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レッドサンブラックムーン -機密解除された第二次大戦における<異世界からの干渉>および<魔獣との戦闘>に関する記録と証言について-

弐進座

太平洋の嵐(Pacific storm) 12

【オアフBM 大支柱内部回廊】

 戸張を捜索するため、足を踏み入れた儀堂は支柱内部の通路を歩いていた。それらは曲がりくねっていたが、寸法は通路と言うよりも回廊と呼ぶに相応しい大きさだった。
 彼が壁内を蠢く巨大な影に気がつくには時間を要さなかった。

「魔獣――」

 他の兵士達に動揺が走る中、ネシスがフッと笑いを漏らした。

「案ずるな。こやつらはまだ赤子じゃ。目すら開いておらぬよ」
「この柱はなんだ?」

 儀堂は先を行くネシスの背中へ問いかけた。彼の目には大小様々な魔獣の影が映っている。


「聞く必要があるのか? お主、うすうすは感づいておるのだろう? お主等がBM呼ぶものの正体に」
 ネシスは振り向かずに答えた。儀堂は自分が愚問を口にしたと気がついた。確かに、彼の中である種の結論は出ていたのだ。

「繁殖場、あるいは工場と言った方が正しいのかな」
「孕み場じゃよ」

 ネシスは正すように言った。

「妾は、ここの柱の中で心も体も全て蝕まれ、引き替えに獣どもを肥えさせることになった」

 唐突に立ち止まり、ネシスは振り向いた。刹那、儀堂は自身の内部に恐怖と後悔を覚え、戸惑いを覚えた。ネシスをここに連れてきたのは、誤りでは無かったかと思っていたのだ。彼女が裏切ることを懸念したわけではない。

 角の生えた少女が苦しむ姿を見たくなかったのだ。儀堂の戸惑いは衝撃に変わった。自分が万死に値する行為に重罪を犯したように思えてきた。仮にも少女を蹂躙するような行為に、自分は荷担したのではないか。

 振り向いたネシスの顔は寂しげな笑みを浮かべたままだった。

「さあ、時間が無かろう。お主の朋を迎えに行こうか」

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【オアフBM 大支柱中央空洞】

 戸張は壁の向こうに蠢く影、その正体に身震いした。

――つまり、ここはあれか……魔獣の飼育場か。

 冗談ではなかった。こんなところにいつまでもいられるか。
 戸張はあたりを見回してみたが、出口らしいものは見当たらなかった。
 烈風で突入した際にできた穴はいつのまにかふさがれている。
 忌々しいほどに、たいした自己修復能力だった。

――仕方ねえ。

 戸張は観念したように首をふると、空洞内部の捜索することにした。
 改めて観察すると、ちょっとした球場ほどの広さだった。
 戸張は後楽園スタヂアムくらいかと思った。
 そう言えば、マウンドのように空洞中央部が盛り上がっていることに気が付く。
 ひょっとしたら出口の手がかりがあるかもしれない。
 そんな予感を抱きながら、慎重に戸張は近づいた。

 やがて、彼の期待とはかけ離れたものだとわかり、軽く舌打ちをした。
 なんでも自分の都合通りに進むわけがなかった。
 どうやら何かが埋まっているようだった。コバルトグリーンのツタにくるまれて、どうにも正体がはっきりとしなかった。まるで拘束されているかのようで、繭状に盛り上がっていた。

「棺みたいだな――」

 そんな感想を抱かせる形状だった。戸張はかるく小突いてみた。
 鈍く固い感触が手の甲に返される。
 ツタの下の容器は明らかに、このBM内部を構成する物質としては異質なものだった。

 それに――。

「ぅぅ……」

 明らかに、うめき声らしきものが聞こえた。一瞬、ぎょっとするも戸張は己を奮い立たせるように繭へ向って叫んだ。

「誰かいるのか……!?」

 しかし、何も返されなかった。

 しばらくツタの塊を眺めていた戸張だが、おもむろに懐からナイフを取り出した。
 いざというときのためにしまっていたものだ。自決するためではない。飛行中に脱出し、落下傘で着地したときに、紐を素早く切り離すためだった。

 彼は震えないよう両手でしっかりとナイフを持ち、コバルトグリーンのツタに切れ目をいれた。不快な音を立ててぬらりとした液体が流れ出す。いくつかの悪態をつきながらツタを引き剥がしていき、ついに繭の本体が姿を現わした。

 銀色の筒だった。筒にはガラスと思しき、のぞき窓がついていた。

 戸張はのぞき窓周辺のツタを全て引き剥がすと、窓を覗き込んだ。

「なっ……」

 直後、彼は全ての言葉を失った。

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