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レッドサンブラックムーン -機密解除された第二次大戦における<異世界からの干渉>および<魔獣との戦闘>に関する記録と証言について-

弐進座

前夜祭(April Fool) 8

 シアトル港の日本海軍管轄区で起きた混乱は、夜半から日をまたいだ頃合で頂点ピークに達した。集積所で巻き上がっている火炎の柱は、岸壁に停泊中の<宵月>からも視認できるほどだった。

「何事だ」

 艦橋へ儀堂が上がった儀堂は、すぐさま状況を陸上の連絡支部へ問い合わせた。まったく話にならないということだけがわかった。

 誰も何もわかっていない。

「いったい何が――」

 副長の興津も困惑している様子で尋ねてきた。こっちが聞きたいところだった。

「わかっていることは何者かが侵入して、この騒ぎを起こしたということだけだ」

 問題は、その目的だった。誰が、いったい何をしにここまで来たのだ。
 こんな騒ぎを起こして――。

 ――いや、待て。それが狙いか。だとしたら……。

「副長、すぐに戦闘配置だ。艦を出す」

 興津は疑問を覚えたが、差し挟むことをしなかった。北太平洋の激戦から、この艦長の言うことに絶対的な信頼を置くようになっていた。

「総員、戦闘配置。緊急出港準備!」

 興津は高声令達器を通して、艦長の意思を伝えた。すぐさま機関室へ連絡を取る。

「艦長、機関発揮まで30分ほどかかるとのことです」
「わかった。機関始動と同時に沖へ出してくれ」
「承知しました。の目標は、この艦だとお考えですか?」

 興津は港の攻撃から避けるためだと解釈していた。残念ながら、儀堂の答えは違った。

「違う。敵の目標は不明だ」
「では、港の火災に巻き込まれぬ為に出すと?」
「それも違う。ただ、オレは可能性を潰しておきたいだけなんだ」
「可能性……?」

 興津は余計に何もわからなくなった。
 儀堂は禍々しい赤色に照らし出されたエリオット湾へ目を向けた。

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 グレイたちと別れて30分後、オロチとサイは目標近くに辿り着いた。彼等の遙か後方では相棒達が日本軍相手に派手に暴れ回っていた。おかげで、彼等がいる付近の警備は薄くなっている。

 二人は3分もかからず、装備を変更すると、それぞれがゆっくりとした足取りで目標へ向かっていった。

 その先には桟橋が造られている。

「誰だ!?」

 懐中電灯の明かりが向けられ、同時に殺気だった声で誰何すいかが発せられる。

「君たち待ちたまえ」

 桟橋付近の警備兵は二人しかいなかった。彼等の目前には、第一種軍装クロフクに身を固めた海軍士官が立っている。襟章は大尉相当のものだった。

「失礼しました」

 警備兵はすぐに詫びを入れ、一礼した。二人の視界が下向きになったとき、海軍士官は流れるような動作で懐から得物を取り出した。空気の抜けたような音がするや、警備兵の片方が崩れ落ちた。意外なことに、もう片方の反応は悪くなかった。すぐに飛び下がると、肩にぶら下げたM50短機関銃を構えた。

「貴様よくも!」

 引き金に指がかかる直前で彼の意識は永遠に途切れた。背後から忍び寄ったサイが延髄に深々とナイフを差し込んでいた。

 サイはずぶ濡れになっていた。彼は軽装に着替え、少し離れたところから海へ潜り、桟橋側から警備兵の背後へ回り込んでいた。

「危なかったな」

 サイは自身が片付けた兵士の亡骸を海へ投げ捨てた。海軍士官役のオロチがいかにも残念そうな顔で、もう片方の兵士を海へ投棄する。

「助かったよ。君が倒した兵は悪くない奴だったな。良いセンスを持っている」

 サイは不審な目で見つめ返した。

「同胞への情けか?」
「まさか。あくまでも戦士としての評価だ」

 オロチは思わず口角を上げて言った。本心から心外だった。彼が自身の母国に対して、特殊な感情をいだいたことはなかった。オロチは、自身以外の何者かに忠誠を誓う習慣を持たない男だった。忠誠や愛国心という感情について、未だに彼は理解できなかった。なにゆえ自身の人生リソース無償・・で第三者のために割かなければいけないのだ?

「こいつの銃声を聞いて、咄嗟にあの動きをできるものは少ないんだ。今まで、彼を含めて3人ほどしかいない。うち2人は、こいつの造った国の人間だったがね」

 オロチの右手には特殊な加工が施された拳銃が握られている。銃身部分に小さな穴が空き、発砲音を抑える仕組みになっている。開発国ではウェルロッドと呼ばれている。この世界では数少ない消音拳銃だった。

 オロチは懐にウェルロッドを収めると、サイと共に桟橋を渡った。鯨にも似た巨大な機影が見えてくる。二式大艇だった。

 二式大艇はシアトル港内でも、かなり奥に係留されていた。そこはエリオット湾から押し寄せる波をカバーするため、離岸堤ヘッドランドと消波ブロックで囲まれている。

 集積所では、未だに爆発音に銃声が響いているが、先ほどよりも小さくなっているのがわかった。どうやら残された時間はあまりないらしい。

 オロチとサイは機体横の扉を開くと中へ足を踏み入れた。赤い室内ランプが灯り、機体中央に収められた直方体の箱を浮き上がらせていた。

 彼等の目標だった。

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