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レッドサンブラックムーン -機密解除された第二次大戦における<異世界からの干渉>および<魔獣との戦闘>に関する記録と証言について-

弐進座

前夜祭(April Fool) 9

「こいつか……」

 サイは箱に歩み寄ると、被せてあった白い布を取り払った。棺が露わになり、赤色灯に冷たく照らされる。

「墓荒らしは良い気分じゃないな――」

 オロチは棺の蓋を開けると、ライトを当てた。中に収められた人型の結晶が鈍くライトの明かりを反射させた。

「当たりだな。後はこいつを――」
「それをどうされるおつもりですか?」

 背後からだった。凜とした声が投げかけられる。オロチはウェルロッドを素早く取り出すと、振り向きざまに銃撃を浴びせかけた。細い肢体の影が機体の中を豹のように躍動し、一気に距離を詰めてくる。

――丸腰? いや違う……!

 オロチは飛び下がるとともに、一閃の煌めきが後を追う。紙一重のところで、斬撃を交わす。

避免它避けろ!」

 サイのかけ声と共に、オロチは身体を捻った。細い影へ向けて、短機関銃の銃弾が叩き込まれる。限られた空間の中に放たれた数十発の銃弾は、確実に相手を捉えるはずだった。

「急急如律令」

 細い影は素早く唱えると、紙片をばらまき、その場に伏せた。たちまち何もなかったはずの空間から十数羽のカラスが現われ、銃弾の行く手を遮る。数羽が撃ち落とされるも、残りはオロチ達へ向けて突入していった。

「なっ……!」

 カラスは嘴とかぎ爪をもって、オロチとサイに襲いかかった。二人は突然の事態に狼狽しつつも、すぐに態勢を立て直すことに成功した。打開策を見いだしたのはオロチだった。

「サイ、煙幕!」
「了解!」

 サイは手榴弾を放り投げた。爆発音と共に機内が真っ白な煙に満たされる。効果はすぐに現われた。カラスたちの動きが鈍った。やはり、目視による操作だったらしい。

「サイ、退くぞ」
「何?」
「こいつはオレ達と同業者だ。しかも、異端の業を使う輩だ。今の装備では手に負えん」

 サイは舌打ちとともに同意した。
 オロチを先頭に二人は搭乗口へ駆け寄った。その行く手を影が遮る。

「逃しません……!」

 再び、影は抜刀の態勢に入った。一閃が煌めくも硬い音ではじき返される。

「莫迦な。弾いた……!」

 オロチは影に向って嗤った。

「オレはこちらの方が得意・・でね」

 サバイバルナイフを切り返し、搭乗口へ道を開くと、そのまま湾内へダイブした。影はその後を追い機外へ出たが、二人の侵入者はエリオット湾の闇に姿を消していた。
 湾内を照らすサーチライトが影の正体を明かした。

 海軍第一種軍装クロフクに身を固めた御調識文みつぎしもん少尉だった。
 御調は海面を暫く凝視した後で、二式大艇の中へ戻った。棺の中身を確かめると、すぐに彼女は無線を起動させた。

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【エリオット湾沿岸 駆逐艦<宵月>】

『ギドー、捉えたぞ』

 レシーバーからネシスの声が伝達された。儀堂は、彼女が観測した目標の深度と方位、そして相対速度をそのまま射撃指揮所へ転送した。

 間もなく、<宵月>前部甲板に装備されたはこ型の兵装が旋回し、そこから20個以上の物体がエリオット湾へ投擲された。散布爆雷だった。

 十数秒後、控えめな水柱が3つほど海面に沸き立つ。

『水測より艦橋へ。圧壊音を確認。沈んでいきます』
「そうか――」

 儀堂は少し残念そうに言った。可能ならば捕縛しておきたかったのだ。

 <宵月>が水中に潜んだ未確認艦を捉えたのは、数十分ほど前のことだった。シアトル港を緊急出港し、彼はエリオット湾の沿岸部を辿るように<宵月>を進ませた。特に海図上、海から出入り可能な浅瀬や砂浜を念入りに探索していたのだ。その結果が、先ほどの戦闘だった。

「なぜ、敵の潜水艦がいるとわかったのですか?」

 興津が恐れるような口調で尋ねてきた。事実、彼には思いも寄らないことだった。

「わかっていたわけじゃない。言っただろう? 可能性を潰しておきたかったって」

 儀堂は眠たげに目をこすった。どうしてオレが休憩に入ろうとすると、毎度なにやら問題が起きるのだろうか。

「報告を聞く限り、第八集積所の検問を突破したのは数名だった。彼等の目的は知らないが、基地内であれだけの騒ぎを起こしながら、元来た道を引き返せるはずがない。基地内のあらゆる出入り口は封鎖され、陸路から帰還は困難だ。残りは、空路かあるいは……まあ、そんなところかな」

 海路を選んだとしても、適切な手段は絞られてくる。何しろ、エリオット湾は連合国の庭だ。小型のボートで沿岸部まで出たとしても、すぐに航空機か哨戒艦に捕捉されるだろう。

 なるべく姿をさらさずに帰還する手段が望ましかった。

「エリオット湾は防潜網が張られていない。味方の潜水艦も出入りするからね。それに我々の敵は魔獣だ。こんなところに敵意を持った潜水艦が乗り込んでくるなんて、誰も予想は付かないだろう?」
「艦長は予想されていましたが……」
「オレだって仮説の域が出なかったんだ。だからこそ証明が必要だった」

 幸いと言うべきか、儀堂の予想は的中し、不届きな侵入者は海に没した。まったく有り難いことに、そこの水深は深くなかった。

「副長、すぐにおかへ連絡して工作艦の手配と意見具申の用意を頼む。あの未確認艦を浮揚サルベージするよう、六反田閣下に伝えてくれ」

 少なくともこちらの呼びかけに応えなかったのだから、味方ではないはずだ。では、どこの勢力のものなのか、サルベージすれば正体もわかるはずだった。

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