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レッドサンブラックムーン -機密解除された第二次大戦における<異世界からの干渉>および<魔獣との戦闘>に関する記録と証言について-

弐進座

緩衝地帯(Buffer zone) 1

【アメリカ合衆国 ノースダコダ州北部 ダンシーズ近郊の山岳地帯 1945年3月11日 昼】

「トキワより、バンダイへ。阻止攻撃を要請、送れ」
『こちらバンダイ。トキワ、状況知らせ』
「大規模な魔獣群に遭遇。敵は複数竜種の混合群体。タイプはワーム蛇竜バジリスク四足竜が中心。小型が大半だ。とにかく何でも良いから、ありったけの火力を叩き込んでくれ。このままでは緩衝地帯バッファを越える。送れ』
『トキワへ、位置を知らせ。七連隊の加農砲ジッカを回す。送れ』
「ありがたい。こちらは観測準備良し。修正可能。送れ」

 今井彰いまいあきら大尉は大隊本部へ座標を伝えた。

『贅沢はできないぞ。君の他にも飢えた部隊はいる。一門当たり5発までだ。送れ』

 たったの5発? 連隊には16門の重砲が配備されている。80発……それで何ができる?

「こちらトキワ、わかっている。可能ならば航空支援の要請も頼む。とにかくヤツらの南下はまずい。終わり」

 今井は無線を切った。彼は今は放棄された鉄塔の根元にいる。元は五大湖周辺の水力発電施設で精製された電気を西部へ流すために造られたものだった。道路脇の小高い丘に設置されたが、5年前の混乱のさなかで放棄され、今は奇妙に折れ曲がった鋳造芸術品となっている。

 双眼鏡を構えると、鱗の川が映し出された。山間部に通された道路を数十頭のワームとバジリスクの群れが列を成して大挙してくる。体長は5~10メートルほど、歩行速度は目測で30キロは出ているだろう。図体がでかいトカゲのくせに、足は速かった。

――あそこで引き返すべきだったか……。

 そう思わずにはいられなかった。彼が率いる第九歩兵中隊は、ダンシーズという街の近郊にある山間部の哨戒に当たっていた。大隊本部の命令では、魔獣の遭遇に際しては速やかに報告し、可能な限り戦闘を避けよとのことだった。今井は途中まで任務に忠実だった。彼は兵士を散開させ、山間を等間隔で歩かせた。哨戒範囲は、大隊本部がある近隣のキャンプ場を中心20キロ圏内の予定だった。7日間かけて哨戒を行い、明日大隊本部へ戻り、他の中隊と交代予定だった。

「恐らく駆除は完全に終わっていますよ」
「この前の戦闘でずいぶんとやっつけたからな」

 兵士達とそんなことを交わしながら、今井は山道を歩いていた。彼の故郷では桜が咲き始めていたが、ここアメリカ北部はまだ肌寒さを残していた。日によっては吐く息が白くなるときすらある。

「最後の目撃記録は去年の11月だったな」
「今日で観測180日目です。明日から警戒区域イエローから解除区域グリーンに変わりますよ」
「この緩衝地帯もおさらばか」

 彼らが行動限界に近づいたときだった。兵士の一人が、奇怪なうなり声を聞いたと報告してきた。

「そうかよくやった」

 微笑むと労うように兵士の肩を叩き、兵士も満足げに肯いた。内心ではド畜生めと思ったが、おくびにも出さなかった。別段兵士を恨んだわけでは無い。よりにもよって、今日という日哨戒期間の最後に出没してくれた魔獣を呪ったのだ。

「中隊集合!」

 今井は散開させた兵を集結させると、報告してきた兵士に先導させた。やがて山の中腹に、不自然な形状の洞窟を発見する。直径は20メートルほどでそれは明らかに自然発生的にできたのではない。何ものかが土を掘り起こし、地中へ入り込むために作り上げたものだ。

 今にして思えば、ここで引き返して無線で増援を呼ぶべきだった。しかし、間の悪いことに彼が洞窟に到着したとき、その宿主が顔を覗かしてしまった。身を隠す間もなく、爬虫類特有の縦線の瞳孔と目が合う。その数は合計10以上はあった。遅めの朝食をとるため、5~6匹の小型竜種が洞窟から這い出てきた。

「総員走れ!」

 今井の中隊は全速で山を下り、各自がジープへ飛び乗った。それから全速力で今井は鉄塔まで飛ばし、今にいたる。彼の中隊は鉄塔を中心に急ごしらえした陣地から、竜の群れを観測していた。

『トキワへ、荷物を発送する。受け取り主の様子を報告せよ』
「こちらトキワ、了解」

 今井の中隊がいる10キロほど後方から、大気を大きく震わせる音が響いた。重砲隊の試射が始まった。

 今井は再び双眼鏡で道路を確認する。まだかと思った瞬間、空気を裂くような音が響き、直後道路が破裂する。舗装材コンクリートとともに肉片、臓物、そして千切れた鱗が空中高くまき散らされる。

 今井は頬を引きつったように震わせると、少しだけ安堵した。よかった。砲隊のヤツラは手練れベテランのようだ。

「こちらトキワ、バンダイへ。修正射の要なし。残りを発送してくれ」
『バンダイ、了解』

 それから約10分に渡り、重砲隊は鱗の川竜の群れに榴弾の雨を降らせ続けた。着弾のたびに、潰れた柘榴ざくろのような模様が描かれる。壮絶の一言に尽きる光景だった。80発の100ミリ榴弾の洗礼により、山盛りの肉塊ミンチが道路へぶちまけられた。

 砲撃が突然止み、静寂と共に700メートル先から硝煙混じりの土煙、そして死臭が漂ってきた。

『バンダイより、トキワへ。これで看板だ』
「トキワ、了解。残敵を現位置にて迎撃戦闘を行う。引き続き、可能な限り支援を頼む』
『バンダイ、了解。すまない。今日は注文が多くてな。手近な部隊を増援に向わせている」
「バンダイへ。気にするな。騎兵隊の到着をここで待つ。終わり」

 今井は迫撃砲の準備をさせた。気を利かせた軍曹が、既に陣地転換を終わらせていた。土煙の向こうから、怨嗟のような咆哮が聞こえてきていた。

ロタ砲バズーカは何発残っている」
「各分隊で7~8発。合わせて30発です」

 彼より10以上年の離れた軍曹が即答した。

「わかった。オレが良いと言うまで撃たせないでくれ」

 今井は双眼鏡を構えた。煙が徐々に晴れ、のそりと小型竜種の群れが姿を現わす。数は先ほどよりも減じているが、50頭は優に越えそうだった。中隊の火器を全力で投じても処分しきれないだろう。騎兵隊増援部隊が間に合えば良いが……。

 どのみち、今井はここから容易に退くつもりはない。

 ここが緩衝地帯バッファゾーンの最終阻止区域だからだ。

 今井達がヤツラを吸収しなければ、犠牲と引き替えに手に入れた人類の生存圏が後退してしまう。


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