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レッドサンブラックムーン -機密解除された第二次大戦における<異世界からの干渉>および<魔獣との戦闘>に関する記録と証言について-

弐進座

死闘(Death match) 5

 強力な遠心力が本郷の平衡感覚を摩耗させる。三半規管が急激なGに耐えきれず、神経を圧迫する。本郷は嘔吐の欲求に耐えながら、車長席の手すりにつかまって耐えた。スピンが収まると同時に車内に白煙が充満するどうやら機関部をやられたらしい。ここまでだ。本郷は即断すると、絞り出すように叫んだ。

「全員、降車!」

 本郷は怒鳴るように命じた。直後、乗員が近くの脱出口から転がり出る。一人だけ彼の命令に耳を傾けないものが居た。操縦手だった。横転した車内、困難な姿勢のまま本郷は肩を揺さぶった。壊れた浄瑠璃人形のように、頭が直角に垂れ下がる。頸椎損傷による即死だった。本郷は弔いの言葉を短く唱えると、自らも展望塔キューポラから脱出した。ふらつきそうな足を自制させながら、自身の車両を大破させた存在を確かめる。

 そいつは歪んだ塔のようにそびえ立っていた。巨体が日を遮り、影が本郷たちを包んでいた。その無機質で仄暗い瞳がじっと本郷達を睥睨している。

「畜生、そういうことか……!」

 それは50メートルは優に越しそうな巨大なギガワーム巨大蛇竜だった。胴体の直径は1メートルはありそうだ。地中から本郷車を突き上げ、スピンさせたのはこのギガワームだった。兵士達がぼうぜんとその光景を眺める中で、本郷は怒りに駆られていた。

――莫迦め。なぜわからなかった。

 自分の浅慮に憤りを覚える。どうして僕は相手が一体だけだと思い込んでいたんだ。よく考えろ。つがい・・・じゃ無きゃ子どもは造れないだろうに……!

 恐らく、あのドラゴンとギガワームはつがいなのだ。まったく形状は異なるが、恐らくこの竜種の特徴なのだろう。どちらが雄で、どちらが雌なのかはわからない。一般的に爬虫類ならば雌のほうが巨大であることが多い。ならば、ギガワームの方が母体なのだろうか。ええい、くそ。余計なことは考えるな。

「走れ!」

 部下へ命じ、本郷は駆けだした。乗員がそれに続く。ギガワームは本郷たちが駆け出すと奇怪な咆哮を上げて、追ってこようとした。しかし、アズマ小隊の残存車両が行く手を阻んだ。

「莫迦そうじゃない!」

 後を振り向いた本郷は息を切らせて怒鳴った。
 違う、間違っている。僕を守るのが任務じゃない。一秒でも長く生存し、奴らを足止めするのが任務なのだ。

 3両のチヌ車が75ミリ対戦車榴弾タ弾を放った。距離50を切った状態、ほとんど零距離といって良い。砲弾は間髪入れずに炸裂し、火炎の華をギガワームの巨体に咲かせた。

 ギガワームは咆哮すると苦しげに身体をうねらせた。外傷は認められないが、効果はあるらしい。本郷は直感で、熱が弱点なのかと思った。そう言えば地中に生息する生物には熱を苦手とするものが多い。

 ギガワームの反応に、チヌ車の乗員は沸き立った。続けて射撃を行おうとしたが、彼等の視界を橙色の炎が遮った。ドラゴンだった。ギガワームを庇うように前に出ると、一両のチヌ車を火炎で包む。たちまち車両内の温度が上がり、室内は拷問器具のような灼熱地獄と化した。幸いと言うべきか、乗員たちの苦しみは長くは続かなかった。機関部の燃料に引火し、大爆発炎上したからだ。続いて二両目も同様の運命を辿り、最後の一両はギガワームの体当たりを受けて大破した。

 ほんの1分の出来事だった。本郷は為す術もなく、その光景を呆然とみているしかなかった。彼の小隊を片付けたドラゴンとギガワームは、ダンシーズで我が子幼体を虐殺した犯人へ、漆黒の瞳を向けた。四つの虹彩に本郷の姿が映し出される。

「隊長!」

 部下に腕をつかまれ、本郷は我に戻った。ちょうどそのときだった。生き残ったイワキ小隊、中村少尉の部隊が援護射撃を開始した。走り撃ちをしたため3発外れたが、1発だけドラゴンに命中した。ドラゴンはイワキ小隊へ明確な敵意をむき出しにして追いかけ始めた。中村は本郷の指導方針ドクトリンを正確に理解していた。彼はドラゴンとの相対距離を保ちつつ、小隊を後退させた。これで当面の脅威の半分が減じた。

 本郷は中村の後退に合わせて再び駆けだしていた。残り半分の脅威ギガワームが、異常な敵意をむき出しにしていた。ギガワームは地中へ再び潜ると、本郷たちへ向けて突進してきた。盛り上がった土の波が本郷の後背に迫っていた。

「た、隊長、どこへ?」
 全速力で駆けながら、本郷車の砲手が尋ねる。
「……僕に考えがある。付いてこい!」

 確かに考えはあったが、確信は持てない。だが兵にとって、そんなことはどうでもよかった。彼等はどんなときも指揮官を求めている。ならば、少なくとも呆然と突っ立っている指揮官よりもマシだと彼は確信していた。

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