レッドサンブラックムーン -機密解除された第二次大戦における<異世界からの干渉>および<魔獣との戦闘>に関する記録と証言について-

弐進座

太平洋の嵐(Pacific storm) 5

【北太平洋上 USS合衆国海軍第5艦隊 戦艦<ニュージャージー>】

 初弾命中の報告に戦艦<ニュージャージー>のCICは沸き立った。すぐにハルゼーが一喝をいれる。

「バカめが! あんなデカい的外す方がどうかしているだろうが!」

 実際のところ、ハルゼーの言うとおりだった。相手は直径30キロはある球体なのだ。誇張的な表現ではなく、目を瞑っていてもあたるほどの大きさだった。

「すぐに攻撃隊を母艦へ収容させろ。あいつは本艦と<アイオワ>でたたく」

 アイオワ級戦艦<ニュージャージー>とネームシップ<アイオワ>より放たれた16インチ410ミリの徹甲弾はBMへ突き刺さっていた。それらは初弾で命中打となった。しかしながら、BMは小揺るぎもしなかった。

畜生めがガッデム戦艦バトルワゴンをかき集めろ。あんなもんに太平洋をうろつかれてはかなわん」

 ハルゼーはうなるように幕僚へ命じた。彼はアイオワ級二隻のほかに、巡洋艦を多数引き連れていたが、それでもあの黒い月の足止めに不十分に見えた。

 幕僚の一人はすぐに付近を航行中のトーマス・キンケイド中将率いる第7艦隊に支援要請を出していた。彼は数少ないパールハーバーの生き残りだった。

「サー。第7艦隊がこちらに向かっています。彼らの到着まで、日本海軍IJNと協同で時間を稼ぎましょう」

 ハルゼーは幕僚の一人の顔を見た。なかなか堂の入った面構えだった。確か、こいつは最近赴任してきた――。

「ハインライン大佐だったな」
「サー、幸い、日本の航空戦力は無傷のようです。今すぐIJNの第三艦隊へ攻撃要請を出しましょう。彼らもそれを待ち望んでいるはずです」

 ハルゼーは第三航空艦隊に対して、攻撃待機要請を出していた。戦場の混乱を避けるためという名目だったが、本音は日本人ごときに横槍を入れて欲しくなかったからだ。しかし、BMの質量と脅威が明らかな今となっては、話は別だろう。

「イエローどもの手を借りるのは、癪だ」
「サー、しかし――」
「わかっている。大佐、すぐに奴らの指揮官へ伝えてくれ。お前らの番だ。逃げずにやれよと」

 ハインラインはハルゼーの言ったことを、彼なりに翻訳マイルドにして日本の艦隊へ伝えた。

【北太平洋上 BM周辺空域】

 合衆国の第5艦隊から、支援要請が発信されて10分後、日本側の攻撃が本格的に始まった。まず先に流星がBMに対して、突貫を開始した。機数にして52機ほどだった。浦賀水道を出たときは100機あまりあったが、ワイバーンとの戦闘により、半数近く損耗していた。

 烈風も少しはマシな程度の残存数で、60機程度しか残っていない。現状、三航艦が出せる全力は100機あまりだった。次回出撃にはさらに減じて、攻撃隊として体をなさなくなる恐れがある。航空機に限らず、兵器は運用するたびに、どこかしら壊れていくものだった。三航艦が極端に落ちているのは、撃墜によるものではなく、無理な戦闘による機体損傷によるものだった。

 流星隊は統制の取れた隊形を維持しながら、BMへ突入し、50番500キロ爆弾を見舞わせた。黒い球体の一部で、噴火のような爆発が断続的に巻き上がった。流星の爆撃は時間にして20分ほどで完了した。機体が著しくかるくなった流星隊が母艦へ向けて、帰投していく中、入れ替わるように烈風が突入を開始した。

 同時にBMが再び怪しく輝き始めた。
 
「まずい! 全機散開! 全周囲攻撃だ!」
 戸張は罵倒するように命じると、操縦桿を引き起こした。

――ええい、クソ! ボヤボヤしているからこんなことになりやがる!

 彼の機体が急旋回を終える前に、自身の判断が誤りだと知った。BMが実行したのは全周囲攻撃ではなかった。それは戸張の機体が進行する向きへ、網を張るように展開された。嫌な悪寒が戸張の背中を駆け巡った。蜘蛛の巣へ飛び込む蜻蛉のような気分だ。

 BMの攻撃手段は二通りだ。全周囲に対する光弾攻撃、そして――。

「ああ、クソ! そっちか!!」

 彼の視界いっぱいに数十キロの方陣が展開された。戸張は、その方陣のど真ん中へ突っ込んで行った。

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