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レッドサンブラックムーン -機密解除された第二次大戦における<異世界からの干渉>および<魔獣との戦闘>に関する記録と証言について-

弐進座

横須賀空襲(This is not a drill) 4

「どこにいる?」

 何を嗤っていやがる。巫山戯ふざけているのか。

『そんなことはどうでもよかろう。それよりもお主は困っておるのだろう。妾は役に立ってやるぞ』

 ネシスは声音を急変させた。それは怜悧さを感じさせるものだった。その背後に不穏なものを感じながら儀堂は尋ね返した。

「役に立つ? 君に何ができると言うのだ?」

 ネシスは再び巫山戯た調子で答えた。

『そうさな。例えばこんなことだ』

 直後、<宵月よいづき>はその名を体現するように怪しく輝いたかと思うと、巨大な方陣を艦首へ展開させた。それは儀堂がハワイ沖で目にしたものと同じ、六芒星の陣だった。

「なっ……!?」

 儀堂は背筋を凍り付くのを感じた。ハワイ沖の惨劇が蘇る。まさか、こいつここで魔獣をひねり出すつもりか。

 儀堂の予感は外れた。六芒星は赤く光ると上空へ向けて一筋の光を放ち、消え去った。光は分厚い雲に吸い込まれると途端に変化が生じた。それは儀堂にとっては望ましいものだった。

「……こいつは魂消たまげた」
『言ったろう? 妾はきっと役に立つと?』

 からからとネシスの笑い声が聞こえてくる。

 上空を覆っていた分厚い雲が綺麗さっぱり取り除かれていた。それらは吹いてかき消されたように忽然と消え去り、気象予報通りの晴天が広がっている。そして、その蒼空のキャンパスに不気味なシルエットが浮かび上がり、蠢いているのがしっかりと見て取れた。横須賀砲撃の黒幕だった。

 儀堂はそのフォルムに見覚えがあった。それは1941年の11月、戦艦<比叡>の士官用会議室で何度も目にし、頭に叩き込まれたものだった。儀堂だけでは無く5年前、極東の島国日本西の大国アメリカへ戦を仕掛けようとしていたとき、海軍軍人ならば誰もが一度は目にしたものだった。

「アリゾナ……」
 USS合衆国海軍所属戦艦<アリゾナ>だった。巨大な鋼鉄の凶器は虚空へ浮かぶ廃墟の城と化していた。かつて合衆国海軍の一翼を担った雄姿の見る影は全くなかった。全身を藻のようなものに覆われ、黒い瘴気を放っている。真珠湾奇襲の際に黒い竜によって破壊された後甲板は無残に引きちぎられ、腐った花びらのように垂れ下がっている。

 儀堂は急速に自分の中で何かが醒めていくのを感じた。それは侮蔑と怒りの感情がない交ぜにされたものだった。<アリゾナ>に対するものでは無く、彼女アリゾナをこのような姿で晒しものにしている存在に対してだった。それは貴婦人の墓を暴き立て、冒瀆的な行為に及ぶに等しい。

――なるほど、ああ、そうかい。君達はそのような奴ばらなのか。いいだろう。オレは絶対に忘れずに覚えておこう。

 たとえ狂気の渦戦争から浪漫が途絶えたとしても、敵味方関係なく義務を終えたものへ払うべき尊厳があるのだ。それをわからぬものは等しく鏖殺してしかるべきだった。

 厚い雲保護膜を引き剥がされた<アリゾナ>は、その艦首を宵月犯人へ向けた。

 向こうはる気らしい。いいだろう。その代わり、横須賀から離れてもらう。

「艦長、機関より報告。全力発揮可能です」
「よろしい、機関全速。あれを横須賀から引き剥がす。取り舵一杯、真方位160へ変針」

 操舵手の「宜候」と共に、<宵月>は徐々に速度を上げていった。

 儀堂は受話器を取った。電路の先にいる鬼へ確固たる口調で呼びかける。

「ネシス」
『なんだ?』
「役に立て」
『ふふ、ギドー怒っているのじゃな。いいだろう。妾が役に立とう』

 鬼が嗤った。

 同時に上空より砲声。

 敵弾は8秒後に飛来した。

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