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レッドサンブラックムーン -機密解除された第二次大戦における<異世界からの干渉>および<魔獣との戦闘>に関する記録と証言について-

弐進座

前夜祭(April Fool) 2

 勲章の授与式が終わり、その後に懇親会が催された。本郷と彼の中隊員が慣れない合衆国式のフランクなパーティーから解放されたのは、3時間ほど後のことだった。パットンは本郷をいたく気に入ったらしい。あれほどの戦功を立てておきながら、謙遜する姿勢をより一層評価されていた。サシでバーボンをやろうと誘われるほどだったが、本郷は丁重に断った。

「ずいぶんとパットン将軍に気に入られましたね」

 帰りの車の中で、中村中尉はご機嫌だった。アルコールが多分に含まれた空気が口から放たれていた。本郷は窓を開けた。
 やはり慣れないことをすべきではなかった。己の思考が鈍っているのがわかる。酒が不得意な本郷だったが、最初の乾杯チアーズを避けることはできなかった。

「まあ、そうみたいだね」

 本郷は夕暮れに包まれる外の景色を眺めながら言った。その膝には包みが置かれていた。

「その包みはなんです?」
「ユナモへお土産だよ。ほら、ブラウニーケーキがあっただろう? 少しばかり包んでもらったんだ」

 中村は心底感心した表情を浮かべた。彼の思考から全く外れた行動だった。

「さすがはといいますか、所帯持ちの考えることは違いますね」
「はは、そうかな。何というか後ろめたくてね」
「……と、言いますと?」
「ボッティンオーで戦っていたのは僕らだけじゃないだろう?」

 中村は真顔になり、少し恥じ入った表情で肯いた。

「ユナモがいなかったら、今頃僕の中隊は全滅していたよ。もちろん僕自身を含めてね」

 本郷は独り言のように言った。

「ユナモだけじゃない。ネシス、彼女もそうだ。僕らは彼女らのおかげで戦えているんだ」

 中村から本郷の顔を見ることはできなかった。彼の上官は車外の光景を眺めたままだった。恐らく中村が放つアルコールの臭気を避けるためだけではないだろう。

――やはり、隊長は納得されていないのだろうな。

 つい六日前の出来事だった。
 彼の上官は、かつてないほど激しい怒りを露わにしていた。

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【アメリカ合衆国 シアトル港 日本海軍連絡支部】
 1945年3月25日 午後

 中村が上官が怒るのを見たのは、シアトル港内にある帝国海軍の連絡支部だった。仮設の事務所として、港内のビルを借り受けていたものだ。そのとき彼等は支部内の簡素な会議室にいた。

「それでは話が違うではありませんか?」

 本郷の口調こそ穏やかだったが、目つき険しいものになっていた。普段の本郷を知る中村は、このとき恐怖に近い驚きを感じていた。本郷は怒気を越えて、殺気に近いものを双眸から放っていた。剣呑きわまりない雰囲気だが、対峙している海軍将校は全く意に介さぬようだった。むしろ、愉しんでいるようにすら見えた。

「話とは、どういう話かね?」

 六反田はパイプ椅子にでっぷりとした身体を沈めていた。背後には副官の矢澤が控え、少し離れた席に青年士官と少女がいた。その少女は、ユナモ同様に銀髪だった。

「私はこの子を、ユナモをあなたの機関で保護していると聞いてきたんです。しかしながら、先ほどからあなたの話を聞くに、この子を戦闘に参加させることが前提のようだ」

 おいおいと中村は思った。相手が海軍とは言え、仮にも「少将」を「あなた」呼ばわりするとは。

「はて? 初めからそのつもりで話していたが。君の認識は違うようだな」
「やはり……。独逸の重戦車の在処について聞いたのも、そのためですか?」

 ボッティンオーで、ユナモと共に託されたVIII号戦車マウスのことである。現在、シアトル近郊の遣米軍駐屯地に秘匿保管されていた。六反田は、マウスのことについてしきりに聞いてきたのだ。どうやら彼の機関に移管する話を進めているらしい。海軍が重戦車に興味を持つなど、おかしな話だった。

「どうやら君は、その子を戦車に乗せたくないようだね」

 面白いものを見る目つきで六反田は言った。本郷は己の中で怒りが増幅されていくのを感じた。

「当たり前です」
「なぜかね?」
「子どもではありませんか!!」

 ついに本郷は激昂した。ネシスは目を見張り、ユナモがびくりと身体を震わせた。本郷ははっと我に返り、自分を落ち着かせた。

「この子を見てください。年端もいかぬ幼子ですよ。本来ならば我々が庇護すべきものです。戦車に乗る? それで戦場へ向わせるのですか? それは我々大人がやるべきことだ」

 六反田の態度に少し変化が見られた。口元は笑っていたが、瞳に僅かながら相手に対する敬意が見られた。

「しかし、君はこの子とともに戦車でドラゴンを屠っただろう」
「ええ、後悔しています。あのとき、ユナモの正体を知っていれば……。いや、これは僕の言い訳だ。とにかく、あなたがこの子を戦車に乗せるのならば、僕はこの子を連れて帰ります」

 本郷は立ち上がった。彼の知り合いに日本郵船の幹部が居た。たしか今度のYS87船団に乗り込んでいたはずだ。本郷は学生時代、その幹部に貸しをつくっていた。それをここで返しもらう。ユナモを内地にいる本郷の家族の元へ届けてもらうのだ。

 銀髪の少女が口を開いたのは、そのときだった。この部屋へ入室して以来、ずっと彼女は沈黙を貫いていた。

「ホンゴーとやら、お主は大事なことを忘れておる」
「君は……」
「妾はネシス。ユナモの眷族じゃ。お主はユナモの意思を問うたのか?」
「ユナモの意思?」

 本郷は虚を突かれた顔をユナモへ向けた。ユナモは何か悪いことをしたような困った顔になっていた。

「ワタシハ、アノ箱マウスニ乗ッテイタイ」
「それは……」

 今度は本郷が困った顔になる番だった。
 

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