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レッドサンブラックムーン -機密解除された第二次大戦における<異世界からの干渉>および<魔獣との戦闘>に関する記録と証言について-

弐進座

遣米支援軍(Imperial Army) 3

「第一、第二小隊は徹甲弾を装填。目標トロール」

 本郷は車両ごとに目標を指示すると、残る第三小隊にはグールの処分を任せることにした。

「第三小隊は榴弾装填。目標グール群の中央部。射撃開始」

 第一小隊所属の2両と、第二小隊所属の3両より鉄の楔がトロールへ打ち込まれた。

 命中3発。

 内2発は最前列のトロールへ損害を与えた。左肩を吹き飛ばし、腹に大穴を空ける。残りは1発は、その後方にいるトロールの片足を吹き飛ばし、歩行不能にさせた。並みの生き物ならば、致命傷と言ってよい。しかし、奴らは魔獣だった。トロールは魔獣の中でも耐久力に優れた種族だった。その身体は鉱物によって組成されており、誠に厄介なことに痛覚がないものと推定されていた。2体のトロールは咆哮した。どうやら戦意に不足はないらしい。壊れたネジ巻人形のごとく、奇怪な動きを行いながら前進を試みている。

 本郷は眉一つ動かさず、小隊の三号車を呼びだし、腹に穴を空けたトロールへ射撃を継続させた。片足を喪った個体は戦闘不能と判定して良い。残りの車両は撃ち漏らしたトロールへ砲口向けさせる。有り難いことにトロールは飛び道具を用いない。近接戦闘にならない限り、格好の射撃目標だった。

 本郷が脅威と判定していたのはグールの方だった。的が小さい人型サイズうえに、機銃掃射をものとせずに突っ込んでくる。当たり前だが、死体なので彼等にも痛覚は無かった。

 本郷は自車の砲手に射撃の自由を与えると、キューポラから半身を乗り出した。おもむろに双眼鏡を構える。グールの群れが一心不乱に向ってきている。彼等の歩行速度はまちまちだった。腐敗の進んでいない者は駆けてくるが、骨と化した者は早歩き程度だ。先頭集団はすでに1000メートルを切っている。突如、その一角で派手な爆発が生じる。榴弾の直撃を受け、五体が千切れ飛ぶのが見えた。10体以上は処分できただろうが、本郷は土煙の向こうに新たなグールの集団を確認していた。思わず奥歯に力が入る。多すぎる。200どころの話ではない。恐らく倍以上は街に隠れ潜んでいたのだろう。

『アズマ1へ、こちらアズマ2』

 二号車の中村少尉だった。恐らく本郷と同じ懸念を抱いているのだろう。

「こちらアズマ1、送れ」
『少佐、数が多すぎます。このままでは取りつかれます』
「君の見解は正しいと思う」
『では、そろそろ?』
「いや、まだだ。早すぎる。準備が整うまで現位置を固守する」
『いっそ、突っ込んで地ならし轢き殺ししますか?』
「中村少尉、君の提案は魅力的だがトロールを排除し切れていない。今、我々が突っ込んだら、あの石の巨人と四つに組むことになる。僕としては御免被る」

 ちょうどそのときだった。本郷車へ機動歩兵の小隊長から準備が出来たと、無線が入る。本郷は機動歩兵が装甲兵車に乗車したことを確かめると、全車に後退を命じた。

「アズマ1より、全車へ。射撃停止、後退せよ。中隊全ての火器の使用を禁ず」

 三式中戦車のギアボックスで変化が生じ、歯車が駆動し始める。20トンの鉄塊が後退を開始した。本郷は機銃掃射を命じた。すでにグールの集団は双眼鏡を要さぬほど至近に迫っている。本郷はわずかに眉間に皺を寄せた。グールの中に少年の姿があった。いや少年だったものの姿だった。自分の息子次男と変わらぬ年頃に見える。本郷は、その物体に対する解釈をそこで止めた。

 グールの集団はすがるように本郷の中隊を追いかけてきた。三式中戦車は200メートルほど後退すると、全車停止した。彼我の距離が400を切ったときだった。本郷中隊は全火力を吐き出した。

「全車、射撃開始。全武器の使用を自由とする」

 三式中戦車だけではなく、機動歩兵の一式半装軌装甲兵車に装備された機銃も含め、全車両が一斉に火線を展開する。それらはある一点へ向けて集約され、次の瞬間、大爆発炎上を引き起こした。爆発は連鎖的に巻き起こり、本郷中隊の前方300メートルに炎の防壁カーテンを展開した。

『アズマ1より全車へ作戦成功。各車、掃討を開始せよ』

 炎の壁をくぐりぬけたグールは火だるまとなっていた。燃焼によって脆くなった肉体へ鉛の嵐が見舞われれ、四散する。


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