関する記録と証言について-

弐進座

前夜祭(April Fool) 10

 <宵月>が未確認艦を撃沈した海域から、十数キロ離れた砂浜で異変が起きたのは朝靄がかかり始めた頃合だった。波打ち際から這い出るように、二人の人影が上陸した。二人はあらかじめめ隠していた場所から荷物を掘り起こすと、濡れた服を着替えると、小型の無線機を起動させた。周波数を合わせて、呼びかけるも反応は無かった。

「ああ、これは駄目だな」

 オロチは開き直った口調で呟く。その横でサイは無言で沖合を眺めていた。
 合流予定ランデヴ―時刻になっても、艦影が現われる気配は無かった。

「おい、なにぼうっと突っ立っているんだ?」

 背後から訛りの入った英語が発せられた。振り返るとグレイとオクトが、こちらへ手を振って歩いてきていた。二人とも灰や煤で、壮絶な有様になっている。

くそうメルドゥ、野蛮な日本人どもめ、たった二人に戦車リゼヴォアを3両もぶち込んでくるなんて、どういう神経しているんだ」

 オクトが眉間に皺を寄せ、まくし立てるように言う。よほど酷い目に遭ったらしい。

「まあ、それだけ良い仕事をしたってことだろう? ほら、まだ銃声が聞こえるぞ。連中、オレ達が基地内にいると思い込んでいるのさ」

 おどけた口調でグレイが言った。

「で、お前さん達の二人の様子を見るに、オレ達の迎えリムジン問題シリアスが生じたらしいな」
「そんなところだ」

 サイが素直に認めた。

「どうやら撃沈されたらしい」

 オクトは一瞬ぎょっとしたが、すぐに元の不満顔に戻った。

「ってことは、プランβか?」
「その通り」

 オロチは既に出発の準備を完了させていた。今まで他の二人を待っていたのだ。実のところ、とうの昔に潜水艦に対する望みは捨てていた。彼は艦長と個人的な知り合いだった。時間に遅れるような人間では無かったはずだった。

「諸君、まずはセーフハウスへ向う。そこで装備を回収したら、そのまま南へ向うぞ」

 オロチは海岸線から北へ向けて歩き出した。グレイが続く。

「やれやれ、オデュッセイアのはずがアナバシスってわけか」
「いずれにしろ、オレ達にオデュッセウスもクセノフォンもいないがね」
「そんな大層なものかよ。どちらかと言えば、ボートの三人男だろう」

 オクトが鼻で笑うと、サイが真顔で答えた。

「オレ達は4人だぞ。それにボートに乗る予定なんてあったか?」
「そういう話じゃねえよ」

 オクトがむすっとした顔になるのをグレイは愉快そうに見ていた。おもむろにオロチは話しかけた。

「グレイ、そちらの任務はどうなった?」

 グレイは表情を変えず、肯いた。

「それなら心配ない。証拠エビデンスは残してきたさ。それよりも沈んじまった潜水艦のほうが気になる。あちらからオレ達の足がつくんじゃないか」
「その心配は無用だ。実は、その艦も証拠の一つに含まれている」
「そりゃ……どういうことだ?」
「そのまんまさ。我々を迎えに来た艦は旧ソ連の船員によって運用されていた・・。身元を特定されたところで、我々に結びつくことはできない」
「なるほど、用意のいいことで」

 あまりの周到ぶりに、グレイは薄ら寒いものを感じた。本当にこの作戦を考えた奴は悪魔に魅入られているに違いない。

「グレイ、もう一つ君に共有しておきたい。次は装備Mを持って行った方がいいぞ。オレとサイの任務を阻んだのは女の異端者だ。しかも恐らく、あの動きは同業者だな」

 グレイの口元から笑いが消えた。

「やはりか。さすがは日本君の故国だな。本当に魔導士を正規軍に加えていたとは。ああ、ひょっとして、あれか『クノ一』とかいう奴か? 確かニンジャはマジックを――」
「グレイ、それは違う」

 オロチは即座に否定した。

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【シアトル 日本領事館】
 1945年4月8日 朝

 六反田と矢澤はシアトル市内の日本領事館に宿泊していた。本来ならば、身支度を済ませ、今日の昼には機上の人となるはずだった。

「矢澤君、もうしばらくここに残るぞ」

 六反田は朝食をとりながら言った。片手には地元紙が握られている。一面には昨夜の襲撃騒ぎが飾られていた。とりたてて目新しい情報は載っているわけではない。昨夜、御調から電話でたたき起こされ、詳細について既に報告を受けている。

「そうならざるを得ないと思っていましたが――」

 矢澤は諦めた口調で言った。着替えはあとどれだけ残っていただろうか。後で領事館員から地元の良い洗濯屋を紹介してもらおう。

「それにしてもシルクの遺体を狙ってくるとは、いったい誰が――」
「矢澤君、そこは重要じゃない」

 六反田は地元紙をテーブルに置いた。ゆで卵の皮をむき、塩を盛大に振りかける。

「目星はついているからな」
「確かに、シルクの存在を知っているのは限られていますから――」

 合衆国と独逸、いずれかだった。

「そうだ。ある程度、どの国がやったかは絞り込めはするだろうさ。誰がとまでは難しいがね。問題は何のためにやったかだ」
「それこそ明らかではありませんか? シルクの遺体、そのものでしょう?」
「それは目標だ。私は目的の話をしているのだ。例えば、あの遺体で何をするつもりだったかさ」

 六反田はゆで卵を丸ごと口に放り込むと、珈琲で流し込んだ。

「ちょっと、これ固く茹ですぎているな。まあいい。話を戻そう。まだ断片的にしか情報を入手できていないが、敵が本気でシルクを奪おうとしていたとは思えん。考えてもみろ。たった数名の戦力で、シアトル軍港の厳重な警備をくぐり抜けて、あの遺体をそっくり持ち帰るなんて正気の沙汰ではないだろう」

 空になったカップに珈琲を注ぐ。

「しかし、誰だか知りませんが潜水艦まで繰り出しているんですよ」
「ああ、そいつも妙な話だ。いくらエリオット湾の海ががら空きでも、浮上して回収するなんてリスクが高すぎる。それをするくらいなら、工作員の一人に飛行士を混ぜて大艇ごとかっ攫ったほうがマシだ。少なくともオレならそうするさ。連中、かなりの精度で基地内の状況を把握していたのだろう? それくらいの用意があったとしてもおかしくはない。まあ、いずれにしろ。オレはもう少し残って、情報を整理してから日本へ戻るよ。どうにも嫌な予感がするからな。だいたい合衆国の反攻作戦前に起きたことも気に入らん。まるで水を差すようじゃないか。ええ?」
「確かに、偶然にしては出来すぎですね」
「矢澤君、そいつを必然と言うんだよ」

 六反田は珈琲カップを再び空にすると立ち上がった。その足でシアトル港へ向うつもりだった。矢澤は慌てて後を追う。洗濯屋を探すのは明日以降になりそうだった。

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