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レッドサンブラックムーン -機密解除された第二次大戦における<異世界からの干渉>および<魔獣との戦闘>に関する記録と証言について-

弐進座

太平洋の嵐(Pacific storm) 8

【オアフBM内部】

「……ここはなんだ?」

 戸張は視界を確保するため、烈風の天蓋キャノピーを開いた。生臭い香りが鼻腔に侵入してきた。似たような香りを嗅いだことがある。野戦病院、それも重傷者が治療されている区画だ。野ざらしの血と臓物が放つ臭いだった。

 戸張は眉をひそめると、機関の回転数を僅かに落とした。視界が不良なうえ、周囲には烈風を駆るには手狭な空が広がっていた。

「おい、まさか……BMの内部か?」

 誰に話しかけるわけでも無く、戸張は呟いた。
 内部の構造を見るに、その可能性が高かった。壁面が湾曲し、巨大な球状の空間にいるようだった。
 戸張は無線機で僚機と連絡を取ってみたが、雑音が返ってくるだけだった、

――無線も通じねえと来てやがる。勘弁してくれよ。

 どこかに脱出路がないかと周囲を改めて見渡してみる。
 BM内部は薄暗くぼんやりとしていた。BM内部は全体的に薄い緑色で照らされていた。

 まったく不愉快な光景だった。戸張は緑色烈風の塗装色が好きだが、BM内部の緑は彼の好みから外れていた。毒々しい、コバルトグリーンだった。加えて内装も彼の好みから外れていた。いや、これを好みに思うものは人類全体でも少数派だろう。

 壁面は、いくつもの巨大なこぶの塊に覆われ、それが粒状に全体に広がっていた。それらを縫うように血管のような管が通っている。

 中心部を貫くように、大木のような巨大な柱がそびええている。その大木もいくつものこぶに覆われていた。性差や年齢を問わず、生理的な嫌悪感を思わせる風景だった。

――畜生、閉めときゃ良かった。

 戸張は後悔と共に、天蓋を閉じた。遺憾ながら、不快な空気が操縦席内に補充されてしまった。

「さあて、どうするか――」

 それは直感だった。飛行士パイロットの感というものか、あるいは生存本能の所作か由来は不明だ。明確な殺意を戸張は感じた。直後、戸張はスロットルを全開にし、操縦桿を倒した。鋼鉄の翼が右へ急旋回し、巨大な火球が機体下部を通り抜けていく。あのとき判断が遅れていたら、彼は空中で火葬されていただろう。

「トカゲ野郎!! 不意討ちなんざ、10年早いぜ!!」

 攻撃手段から、瞬時に敵の正体をワイバーントカゲ野郎と予測し、火球が放たれた方向を視認する。残念ながら、彼の予測は的中しなかった。確かに、相手はワイバーンタイプだった。2つの点で、彼の予想は裏切られた。1つ目は色だった。通常のワイバーンは濃紺だったが、そいつは黒だ。二つ目は大きさだった。そいつは通常よりも遙かに大きな個体だった。大きすぎた。控えめに見積もっても、2~3倍はある。合衆国が配備しているB-29と同程度に思える。

――黒い飛竜だと!!

 黒竜ブラックワイバーンは急旋回すると、戸張の機体を指向した。旋回半径が恐ろしく狭いうえに、戦闘機と劣らぬ速度だった。それでいて、大きさは戦略爆撃機と変わらぬほどの化け物だ。

「反則じゃねえか!!」

 思わず戸張は叫んだ。そう思わせるほどの飛行性能だった。

 黒竜は、戸張の機体を目指して真っ直ぐ飛んできた。その冷たい眼光は深緑の侵入者烈風を捉えている。

 頬を伝う冷や汗を感じながら、戸張は口元を歪ませた。気に入った。

「いいねえ!! こういうのを待ってたんだよ!!」

 脱出路は不明。

 それに、どのみち、こいつを倒さない限り捜索もできないだろう。

 ならば、どうする?

 愉しむしかないだろう。

「さあ、格闘戦ドッグファイトだ!!」

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