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レッドサンブラックムーン -機密解除された第二次大戦における<異世界からの干渉>および<魔獣との戦闘>に関する記録と証言について-

弐進座

太平洋の嵐(Pacific storm) 15:終

【オアフBM 大支柱内部回廊】

 回廊内を走りながら、儀堂は戸張を非難した。

「莫迦か、君は? なんでそんなものを持ってきたんだい? それを持っていたら、あの竜はどこまでも追いかけてくるぞ」

 戸張の腕には、黒竜の卵が抱えられていた。

「テメエのガキに向けて火球を放ってきたんだ。きっと、あのクソトカゲは正気を失ってるぜ。それにわざわざBMここまで来たんだから、戦利品のひとつくらい持って行ってもいいだろ?」
「莫迦野郎、何が戦利品だ! 巫山戯ふざけているのか? 捨てろ!」
「やなこった! だいたい、お前こそ巫山戯てんのか!? 艦隊で噂になっていたが、本当だったんだな。独逸の令嬢に、麗人の女性士官、おまけにこんな別嬪の鬼ネシスにまで囲われて、良いご身分なこって。そりゃ、小春がへそを曲げるわけだぜ」
「小春ちゃんは関係ないだろ!」
「あるね! 多いにある!! あいつ、オレに八つ当たりしてくるんだぜ! とばっちりもいいとろだぜ!!」

 結局のところ、<宵月>に着くまで終始二人は罵倒し合うことになり、ネシスや他の兵士から呆れられることとなった。

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【オアフBM内部 駆逐艦<宵月>】

「艦長、ご無事で何よりです」

 艦橋に姿を現わした儀堂を見て、興津は心底安堵した表情になった。

「申しわけありません。あの竜が突入するのを防げずに――」

 興津は恥じ入るように頭を下げた。彼にとって、黒竜の復活はあまりに突然だった。迎撃命令を下す間もなく、竜は支柱へ突入してしまったのだ。興津は黒竜への対処よりも先に艦内の動揺を抑える方へ専念しなければならなかった。いくら帝国海軍の将兵が任務に忠実とはいえ、BM内部という未知の領域へ置き去りにされた状況下では、士気の維持にそれなりの苦労が伴うのだった。

「仕方が無いさ。それよりも戦闘用意だ。もうすぐ、あの――」

 <宵月>のすぐ側で空気を裂くような音が響き渡る。黒竜が支柱を突き破って出てきた。黒竜の翼は千切れ、かつての勇壮な姿は影も形も無かった。今や醜くも狂える獣と化していた。

「ネシス! 飛ばせ!」
『任せよ!』

 <宵月>を包む方陣が赤く光り、5000トンを越える船体が浮かび上がる。同時に黒竜が<宵月>へ向けて、突進してきた。すかさず、儀堂は艦内の無線に切り替えた。

「噴進砲発射準備。照準、黒竜」
「照準、宜し。測的、距離300」
「撃て。今度こそ跡形もなく吹き飛せ」

 黒竜へ向けて、500キロの火薬の矢が超高速で叩き込まれた。たちまち二つの爆炎が黒い巨体を包み込み、断末魔の叫びとともに全てが焼却された。
 至近距離の着弾で、爆風が艦橋の窓を揺らし、その一部にひびが入る。

「これで本当に終わりだ」

 <宵月>の艦橋から、眼下にある消し炭の塊を眺めながら儀堂は呟いた。

『ああ、終わった。ギドー、妾は話さねばならんことがある』

 ネシスの言葉は最後のほうで消え入るような小声となっていた。

「あの少女のことか?」
『それもだが、実はそれ以上に告げねばならんことがあった』
「告げねばならんこと?」

 どうもきな臭い香りがした。ある種の既視感があった。その昔、今は無き彼の妹が全くの不注意から、ある伝言を伝え忘れたときがあった。伝言の主は軍令部の高官からで、海軍省への出頭を命じるものだった。あのときも、こんな声音で真琴は話しかけてきた。

「……なんだい?」
『この月は主を失った。となれば、後はただ滅するのみじゃ。お主も月の最期は知っておろう。爆散の後に、行く末は塵芥に――』
「よろしい」

 儀堂はすぐに喉頭式マイクを切り替えると、「総員、耐衝撃」と叩きつけるように高声令達器スピーカーへ命じた。

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【北太平洋 オアフBM近海】

 YS87船団と第三航空艦隊を覆う脅威は、劇的な終わりを告げた。進行を止めたオアフBMより軋むような音が響き渡り、続いて全体にひびが入って、紫色の光が漏れた。

 次の瞬間、太平洋全域を覆わんばかりの光が放たれた。夕刻の空を真昼のような明かりに包んだ後に、黒い月は霧散した。

 第三航空艦隊とYS87船団の人々は、まばゆい光に一時的に視力を奪われることになった。やがて彼等が視界を回復したとき、無数の黒い塵が雪のように舞う光景が現出していた。

 それは嵐の終わりを告げるものだった。

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